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大地が変化し続け、火山の爆音がこちらにも響き渡ってくる。そんな中、アシュレは俺やハンシャたち神族の知らなかった事実を述べた。
「そうして俺は知った。魔族は人間の生まれ変わりだとな」
京が愕然として呟く。
「何……?」
怪物は得意げに目を細めた。
「人間界で憎悪や敵愾心、嫉妬やねたみ、怨恨や絶望などを強く残して死んだ者が、魔界に転生するのだ。ただし神界や魔界の生き物に殺された場合を除くがな」
そういえば帝王マーレイは言っていた。『魔族は魔界の各所にある「戦士の泉」から霊魂として生まれてくる。それに強力な魔族が自分たちの利用しやすい体を与え、部下として使役するのだ』と。その霊魂が、淀んだ人間の成れの果てだっていうのか。
俺たちが倒してきた魔族は、全て人間だったというわけか。帝王に生み出された3魔人以外……。それが、魔族が人間界を襲わない理由でもあるのか。
じゃあ最近の神族が、人間界からの『感情の波濤』の恩恵を受けて発展していたのも、魔族が急にその数を増やして侵攻してきたのも、全ては人間界における人口増加が原因であるわけだ。
火炎魔人のお喋りは続いた。
「俺様や泥土魔人、凍氷魔人は人間の霊魂によらない、本物の家畜だ。俺様はそれが死ぬほど嫌だった。人間の血肉や骨を手に入れたい。一人の人間になりたい。部下の火の玉が増えれば増えるほど、俺様はそいつらとは違う自分自身に疎外感を感じ、苛立っていった。そしてそんなときだ。俺様が超人類のスカウトとして、写の元を訪れたのは」
その目が一瞬空中大神殿に向けられる。あそこに写がいるのだろうか。
「俺様は写と共に、帝王と女王の双方を滅ぼして『大統一』を起こし、神の力を授かろうと念願した。そうして俺様たちは秘密の契約を交わしたんだ。写は俺様を利用し、俺様は写を利用する、そんな契約をな」
腕を伸ばし、炎の鞭を俺たちに突きつける。
「そして俺様たちの願いが今かなう。まずは写の、次いで俺様の願望が。そう、俺様たちの最後の敵、お前ら超人類を殺して、な。そろそろ死んでもらおうか、二人とも!」
再生への破滅を極限まで進めている世界で、俺は京と共に身構えた。紅蓮の炎の敵が鞭を振るう。それは今までとは違った。
「何っ?」
何と鞭が細切れになって、焔の弾丸として大挙飛んできたのだ。俺は身を呈して京をかばった。灼熱が俺の背中を焼く。凄まじい痛みに俺は声すら発せなかった。
京が落下しそうになる俺を抱きすくめる。
「研磨君! 何で……」
「簡単だ。俺は自己再生出来るけど、あんたは出来ない。それだけだ」
俺は背中の傷が塞がると、反撃しようと前を向いた。その瞬間、第2波がどてっぱらに炸裂した。
「ぐふっ!」
アシュレは鞭を振るい続ける。炎のつぶてが第3波、第4波と連続して俺を襲った。
「はっはっはっ! どうだこの技は! その自然治癒力、いつまで持つかな?」
くそ、熱いわ痛いわで全く動けない。しかも魔人の指摘通り、回復がだんだんと遅くなり始めていた。このままでは……
「食らえっ!」
京が俺を盾に『無効化波動』を撃ち出す。だがアシュレは自在に宙を舞ってかわし、再び鞭を振ってきた。しかし一瞬隙が出来たことで、俺も体勢を立て直すことが出来た。
「これならどうだっ!」
俺は青い光弾を放ち、炎の弾を消しながら、その後に続いて猛スピードで飛び出した。火炎魔人がさらっと回避する。俺はその位置を『境界認識』で正確に読み取ると、今度はそちらへ方向転換してまた『無効化波動』を射出した。更に追いかける。
アシュレがまたかわしながら、余裕たっぷりに叫んだ。
「なるほど、光弾を盾にして接近戦か。考えたな、研磨。だが……」
怪物は三度目の青い波をまたまたよけつつ、今度は俺とすれ違うように飛翔した。その際に至近距離から火の弾を浴びせてくる。俺は被弾し、背中を黒焦げにされた。頭がおかしくなるような、そんな激しい痛みが全身を駆け巡る。
ちくしょう、これでも駄目か。俺は呼吸を乱しながら、また遠く離れた火炎魔人を睨みつけた。そんな俺のそばに京が飛来する。俺の耳にささやいた。
「研磨君、やはりここはどちらかが捨て身でいくしかない。サポートしてもらえるか?」
俺も小声で返す。
「あんたが行こうってのか? いや、自己修復力のある俺が行くのがベターだ」
「ちょっと聞いてくれ。つまり……」
俺は作戦を聞き、仕方なしにうなずいた。
「分かったよ。じゃあ頼む」
アシュレが俺たちを腕組みして眺めている。
「相談はまとまったか? ……そろそろ決着といこうか、研磨、京」
「いいだろう」
京が俺に背を向け、両手を広げて超高速で敵に飛び掛かった。当然そんな接近を許すわけもなく、怪物は炎の鞭をぶん回す。あの激烈な熱さと深甚な痛みは食らったものにしか分からない。それは京の肩に音立てて叩きつけられた。
「ぐああっ!」
京が叫びながら、でも速度は落とさない。更にアシュレへと接近する。魔人の目に焦りが浮かんだ。
「馬鹿な、耐えただと?」
化け物は『無効化波動』を撃たれることを恐れて上昇する。それを炎に包まれたまま、京が追いかけた。
「しつこい!」
さっき俺が食らった技――炎の息が京に浴びせかけられた。彼は全身火達磨となって、一瞬動きを鈍らせる。だが――
「俺たちを……人類を舐めるなっ!」
京は加速して、とうとうアシュレに組み付いた。密着した手が青く光る。火炎魔人は恐怖の悲鳴を上げた。
「そ、そんな馬鹿な……っ!」
接触してのゼロ距離『無効化波動』を逃れる術はない。次の瞬間、アシュレは爆発四散した。ここに、とうとう3魔人は全て消え去ったのだ。
俺は急いで京に青い光弾を撃ち込んだ。彼の体を包んでいた炎がたちまち消える。浮遊する力を失った彼を、俺は迅速に空中でキャッチした。
これが俺たちの作戦だった。一人が燃やされる痛みをこらえて――大変な仕事だが――アシュレに抱きつき、『無効化波動』を叩き込む。そしてもう一人が『無効化波動』で鎮火し、能力を一時的に失った相手をキャッチする。博打も博打、大博打だった。
本来なら自己回復力のある俺が突撃するべきだった。だが京は自分がやると志願した。既に全身に負傷を抱えた自分が犠牲となれば、研磨君は能力を失わずにすぐに写君の元へ行ける。それに僕は君より弱い。たとえ僕がサポート役に回って、写君と戦うことになったとしても、恐らく勝てやしないだろう。それに、僕の治癒力ももう底を尽きている――
俺は京を抱きかかえて、空中大神殿に運んだ。気がつけば大地の鳴動と分解は止まっていた。神界と魔界が――表裏一体の世界が人間界のように球状になるという『大統一』。それにしては中途半端だ。何か起こったのだろうか?
大神殿を囲む結界に入ると、その力場に全身総毛立つ。俺は手酷い火傷を負った京を入り口に寝かせた。
「そうして俺は知った。魔族は人間の生まれ変わりだとな」
京が愕然として呟く。
「何……?」
怪物は得意げに目を細めた。
「人間界で憎悪や敵愾心、嫉妬やねたみ、怨恨や絶望などを強く残して死んだ者が、魔界に転生するのだ。ただし神界や魔界の生き物に殺された場合を除くがな」
そういえば帝王マーレイは言っていた。『魔族は魔界の各所にある「戦士の泉」から霊魂として生まれてくる。それに強力な魔族が自分たちの利用しやすい体を与え、部下として使役するのだ』と。その霊魂が、淀んだ人間の成れの果てだっていうのか。
俺たちが倒してきた魔族は、全て人間だったというわけか。帝王に生み出された3魔人以外……。それが、魔族が人間界を襲わない理由でもあるのか。
じゃあ最近の神族が、人間界からの『感情の波濤』の恩恵を受けて発展していたのも、魔族が急にその数を増やして侵攻してきたのも、全ては人間界における人口増加が原因であるわけだ。
火炎魔人のお喋りは続いた。
「俺様や泥土魔人、凍氷魔人は人間の霊魂によらない、本物の家畜だ。俺様はそれが死ぬほど嫌だった。人間の血肉や骨を手に入れたい。一人の人間になりたい。部下の火の玉が増えれば増えるほど、俺様はそいつらとは違う自分自身に疎外感を感じ、苛立っていった。そしてそんなときだ。俺様が超人類のスカウトとして、写の元を訪れたのは」
その目が一瞬空中大神殿に向けられる。あそこに写がいるのだろうか。
「俺様は写と共に、帝王と女王の双方を滅ぼして『大統一』を起こし、神の力を授かろうと念願した。そうして俺様たちは秘密の契約を交わしたんだ。写は俺様を利用し、俺様は写を利用する、そんな契約をな」
腕を伸ばし、炎の鞭を俺たちに突きつける。
「そして俺様たちの願いが今かなう。まずは写の、次いで俺様の願望が。そう、俺様たちの最後の敵、お前ら超人類を殺して、な。そろそろ死んでもらおうか、二人とも!」
再生への破滅を極限まで進めている世界で、俺は京と共に身構えた。紅蓮の炎の敵が鞭を振るう。それは今までとは違った。
「何っ?」
何と鞭が細切れになって、焔の弾丸として大挙飛んできたのだ。俺は身を呈して京をかばった。灼熱が俺の背中を焼く。凄まじい痛みに俺は声すら発せなかった。
京が落下しそうになる俺を抱きすくめる。
「研磨君! 何で……」
「簡単だ。俺は自己再生出来るけど、あんたは出来ない。それだけだ」
俺は背中の傷が塞がると、反撃しようと前を向いた。その瞬間、第2波がどてっぱらに炸裂した。
「ぐふっ!」
アシュレは鞭を振るい続ける。炎のつぶてが第3波、第4波と連続して俺を襲った。
「はっはっはっ! どうだこの技は! その自然治癒力、いつまで持つかな?」
くそ、熱いわ痛いわで全く動けない。しかも魔人の指摘通り、回復がだんだんと遅くなり始めていた。このままでは……
「食らえっ!」
京が俺を盾に『無効化波動』を撃ち出す。だがアシュレは自在に宙を舞ってかわし、再び鞭を振ってきた。しかし一瞬隙が出来たことで、俺も体勢を立て直すことが出来た。
「これならどうだっ!」
俺は青い光弾を放ち、炎の弾を消しながら、その後に続いて猛スピードで飛び出した。火炎魔人がさらっと回避する。俺はその位置を『境界認識』で正確に読み取ると、今度はそちらへ方向転換してまた『無効化波動』を射出した。更に追いかける。
アシュレがまたかわしながら、余裕たっぷりに叫んだ。
「なるほど、光弾を盾にして接近戦か。考えたな、研磨。だが……」
怪物は三度目の青い波をまたまたよけつつ、今度は俺とすれ違うように飛翔した。その際に至近距離から火の弾を浴びせてくる。俺は被弾し、背中を黒焦げにされた。頭がおかしくなるような、そんな激しい痛みが全身を駆け巡る。
ちくしょう、これでも駄目か。俺は呼吸を乱しながら、また遠く離れた火炎魔人を睨みつけた。そんな俺のそばに京が飛来する。俺の耳にささやいた。
「研磨君、やはりここはどちらかが捨て身でいくしかない。サポートしてもらえるか?」
俺も小声で返す。
「あんたが行こうってのか? いや、自己修復力のある俺が行くのがベターだ」
「ちょっと聞いてくれ。つまり……」
俺は作戦を聞き、仕方なしにうなずいた。
「分かったよ。じゃあ頼む」
アシュレが俺たちを腕組みして眺めている。
「相談はまとまったか? ……そろそろ決着といこうか、研磨、京」
「いいだろう」
京が俺に背を向け、両手を広げて超高速で敵に飛び掛かった。当然そんな接近を許すわけもなく、怪物は炎の鞭をぶん回す。あの激烈な熱さと深甚な痛みは食らったものにしか分からない。それは京の肩に音立てて叩きつけられた。
「ぐああっ!」
京が叫びながら、でも速度は落とさない。更にアシュレへと接近する。魔人の目に焦りが浮かんだ。
「馬鹿な、耐えただと?」
化け物は『無効化波動』を撃たれることを恐れて上昇する。それを炎に包まれたまま、京が追いかけた。
「しつこい!」
さっき俺が食らった技――炎の息が京に浴びせかけられた。彼は全身火達磨となって、一瞬動きを鈍らせる。だが――
「俺たちを……人類を舐めるなっ!」
京は加速して、とうとうアシュレに組み付いた。密着した手が青く光る。火炎魔人は恐怖の悲鳴を上げた。
「そ、そんな馬鹿な……っ!」
接触してのゼロ距離『無効化波動』を逃れる術はない。次の瞬間、アシュレは爆発四散した。ここに、とうとう3魔人は全て消え去ったのだ。
俺は急いで京に青い光弾を撃ち込んだ。彼の体を包んでいた炎がたちまち消える。浮遊する力を失った彼を、俺は迅速に空中でキャッチした。
これが俺たちの作戦だった。一人が燃やされる痛みをこらえて――大変な仕事だが――アシュレに抱きつき、『無効化波動』を叩き込む。そしてもう一人が『無効化波動』で鎮火し、能力を一時的に失った相手をキャッチする。博打も博打、大博打だった。
本来なら自己回復力のある俺が突撃するべきだった。だが京は自分がやると志願した。既に全身に負傷を抱えた自分が犠牲となれば、研磨君は能力を失わずにすぐに写君の元へ行ける。それに僕は君より弱い。たとえ僕がサポート役に回って、写君と戦うことになったとしても、恐らく勝てやしないだろう。それに、僕の治癒力ももう底を尽きている――
俺は京を抱きかかえて、空中大神殿に運んだ。気がつけば大地の鳴動と分解は止まっていた。神界と魔界が――表裏一体の世界が人間界のように球状になるという『大統一』。それにしては中途半端だ。何か起こったのだろうか?
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