超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「リングは人名だ。いや、魔女名というべきか」

 魔女? 魔族側に数人確認されているという、神族に近しい魔界の女か。ハンシャ女王を黒い矢で襲った奴の親戚だろうか。京が続ける。

「彼女は言っていた。『凍氷魔人ブラングウェンは、核となる氷塊を持っている。そこを砕かない限り、何度斬っても復元してしまう』と。……『無効化波動』は完全に読まれているし、近接戦闘で奴と互角に渡り合うのは不可能だ。そこで、だ」

 京は俺にきっちり頭を下げた。天然パーマの茶髪が風になびく。

「さっきの音速の衝撃波を使って、何とか魔人の核に当ててくれ。頼む!」

「自分じゃ出来ないのか?」

 京は頭を上げ、重苦しく首肯した。

「僕には手刀の衝撃波は放てないんだ。……超人類といっても、どうやらそれぞれ少しずつ進化の過程が違うようで……。君には僕の、僕には君の使えない技がある。そういうことさ」

 俺は腹を据えた。戦術変更もこうなったら慣れっこだ。

「分かった。俺が魔人の核を衝撃波で切り刻んで破壊してやる。……でも、核がどこか知らなきゃ、話にならないんじゃねえの?」

「戦いながら探そう」

「適当だな」

 俺と京は苦笑し合った。そういえば、と俺は尋ねてみる。

「あんた、何歳だ?」

「僕は20歳。大学生だ。研磨君は?」

「俺は17歳、高校2年だ。札付きの不良学生って奴さ」

「そうなんだ。まあ不味い肉を食った虎のような外見だから、多分そうじゃないかとは思ってたけど。髪の毛逆立ってるし」

 何だか滅茶苦茶な捉え方されてる。……それはともかく。

「行くぞ、京!」

「良し、行こう、研磨君!」

 俺たちは急下降し、再びブラングウェンの射程距離内に入った。挨拶あいさつ代わりの氷の槍、氷つぶてが、たちまち俺たちを襲ってくる。どうやら連中も戦術を変えて、雪だるまの魔族の大半を俺たち二人に当てたらしい。集中豪雨のような攻撃の中を、俺は顔と右胸をかばいつつ潜り抜けていく。マリの仇が『境界認識』の範囲内に収まった。

「食らえっ!」

 俺は痛みをこらえながら手刀を振り抜く。ブラングウェンの頭部が目に見えない衝撃波で真っ二つに裂けた。

「効かないねぇ」

 だが、すぐまた頭が元通りに生える。ちくしょう、核はここじゃなかったか。俺は京のサポート――雪だるまを『無効化波動』で水に戻したり、俺の盾となったり――を受けながら、もう一回、今度は袈裟けさ斬りに凍氷魔人を分断した。

「駄目か……」

 怪物は右腕と右肩と頭を失いながら、刹那せつなの時間で人型に戻る。こいつ、核なんて本当にあるのか? 京と接触した魔女リングは、嘘をついたんじゃねえのか?

 氷つぶてが俺の額に命中した。強烈な一撃に、切れた感触と痛みが生じる。触ってみると出血していた。京も連打をさばき切れず、負傷箇所を増やしている。

「研磨君、いったん後退しよう! あの雪原へ逃げるんだ」

 指差す先にでこぼこの少ない広い平野があった。俺は体中を攻撃されて耐え切れず、言われた通りに戦略的撤退を行なう。ブラングウェンの嘲笑が俺たちの背中に浴びせかけられた。

「尻尾を巻いて退散か? 京殿、研磨殿、それは情けがないと思わぬか?」

 この野郎。俺は歯噛みしながら、でも挑発には乗らずに飛翔する。京がこちら側についたにもかかわらず、神族も魔族に押され気味で、既に平原を新たな主戦場として戦っていた。

「研磨!」

 ミズタが俺たちの近くに飛んでくる。俺は怒鳴った。

「馬鹿野郎! 凍氷魔人がすぐ近くまで来てる。ミズタが勝てる相手じゃない。引っ込んでろ!」

「分かってるわよ! 大声出さなくてもいいじゃない!」

 京が俺のそばに寄り添う。俺の右胸に手を当てた。そこは傷口だ、痛いっての……と思っていたら。

「な、治った?」

 俺とミズタが同時に叫んだ。まるでみやこの闘技場でハンシャ女王に治癒ちゆしてもらったときみたく、俺の右胸の穴はたちどころにふさがっていた。美青年はにこやかに笑う。

「どうやら魔女相手じゃなくとも効くみたいで良かった。そう、僕には傷をいやす力があるんだ。今は時間がないから、ここと額の傷のみ治そう。僕自身の傷は治せないのが欠点だけど」

「ありがてえ……」

 俺は右肩を回した。出血はおさまり、すっかり痛みも消えている。これならフルパワーで手刀の衝撃波を放てそうだ。

「危ない!」

 俺とミズタは京の声でとっさに上昇した。足元すれすれを氷の槍が猛スピードで通過していく。もう来やがったか、あの野郎――凍氷魔人ブラングウェン。

 雪だるまの化け物たちが絶え間なく氷つぶてを投擲とうてきしてくる。その中央で頭4つ分ほど抜け出し、魔人は平原に足を踏み入れた。

「おのれ……!」

 ミズタがマリの仇の姿に激昂げっこうしている。だがさすがは俺より2000歳も年上、感情だけで突っ走ることはしなかった。

「どうすれば倒せるの? 弱点は?」

 ブラングウェンを遠く睨みつけながら、俺に尋ねた。代わって答えたのは京だ。

「体のどこかにある核を見つけ出して砕けば、絶命するらしいが……。僕も研磨君も分からないんだ」

 ミズタは京に顔を向け、素朴で最初からな疑問を口にした。

「あんた、何であたしたちに協力してくれるの? 魔族の側じゃなかったの?」

「魔女のリングが死んだからさ。もう魔族側につくべき理由はない。神族に手を貸しているのは、今までの負債を返すためだ」

 俺は手刀を構えて迫り来る凍氷魔人に狙いを定めた。

「ともかく斬って斬って斬りまくれば、そのうち核に当たるだろ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦だ。京は下がって負傷者の治療に当たってくれ。ミズタは他の神族の援護に回ってくれ。じゃ、いくぞ」

「何仕切しきろうとしてるのよ。あたしは仲間の仇を討つわ。キョウ、援護お願い。この前は泥土魔人に殴りかかっていいところなかったから、今回はしっかり結果を出さないと」

 そのときだった。俺の頭に泥土魔人ウォルシュの技が思い出されたのは。奴は自分を中心とした半径50メートルほどの地面を、一気に泥濘でいねいと化すことが出来た。ミズタはそれに取り込まれて死に掛けたのだ。

 でこぼこの少ない雪原。その上に侵攻してくる雪だるまたち、ブラングウェン。ひょっとしたら、これは……

 凍氷魔人が更に距離を詰めてくる。その投げた新たな一槍が、俺たちに散弾銃のように命中した。

「ぐあっ!」

「きゃあっ!」

 たちまち傷だらけになる俺たち。切り傷から血がにじみ、ミズタは頬から出血した。

「さあ京殿、研磨殿! くたばるがいい!」

 どうやら魔人の技は、相互の間隔が狭ければ狭いほど威力を発揮するらしい。となると、もはやあれこれ考えている猶予ゆうよはないってことだ。

「京!」

「何だ、研磨君」

「真下に向かって最大出力で『無効化波動』を放つんだ!」

 彼はまぶたを数回開閉した。

「何でまた、そんなことを?」

「いいから早く!」

 俺の剣幕けんまくに悟るものがあったのか、京は素直に従った。
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