超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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……だが、俺たち2人を待っていたのは意外な光景だった。神族たちと雪だるま群の戦いからやや離れた森のそばで、激突する二つの人影。一方は京で、もう一方はブラングウェンだった。

「何やってんだ、あいつら」

「仲間割れ……?」

 超人類の美青年が鉄の棒を振り回し、時折『無効化波動』を魔人めがけて放つ。魔族の実力者はそれを華麗に避けると、氷の槍を突き出して人間界の男の胴を狙った。細かく激しく、精緻せいちなチェスを行なうように、彼らは目まぐるしく動き回っていた。点々と、あちこちで積雪が溶けて、黒い土が覗いている。

 俺たちが近づくと、京は『境界認識』でこちらを捉えたらしい。遠くからびっくりすることを頼んできた。

「その様子では力を取り戻したらしいね、研磨君! 予想と外れてしまったが、僕にはむしろ都合がいい。今だけでいいから、僕に手を貸してくれないか?」

「何……?」

「僕は気が変わった。ブラングウェンを倒す! 『無効化波動』を奴に叩き込むんだ。頼む、手伝ってくれ!」

 俺とミズタは、雪だるまによる地上からの氷つぶてを回避しながら、少し相談した。

「どうするの、研磨」

「さあな。あるいは京は、回復して戻ってきた俺をたばかるつもりかもな――さくっと殺すために。……でもあいつら、俺たちが現れる前から喧嘩してるみたいだし……」

「マリの仇は凍氷魔人ブラングウェンよ。あいつを倒せるなら、京の話に乗ってみれば? 研磨がまた危なくなったら、マリの代わりにあたしが助けるから」

 そうだな。京に対しては今のところ、顎を一発殴られて『無効化波動』をもらった程度の恨みしかない。他方、魔人に対してはマリの復讐という明確な目的と過激な殺意がある。どちらを優先するかは考えてみるまでもなかった。

 よし、乗ってみるか。どうなるか知れたものではなかったが。

「京! 俺が手助けしてやる!」

「本当か! 助かる、研磨君!」

 俺は二人に急速接近し、ブラングウェンに青い波動を撃ち込んだ。ひらりとかわされる。

「ほう、研磨殿と京殿は結託なさる、と。今に後悔するよ、おふた方」

 凍氷魔人は氷の槍を俺に向かって全力で投擲とうてきした。ふん、今更こんなもの食らうかよ。俺はその直線的な軌道を予測し、さっさと避け――

 られない!

「ぐっ……」

 何と氷の槍は目の前で分解し、多数の破片となって俺を襲ったのだ――散弾銃のように。とっさに手袋の両手で顔をかばったから良かったものの、一歩間違えば目や鼻を潰されるところだった。厚着の体にも打撃を受けたが、こちらは軽傷だ。

 魔人が地上から甲高く笑った。

「ほらほら、どんどんいくよ、よけろよけろ!」

「てめえ……っ!」

 どうやら飛行能力はなさそうな魔人だったが、それでも空中を舞う俺たちや神族を殺すことは十分可能らしい。地面から驚くほど精密で強力な射出を繰り返してきた。俺は汗みどろで回避しつつ、隙を見て『無効化波動』を放つ。だが遅い光弾はたくみによけられ、積雪の一部を水に還元するだけだった。

 俺はれて京に叫んだ。

「接近戦だ! 接近戦に持ち込めば、『無効化波動』を当てられる確率が高くなる。援護してくれ、京!」

「分かった!」

 俺は京の『無効化波動』の支援を背景に、一気に敵へと詰め寄る。まずは動きを止めようと、凍氷魔人にかじかむ手刀で斬りかかった。

「遅い!」

 奴はそうののしると、バックステップして俺を空振りさせる。

 だが、そのときだ。

「何っ?」

 俺の右の手刀が振り抜かれるのとほぼ同時に、怪物の胴が――接触していないにもかかわらず――真っ二つになったのだ。ブラングウェンの上半身が下半身の上で横にずれ、雪中に落下した。

 俺は自分の手を見つめた。何だ? これはもしかして、衝撃波ってやつか? 非現実的で漫画のようだが、そうとしか考えられない。俺は手刀を振った際の衝撃波で、離れた魔人の体を二つに分断したのだ。

 また一つ進化した。俺の超人類としての行く末はどこにあるのだろう?

……と、そんなことを考えているときじゃなかった。ブラングウェンの下半身から、またたく間に上半身が伸びて元通りになる。その分、周りの積雪がごっそり消え失せた。一瞬の出来事だ。

「びっくりした。さすがは研磨殿、超人類なだけはある。私も気を引き締めてかからねば」

 俺は右の手の平を差し出し、近距離で『無効化波動』をぶち決めようとした。だが凍氷魔人は素早い動きで俺の右手を殴りつける。裏拳だった。骨が折れたんじゃないかと思うほどの激痛が走り、俺は苦悶の声を発する。

 そして次の瞬間、鋭い右の突きが俺の右胸に突き刺さった。防寒具の厚みなど防御において何の足しにもならない。俺は肉が裂け血が噴き出る感覚を、深甚しんじんな激痛と共に味わった。

「くっ……!」

 よくもやりやがったな。俺は急にだるく重くなった右腕を持ち上げ、今度こそ『無効化波動』を発射しようとした。だが魔人は俺の右手首を掴むと、真上へとひねり上げた。関節が壊れるんじゃないかと思うほど、容赦のない動き。どうやらとことんまで撃たせない気らしい。

 と、そこで俺は『境界認識』が告げる危機に、ぱっと後方へ飛びすさった。ブラングウェンも自身の背後へ跳躍する。ちょうどさっきまでいた場所に、青白い光の波が炸裂した。京の『無効化波動』だ。俺を巻き添えにすることを想定した上で、化け物を狙ったものらしい。

 俺は頭上の京に怒鳴った。

「何しやがる!」

 京は面目めんぼくなさそうに言い訳した。

「研磨君は撃たれてもまた回復する。だがブラングウェンはそうではない。だから狙撃した。すまない」

 そういうことか。なるほど、決定機を邪魔したのは俺の方だったわけだ。

 右胸の傷は浅かったらしく少しほっとした。だがそこは熱を持ったようにうずき、衣服に鮮血の染みを作って次第に拡大している。京にもう一度撃ってもらうためにも、凍氷魔人に再度接近戦をこころみる必要があった。だがこんな状態で立ち向かったら不利は確実だろう。

 怪物は近くに転がっている自分の元上半身を掴むと、もの凄い力で上空の京に向かって投げつけた。それは回避しようとする美青年の直前で割れ砕かれ、ショットガンのように彼を襲う。超人類はたちまち切り傷と打撲傷を全身に負った。

「うぐっ……」

「どうやら私の秘技ひぎはお楽しみいただいているようだ。さあ研磨殿、また近距離で戦うか? その手刀で勝負するかね? 私はどちらでも良いよ」

 くそっ、舐めやがって。だが近づいても遠ざかってもブラングウェンの方が一枚上手うわてだ。俺は負傷した右胸を押さえながら、いったん飛翔して京の元に戻った。氷の槍に恐怖し、二人揃って上空へ逃れる。お互いボロボロだった。

 身を切るような寒風に凍えながら、俺は美青年と共に戦場を見下ろす。

「どうするんだ、京。あいつを押さえ込む自信も実力も、俺にはねえよ」

 美男子は鉄の棒を握り締めた。

「リングから聞いたことがある」

 リング? 指輪か格闘技か? 京は俺の顔から疑念を読み取り、軽く苦笑した。
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