超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「強かったよ、泥土魔人ウォルシュ。でもこれで終わりだ。……あばよ」

 俺の手から青い波動が飛び出す。それは一直線に泥土魔人の頭部へ炸裂した。轟音と共に爆発四散する。俺の『境界認識』から、強敵の存在が完全に消失した。

 今度こそ、俺は勝ったのだ。

 魔族の人形たちにも意識というものはあるらしく、ご主人様の完全な死と、それをもたらした俺の存在とに恐れをなしたらしい。沼にはまらなかった者たちが続々と、世界の裏側へ通じる崖へ舞い戻っていく。神族たちがここぞとばかりに、光の矢の豪雨で奴らを追い立てた。

 ここに南西方面の戦況は神族側に大きく傾いたのだ。後は掃討作戦を残すのみだ。もう俺たちの手伝いはいらないだろう。

「後は彼女らに任せましょう、鏡さん、ミズタ」

 マリがそう言って安堵の表情を見せた。

 後退した俺たちは、ともかく土だらけの体を何とかしようと、近くの川岸にやってきた。谷の中央を流れるそれは冷たく、さすがに全身水浴びとはいかなかった。そんなことしたら風邪を引いてしまう。結局髪と顔を洗って口の中をゆすぎ、ついでに鼻や耳、両腕を綺麗にするぐらいしか出来なかった。それでも人心地ひとごこちつく。

「あー、生き返った」

 俺は近くの岩石に腰掛けた。胴も下半身も泥が残っているが、これは風呂にありつくまで我慢するしかなさそうだ。ミズタが黄金色のロングヘアを丁寧に洗っているのを見つめていると、マリが俺を見上げて声をかけてきた。

「あの、鏡さん。結局のところ、一体どうやって泥土魔人を倒したのですか?」

 それは俺が聞きたいぐらいだった。しかし右の手の平から生じた力――青い波動が要因だった程度は分かる。

「俺は物理攻撃が効かねえウォルシュに、何とか一矢報いたい、ミズタを助けたい、と思ったんだ。ここで負けるわけにはいかねえってな。そう考えたら、とっさに右手から新しい『力』が飛び出したんだ」

「それが泥土魔人や、彼が創り出した広大な沼を、一瞬にして乾燥させたわけですね」

「まあそういうことだな」

「超人類としての、更なる進化といったところでしょうか」

「多分な」

 あの泥土魔人を倒した――ってことは待てよ、この青い波動は火炎魔人にも有効なんじゃないか? 手刀を初めとする物理攻撃が全くの無効だった相手へ、俺はこの力で勝利を収めた。俺はウォルシュを無にしたことより、アシュレを滅ぼす能力に目覚めたことの方が嬉しかった。

「ああもう! 早くお風呂に入りたいわ」

 ミズタが長髪をポニーテールにまとめてこちらへ引きげてくる。せっかくの抜群のスタイルも、今は泥だらけで冴えないものとなっていた。それでもその男の目を奪う美貌は復活している。

「研磨、あんたのその新しい力、あたしが名付けてあげる。『無効化波動』。どう? いいセンスでしょう」

 どこがだよ。そのまんまじゃねえか。しかしまあ、適当な名前も思いつかないし、それでもいいか。

 そんなことより……。俺は足を組んでミズタを見下ろした。

「『境界認識』で分かったんだけどさ、おめえ、俺がウォルシュに完全に取り込まれたときに、泣いてなかったか?」

 発火したかのように彼女の顔が真っ赤になった。しどろもどろで答える。

「う、うるさいわね。死んだかと思ったからよ。あたしだって神族よ、仲間が死ねば嘆き悲しむわ」

「ほう、俺は仲間か。今はっきり認めたな」

 ミズタはそっぽを向いて腕を組み、口を尖らせた。

「別にそれぐらいはサービスよ。泥土魔人を倒してくれたんだし……」

 マリがおかしそうに笑った。眼鏡が暮れかけた日に照り映える。

「素直じゃないですね、ミズタ」

 そこへ別の神族が数人飛んできた。

「こちらへおられましたか、超人類様、お付き添いの方々」

『境界認識』で俺たちを見つけたのだろう。彼女らは南西方面の戦勝に浮かれている様子はなかった。

「神界北方方面が苦戦中で、救援要請が出ております。皆様にはぜひそこへ向かっていただきたい。お休み中のところ、誠に恐縮ですが……」

 俺は気安くけ合った。

「いいぜ。まだまだ喧嘩し足りねえと思ってたんだ。今すぐにでも行ってやる」

「ありがとうございます!」

 彼女は俺たちに地図と金貨の入った皮袋を手渡した。

「北東への途上にあるクセツ村で防寒具を買い揃えてください。戦場はこことは違い、寒波に見舞われています。十分な装備がないと凍え死んでしまうでしょう」

 マリが感謝して深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」

「それから、北方方面では超人類が魔族に手を貸しているそうです。十分お気をつけてください」

 その瞬間、俺はその親切な神族に目を剥いて大声を出した。

「写か? そいつは俺の弟の写か?」

 面食らった様子の彼女は、静かに首を左右にした。

「いや、ちょっと分かりかねます。そういう情報が届いてきている、というだけで……」

「そ、そうか。すまねえな」

 ミズタが不安の眼差しを向けてきているが、俺は無視した。

「善は急げだ。クセツ村にまずは直行しよう。ありがとな、おめえら。じゃあ行くぞ、ミズタ、マリ!」

 俺たちは谷から飛び出した。



 半透明の輪を生やし、俺はミズタ、マリと共に北東へ向かって飛翔する。日がとっぷり暮れたところで、地図にあるクセツ村に辿り着いた。何となく硫黄いおうの匂いがする。闇の中ぼんやりと湯気が立ち昇っていることから察するに、ここは温泉街か。

 はっきり言ってもうこの時点で寒かった。鋭い北風が衣服を通して肌に突き刺さるようだ。飛行中はただでさえ寒いのに、この冷風。俺はクセツ村の広場に着地した。ここには黒曜石の力も及ばないのか、家や店は地面に根を生やしている。

「さっ、さむっ。早く温泉に入って温まろうぜ。体も汚れているしな」

 これにはミズタも同意見だった。マリから入浴代金をまかなえるであろう金貨数枚をもらう。

「マリ、あたしたちがお風呂に入ってる間に、新しい衣服と防寒装備を買ってきて。よろしくね」

「任せてください。それじゃ、また後で」

 マリが仕立て屋に向かって立ち去る。残された俺らは、村のあちこちで輝いているたいまつを頼りに、適当な温泉宿を探し始めた。

 ……と、その前に。

「なあミズタ、俺たち別々の店舗に入ろうぜ。この前自宅で風呂に浸かったときみたく、お互い全裸で向き合う、なんてことにならないように」

 ミズタは過去を振り返ったらしく、少し頬を赤らめながら、しかし断固として手の平を振った。

「この神界に男湯と女湯の区別はないわよ、研磨。歴代女王の爪から生まれたあたしたちは、全員女なんだから。つまり全て女湯であり、人間界のような男湯なんてものははなから作られていないのよ」

 むう、そうか。気付かなかった。

「だから研磨一人を温泉に入れるわけにはいかないわけ。他のお客さんに対して説明役が必要でしょう? それをあたしがやろうっての」

「でもいいのか? また全裸……」

 ミズタが俺を視線で殺すように凝視した。

「今度見たら、さすがに無事ですまないと思いなさい」

 はい、分かりました。
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