超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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 並んで飛行している京が、唖然として漏らした。

「君はどこまで成長するんだい、研磨君」

 俺たちが距離を詰めていくと、魔人がようやくこちらに気付いたようだ。軽い驚きで目を見開いている。

「ほう、裏切り者の京に救われたか、研磨」

 奴の周りを何百もの火の玉が囲い、こちらに敵意を放出してくる。俺と京は行く手をさえぎられ急停止した。

 その頃にはもう、雲すれすれに浮かび上がる荘厳そうごんな建築物が視界に捉えられた。京がその美しさに感動したのか、ほうと溜め息をつく。

「ドーリア式か。アテナイのパルテノン神殿みたいだな」

 よく分からんが、屋根、多数の柱、土台が綺麗に区分けされた、『神殿』らしい建物だった。その世界遺産的構造物を見物するのは後回しだ。俺は叫んだ。

「アシュレ! 今度こそおめえを倒してやる! 一対一で勝負しろ!」

 火炎魔人は一瞬呆けた後、おかしさが急激にこみ上げてきたとばかり、大笑いして腹を抱えた。

「馬鹿か、お前。まず俺の部下たちに勝ってからものを言うんだな。負け犬君」

 そして部下たちを顎で使った。

「行け、者ども」

 火球の群れが一斉にこちらへ飛来してくる。俺はちゅうぱらで手刀衝撃波を射出して迎え撃った。京は『無効化波動』で対処する。魔族が真っ二つに裂けたり粉砕されたり、あるいは青い光弾で消滅したりと、その数を減殺げんさいされる。だが生き残った奴がまっしぐらに突進してきて、俺や京にぶち当たった。俺が連中と最初に激突したときと同じだ。圧倒的な数の暴力。皮膚を通して肉が焼ける痛みに俺は苦悶した。

「くそっ」

 俺には驚異的な回復能力が備わっているが、京にはない。京はハンシャ女王や帝王マーレイ同様、他人の傷は治せても、自分のそれをいやすことは不可能なのだ。京は鉄の棒を振り回して火の玉を粉砕していくが、接近戦ではさすがに遅れを取る。たちまち体中火傷やけどだらけになった。

「京! いったん引け! 俺がこいつらを全部ぶちのめす!」

「……すまない」

 京は俺とは違って、勝てない喧嘩に命を張るような愚か者ではなかった。俺の言を素直に聞き入れ、上空へと逃走する。

 俺はジグザグに飛びつつ、衝撃波や『無効化波動』で追いすがってくる魔族たちを蹴散らした。何も考えなくていい。ただひたすら火の玉を潰し、滅殺めっさつすればいい。俺はいつの間にか写とアシュレへの復讐も、ミズタとマリを失った悲哀も忘れ、この喧嘩に没頭していた。ときたま炸裂する体への衝撃と痛みに――すぐ治るがゆえ――心地よさすら感じた。

「ほう……」

 火炎魔人の感嘆が鼓膜に届く。俺は八面六臂はちめんろっぴの活躍で、あらゆる角度から体当たりしてくる火の玉を、様々な角度でもって迎撃し続けた。左右の手刀を間断なく振り抜き、時には蹴りで、時には頭突きで人面球を打ち砕く。汗と血が蒸発し、ボロボロの服のげる音が響いた。がむしゃらに、でも的確に。俺は丹念たんねんに、そして熱狂的に戦闘を展開していく。

 いつしか攻撃が弱まり、崩れ、皆無となった。俺は肩で息をしつつ、はっと自分を取り戻す。もはやあれだけあった火の玉は、ただの一個も残っていなかった。京が降りてくる。

「凄いな、研磨君。魔族は全滅したよ。どうやら君の進化はまだ続いているようだ」

 静観していた火炎魔人アシュレが、ぱっと腕を振った。その手から炎の鞭が飛び出す。えたぎるような憎しみの目をしていた。

「どうやら俺様が相手してやるレベルにまで到達していたようだな。……いいだろう。俺様の前に屈する権利を与えてやる」

 俺は身構えた。いよいよ復讐のときは来たのだ。親父、お袋。何らやましいところのなかった、立派だった俺の両親。それを無慈悲に、写の依頼で燃やし尽くしたにっくき相手。俺は再度憎悪の炎で胸を焦がした。

 もう負けない。必ず勝つ。俺は殴っても斬っても蹴っても通じない相手に、唯一効果がある『無効化波動』を発射した。青い光弾がアシュレを襲う。

「おっと、そいつは食わないぜ」

 奴は軽々とかわした。この技の弱点は光の速度が遅いことだ。素早いアシュレに当てるためにはもっと接近しなくては。俺は飛び出した。背後で京が叫ぶ。

「研磨君! 無茶だ!」

 火炎魔人は炎の鞭を振るった。ぐんと伸びてきたそれは、俺の肩口を鋭く一撃する。激烈な痛みが走った。俺は急停止してしまい、続く2撃目、3撃目を胸に食らってしまう。

「この糞野郎がぁっ!」

 俺は腹から声を出しつつ、『無効化波動』を投げつけた。しかしアシュレはそれも、京が補うように狙って放ったものも、完全にかわしてしまう。もうすっかり見切られていた。

「どうした研磨、京。その程度か?」

 怪物はせせら笑った。離れていては『無効化波動』をかわされるし、近づけば炎の鞭で追い払われる。かといって他に有効な攻撃方法はない。

 いや……

 あの両目。炎の中で焦げることなく浮いている、二つの眼球。あれだけは衝撃波が有効なのではないか。いくら相手にも『境界認識』があるとはいえ、視界を潰されれば光弾をかわすのは困難となるはずだ。

 俺は手刀を構えた。どちらにせよ鞭の攻撃を承知の上で接近するしかない。大丈夫、今の俺なら、今の『境界認識』なら、確実に捉えられる。胸の痛みが治まったのを確認すると、俺はゴール目掛けてダッシュする陸上選手のように、最高速で飛翔した。

 炎の筋が俺の顔面を張り手打ちするのと、俺が手刀を振るのはほぼ同時だった。顔の皮膚が焼けただれる中、俺は第6感で衝撃波が奴の眼球に炸裂したのを知った。

「ぎゃああっ!」

 アシュレが悶え苦しんでいる。やはり弱点だったのだ。俺は戦意高揚しながら、この好機に更に近づいて、『無効化波動』を胴体に叩き込もうとこころみた。

 しかし、化け物は舌でもあれば出しそうな笑いを浮かべた。

「……なんちゃって」

 火炎魔人の口の辺りから、巨大な炎の息が放たれた。それはまるで溶岩の壁のように俺を殴りつける。京が思わず、といったていで叫んだ。

「研磨君!」

 俺は信じがたい苦痛に急速後退を余儀なくされた。手で押さえた顎は骨が丸出しになっている。すぐ回復し、また元通りに肉がついたが、どっと疲労感が両肩にのしかかった。

「ちきしょう。その目が弱点じゃなかったのかよ」

 俺の不平にアシュレは哄笑した。奴の砕かれた両目がもう再生している。

「こいつは俺のお気に入りの飾りだ。どうだ、この目があれば多少なりとも人間らしく見えるだろう?」

 眼球を包む粘膜が片方、ぱちりと閉じた。ウインクしたのだ。俺は苛立いらだった。

「何だよ、人間らしく見えるって。人間に憧れてるのか?」

 火炎魔人はやけに素直に答えた。

「ああ。その通りだ」

 何か神妙な口調である。そして奴は滔々とうとうと語り出した。

「俺様は帝王マーレイによって生み出された戦う人形に過ぎない。そのことが不満だった。それで俺様は、魔界統一戦争で出征しゅっせいを繰り返していた際、しょっちゅう過去の石版を探しては、そこに書かれる伝承や伝説を調べていたんだ。この世に生を受けた以上は、帝王の操り人形で終わりたくはなかった。俺様が至高の座に就きたかったんだ。その方法を探し求めたってわけだ」
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