超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

文字の大きさ
上 下
34 / 39

34

しおりを挟む
 大地が変化し続け、火山の爆音がこちらにも響き渡ってくる。そんな中、アシュレは俺やハンシャたち神族の知らなかった事実を述べた。

「そうして俺は知った。魔族は人間の生まれ変わりだとな」

 京が愕然としてつぶやく。

「何……?」

 怪物は得意げに目を細めた。

「人間界で憎悪や敵愾心てきがいしん嫉妬しっとやねたみ、怨恨えんこんや絶望などを強く残して死んだ者が、魔界に転生するのだ。ただし神界や魔界の生き物に殺された場合を除くがな」

 そういえば帝王マーレイは言っていた。『魔族は魔界の各所にある「戦士の泉」から霊魂として生まれてくる。それに強力な魔族が自分たちの利用しやすい体を与え、部下として使役しえきするのだ』と。その霊魂が、よどんだ人間の成れの果てだっていうのか。

 俺たちが倒してきた魔族は、全て人間だったというわけか。帝王に生み出された3魔人以外……。それが、魔族が人間界を襲わない理由でもあるのか。

 じゃあ最近の神族が、人間界からの『感情の波濤はとう』の恩恵を受けて発展していたのも、魔族が急にその数を増やして侵攻してきたのも、全ては人間界における人口増加が原因であるわけだ。

 火炎魔人のお喋りは続いた。

「俺様や泥土魔人、凍氷魔人は人間の霊魂によらない、本物の家畜だ。俺様はそれが死ぬほど嫌だった。人間の血肉や骨を手に入れたい。一人の人間になりたい。部下の火の玉が増えれば増えるほど、俺様はそいつらとは違う自分自身に疎外そがい感を感じ、苛立っていった。そしてそんなときだ。俺様が超人類のスカウトとして、写の元を訪れたのは」

 その目が一瞬空中大神殿に向けられる。あそこに写がいるのだろうか。

「俺様は写と共に、帝王と女王の双方を滅ぼして『大統一』を起こし、神の力を授かろうと念願した。そうして俺様たちは秘密の契約を交わしたんだ。写は俺様を利用し、俺様は写を利用する、そんな契約をな」

 腕を伸ばし、炎の鞭を俺たちに突きつける。

「そして俺様たちの願いが今かなう。まずは写の、次いで俺様の願望が。そう、俺様たちの最後の敵、お前ら超人類を殺して、な。そろそろ死んでもらおうか、二人とも!」

 再生への破滅を極限まで進めている世界で、俺は京と共に身構えた。紅蓮ぐれんの炎の敵が鞭を振るう。それは今までとは違った。

「何っ?」

 何と鞭が細切れになって、ほむらの弾丸として大挙飛んできたのだ。俺は身をていして京をかばった。灼熱が俺の背中を焼く。凄まじい痛みに俺は声すら発せなかった。

 京が落下しそうになる俺を抱きすくめる。

「研磨君! 何で……」

「簡単だ。俺は自己再生出来るけど、あんたは出来ない。それだけだ」

 俺は背中の傷がふさがると、反撃しようと前を向いた。その瞬間、第2波がどてっぱらに炸裂した。

「ぐふっ!」

 アシュレは鞭を振るい続ける。炎のつぶてが第3波、第4波と連続して俺を襲った。

「はっはっはっ! どうだこの技は! その自然治癒力、いつまで持つかな?」

 くそ、熱いわ痛いわで全く動けない。しかも魔人の指摘通り、回復がだんだんと遅くなり始めていた。このままでは……

「食らえっ!」

 京が俺を盾に『無効化波動』を撃ち出す。だがアシュレは自在に宙を舞ってかわし、再び鞭を振ってきた。しかし一瞬隙が出来たことで、俺も体勢を立て直すことが出来た。

「これならどうだっ!」

 俺は青い光弾を放ち、炎のたまを消しながら、その後に続いて猛スピードで飛び出した。火炎魔人がさらっと回避する。俺はその位置を『境界認識』で正確に読み取ると、今度はそちらへ方向転換してまた『無効化波動』を射出した。更に追いかける。

 アシュレがまたかわしながら、余裕たっぷりに叫んだ。

「なるほど、光弾を盾にして接近戦か。考えたな、研磨。だが……」

 怪物は三度目の青い波をまたまたよけつつ、今度は俺とすれ違うように飛翔した。その際に至近距離から火の弾を浴びせてくる。俺は被弾し、背中を黒焦げにされた。頭がおかしくなるような、そんな激しい痛みが全身を駆け巡る。

 ちくしょう、これでも駄目か。俺は呼吸を乱しながら、また遠く離れた火炎魔人を睨みつけた。そんな俺のそばに京が飛来する。俺の耳にささやいた。

「研磨君、やはりここはどちらかが捨て身でいくしかない。サポートしてもらえるか?」

 俺も小声で返す。

「あんたが行こうってのか? いや、自己修復力のある俺が行くのがベターだ」

「ちょっと聞いてくれ。つまり……」

 俺は作戦を聞き、仕方なしにうなずいた。

「分かったよ。じゃあ頼む」

 アシュレが俺たちを腕組みして眺めている。

「相談はまとまったか? ……そろそろ決着といこうか、研磨、京」

「いいだろう」

 京が俺に背を向け、両手を広げて超高速で敵に飛び掛かった。当然そんな接近を許すわけもなく、怪物は炎の鞭をぶん回す。あの激烈な熱さと深甚しんじんな痛みは食らったものにしか分からない。それは京の肩に音立てて叩きつけられた。

「ぐああっ!」

 京が叫びながら、でも速度は落とさない。更にアシュレへと接近する。魔人の目に焦りが浮かんだ。

「馬鹿な、耐えただと?」

 化け物は『無効化波動』を撃たれることを恐れて上昇する。それを炎に包まれたまま、京が追いかけた。

「しつこい!」

 さっき俺が食らった技――炎の息が京に浴びせかけられた。彼は全身火達磨ひだるまとなって、一瞬動きを鈍らせる。だが――

「俺たちを……人類を舐めるなっ!」

 京は加速して、とうとうアシュレに組み付いた。密着した手が青く光る。火炎魔人は恐怖の悲鳴を上げた。

「そ、そんな馬鹿な……っ!」

 接触してのゼロ距離『無効化波動』を逃れるすべはない。次の瞬間、アシュレは爆発四散した。ここに、とうとう3魔人は全て消え去ったのだ。

 俺は急いで京に青い光弾を撃ち込んだ。彼の体を包んでいた炎がたちまち消える。浮遊する力を失った彼を、俺は迅速じんそくに空中でキャッチした。

 これが俺たちの作戦だった。一人が燃やされる痛みをこらえて――大変な仕事だが――アシュレに抱きつき、『無効化波動』を叩き込む。そしてもう一人が『無効化波動』で鎮火し、能力を一時的に失った相手をキャッチする。博打ばくちも博打、大博打だった。

 本来なら自己回復力のある俺が突撃するべきだった。だが京は自分がやると志願した。既に全身に負傷を抱えた自分が犠牲となれば、研磨君は能力を失わずにすぐに写君の元へ行ける。それに僕は君より弱い。たとえ僕がサポート役に回って、写君と戦うことになったとしても、恐らく勝てやしないだろう。それに、僕の治癒力ももう底を尽きている――

 俺は京を抱きかかえて、空中大神殿に運んだ。気がつけば大地の鳴動と分解は止まっていた。神界と魔界が――表裏一体の世界が人間界のように球状になるという『大統一』。それにしては中途半端だ。何か起こったのだろうか?

 大神殿を囲む結界に入ると、その力場りきばに全身総毛立つ。俺は手酷い火傷を負った京を入り口に寝かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...