超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「アシュレは今どこにいる? 今向かっている南西の戦場に、奴はいるのか?」

 俺の厳しい問いかけに、彼女は首を振った。金色の長髪が火の光を反射して美しい。

「泥土魔人しか確認されてないわ。……研磨、どうしたの。少し落ち着いて」

「ちっ。まあいいか」

 俺は苦労して自分自身をなだめた。マリが魚を焼いている。黄色くてたるのようで、かなり不味まずそうだが……

「基本的に神族は魔界の、魔族は神界の空気に体が合いません。双方、攻めにくく守りやすいのです。それでも激戦となっているのですから、今回の魔族の侵攻がいかに本気であり、凄まじいものであるか、何となくご理解いただけるでしょう。我々神族は、彼らの侵攻を鈍化させるので精一杯という状況なのです」

 マリが俺に不味そうな魚を差し出した。俺は仕方なしに受け取る。よく焼けていた。彼女を信じ、俺は食いついてみる。意外に美味しい。少なくとも生臭くはない。

「これうめえな」

 マリとミズタが瞠目どうもくした。

「ホントですか? 私は食べたことないんですが」

「あたしも」

 おめえら、俺を実験台にしたのか?



 俺らは交代で見張りに立ちながら睡眠を取った。マリに肩を揺さぶられ、俺は浅い眠りから目覚める。起き上がってあぐらをかき、歩哨ほしょうよろしく周囲に目を光らせた。マリは俺に砂時計を渡す。

「これが全て落ちたらミズタと交代してください」

「分かった」

 マリは豪快なあくびをすると、焚き火のそばに寝転んだ。すぐ安らかな寝息を立てる。

 俺は火に薪をくべたり、星を数えたり、雲を眺めたりしながら時間を潰した。途中で声をかけられる。

「ねえ、研磨」

 ミズタだった。起きたのか……

 彼女は仰向けに寝転がり、片腕を額に載せたまま、俺に静かに問いかける。

「弟の写さんと火炎魔人アシュレに何をされたの? 研磨は酷い怪我を負ってたけど……」

 俺はそういえばまだ説明していなかった、と思い返した。

「ああ、俺の親父とお袋を、アシュレの奴に黒焦げにされたんだ」

「親父? お袋?」

 俺はそこで、言葉が通じていないことに気付いた。

「ああ、人間界で言う父親と母親だ。おめえらにとっての女王陛下みたいなもんだ」

「それを殺されたの? 火炎魔人に?」

 ミズタががばっと起き上がる。

「ああ。奴をぶっ殺し、写の奴を半殺しにするまで、俺は戦い続けるつもりだ」

「女王様が殺されたら、あたしたち死んじゃうわ。研磨、あんたは何ともないの?」

 そこかよ。俺は肩をすくめる。

「大丈夫だよ。命を依存しているわけじゃないからな」

「……それでも、大事な産みの親を殺されて……悲しかったでしょう」

「まあな。それがおめえらに手を貸す理由の一つだ。何としても仇討あだうちを果たしてやる。……それより寝ろよ、ミズタ。まだ砂時計は落ち切ってねえ」

 ミズタはつくづくと俺の顔を眺めた。俺は焚き火の明かりに照り映える彼女の美貌にはっとなり、思わずよそを向く。やがて、また寝転んだような衣擦きぬずれの音がした。

「ごめん、あたし、何も言えないわ……」

「いいさ」

 俺はその後、二人の神族の寝息を聞きながら、ぼんやりと時を潰した。



 翌日も俺たちは戦場目指して飛翔した。昼過ぎになってようやく神族と魔族の交戦現場に到着する。マリが叫んだ。

「ミズタ、鏡さん! 気をつけて!」

 遠くで神族の女たち――みんなミズタやマリと似たり寄ったりの格好だ――が空中に浮かび、地上に向かって光の矢を撃ち込んでいた。そしてそれとは反対に、地上からあのデク人形の群れが、神族目掛けて石つぶてを投擲とうてきしている。

 近づけば近づくほど大変な騒ぎと分かった。女たちの怒号や悲鳴、硬いものの砕ける音、地鳴りのような魔族の前進が、俺の聴覚を圧倒してくる。不運にも石つぶてで落下した神族は、地上に落ちたところを人形たちに踏みにじられ殺されていた。一方神族も執拗しつような攻撃で人形を粉砕していく。どちらも攻撃は拳銃の弾丸のような威力で、盾や鎧があっても防いで防ぎ切れるものではなかった。

 そして、見えた。『世界の縁』という神界の果てが。そこはハサミで切り取られたように大地が断絶し、雲が湾曲して裏側へと流れ込んでいる。そこからうじゃうじゃと、人形たちが次々に乗り込んできていた。数的差は絶対だ。だが人形たちの前進速度が遅いため、何とか神族たちも踏みとどまって抑え込むことに成功している。

 俺は石つぶてをかわしたり殴って砕いたりしながら、浮き浮きとした高揚感で身が軽くなるのを感じた。

「なあミズタ、マリ、あいつらデク人形どもをぶっ飛ばしてもいいんだよな?」

 高まる喧嘩欲。ミズタは呆れたように言った。

「あんまり調子に乗ってると痛い目に遭うわよ。……でも」

 飛来する岩をかわす。

「行ってらっしゃい。超人類の本気の力、見せつけてきなさいよ。あたしたちの光の矢に当たらないように気をつけて、ね」

「よっしゃあ!」

 俺は超高速でぶっ飛んだ。神族たちが奮闘している最前線はパスして、光の矢の飛んでこない『世界の縁』方面へ――つまりは奥の方へ突っ込んでいく。

「いくぞおめえらっ!」

 俺は凶暴な喧嘩魂のおもむくままに、まずは一体の頭部を拳で粉微塵に撃砕した。続いて右方向から殴りかかってきた奴を右足で吹っ飛ばす。体ごと跳躍して覆い被さろうとしてきた間抜けは、強烈なヘディングで弾き返した。『境界認識』で背後からの投石をひらりとかわす。両手を伸ばしてともかく俺を押さえ込もうとしてきた一体は、手刀一閃! 真っ二つに両断した。

 俺の滅茶苦茶な攻撃に人形どもは困惑し、したまま倒されていった。10、20、30、40、50……100……300……500……。その辺りで「倒した人形の数」を数えるのをやめた。俺は息もほとんど乱さないまま、凄まじい速度で魔族を殴り、切り裂き、打ち砕き、木屑きくずに帰していった。

「凄い……」

 神族がそんな呟きを漏らしつつ、俺の援護に回る。今や前線は後退し、俺の暴れ回る神界の崖まで押し戻された。俺は光の矢の控え目な助勢を受けて、フルパワーで活躍していく。

 一体何百体をぶっ倒しただろう。何千体かもしれない。ともかく手当たり次第に殴打してぶった斬っていると、不意に強烈な殺気を感じた。慌てて飛び上がる。

「どうしたの、研磨?」

 ミズタが光の矢で俺を援護しながら尋ねてきた。俺は答えず、神界の行き止まりに目を凝らす。そこではある異様な存在が、ちょうど乗り込んでこようとしていた。殺意の塊としか表現できないそいつは、実にゆっくりとこちら側へ侵入してくる。

 泥だ。頭頂部から溢れ出て、人間の上半身の形に流れ落ちているのは、黄土色のぐずりとした液体だった。それは一瞬の遅滞もなく、時折泡を弾けさせながら、3メートルはあろうかという上体を形成している。腹から下はなく、ちょっとした沼のような泥だまりを引きずって前進していた。頭部についている二つの空洞がどうやら目であるらしい。

 殺気の正体はこいつだ。人形たちが可愛らしい幼児に見えるほど、その風格は別物だった。
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