超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

文字の大きさ
上 下
12 / 39

12

しおりを挟む
 よっしゃ、これなら俺の『境界認識』で捉えられる。俺は手刀を作り、ここぞとばかりに背びれに飛び掛かった。

「おめえには恨みはねえが、死んでもらうぜ、サメ!」

「いけません、研磨!」

 マリが俺に背中から抱きつき、こっちの動きを慌てて制する。何しやがる……と思っていたら。

 湖中から頭部を飛び出させた巨大ザメが、その両目から怪光線を放った。一方が俺の右太ももに命中し、熱い風穴を開ける。

「いってえ!」

「痛っ……!」

 俺だけでなく、マリまでもが激痛を言語化した。どうやら俺の太ももを貫通した怪光線は、背後のマリまでも炸裂したらしい。もしマリに引き止められていなかったら、俺はサメの攻撃で額に通気口を作られていた。まさに間一髪だ。

 巨大ザメは水飛沫みずしぶきを上げて再び水中に没した。

「だ、大丈夫か、マリ」

 俺は苦痛をこらえて振り返る。マリは右足の肌が綺麗にえぐれていた。すねとふくらはぎが流血に染まっていく。それでも気丈に返してきた。

「へ、平気です。鏡さんこそ……。それよりサメは?」

 俺は湖面に目をすがめる。サメの気配は深くに潜ってしまっていた。

「逃げられたみたいだ。しかし、巨大ザメにあんな能力があるなんて聞いてねえぞ」

「私も今さっき思い出したくらいです。バクー湖の巨大ザメは、獲物を仕留める光線を目から発する、と。その前兆が見られたので、私は研磨さんを押さえ込みましたが……大事に至らなくて良かったです」

 あの眼光なら船さえ真っ二つにしかねないな。俺は戦慄と苦痛で身震いした。

 それはともかく、あの巨大ザメをもう一度呼び戻さねば。奴の舌を持ち帰らなければ、ここまで来た甲斐かいもないというものだ。だがミズタにこれ以上の出血をお願いするわけにも行かない。さて、どうするか……

 いや、答えは簡単じゃないか。

「マリ、ミズタと一緒に光線の射程外に逃れてろ。巨大ザメをもう一度おびき寄せて、今度こそ仕留めてやる」

 ミズタが紫色の唇を動かした。

「どうやって? 何か策でもあるの? やっぱりあたしが、もう一度血を……」

「その必要はねえ」

 俺は手刀を作ると、自分の太ももを切りつけた。激痛と共に大量の血が噴き出す。ミズタとマリが一斉に俺の名を呼んだ。

「研磨!」

「鏡さん!」

 大丈夫だ。痛くない痛くない……!

 俺は歯軋りしつつ降下し、負傷にうずく太ももを湖水に浸した。チャンスは一度きりだ。今度こそ蹴りをつける。俺は『境界認識』を最大まで拡大させ、サメの位置を捕捉ほそくした。真下20メートル。15メートル。10メートル……

 俺は二条の光線が放たれるのを知覚した。素早く身をひるがえし、それらを空振りさせる。そして一気に湖中へ躍り込んだ。目の前で大口を開けて迫り来る巨大ザメに、指を突きの形にして繰り出す。それはサメの上顎を突き破って貫通し、俺の肩口まで深々と突き刺さった。もちろんサメは絶命している。もし少しでも遅れれば、俺は右腕を肩からまるごと食われていただろう。それにしてもこの突きは手刀の変形だったが、土壇場どたんばで良くぞ上手くいったものだ。俺の更なる進化だった。

 俺は仕留めた獲物を抱え、水面に浮上する。遠く見守っていたミズタとマリが歓声に沸いた。

「やるじゃない、研磨……」

「鏡さん、素晴らしいです!」

 俺は近寄ってくる彼女らに頼んだ。

「マリ、サメの舌を切り取ってくれ。こいつは想像以上の重さで持ち上げられないんだ」

「お安い御用です」

 マリの助力で無事解毒剤を手に入れた俺たちは、全員負傷した体を引きずるように、女王の城目指して飛んで帰っていった。事態は一刻の猶予ゆうよも許されない。



「ハンシャ様!」

 治療院のベッドに寝かされているのはハンシャ女王、隣に座っていたのはナンバー2のレンズ。俺たち3人が雪崩れ込んだとき、女王は苦しそうに呼吸していた。レンズが水を含ませた手拭いを女王の額にかけている。

「おお、お前ら! 首尾は?」

「上手くいきました。これがバクー湖の巨大ザメの舌をせんじた薬です」

「でかした!」

 レンズが杯で水をすくい上げ、女王の上半身を抱きかかえる。耳元で大声を出した。

「女王様、研磨たちがやってくれました。猛毒『ハーフ』に効くかどうか分かりませんが……お飲みください!」

 ハンシャは前後不覚、意識混濁こんだくのありさまだった。それでも口を開け、薬を含み、レンズの献身的な手伝いでどうにか水を飲み下す。またベッドに横たえられた。

 全員が解毒剤の劇的な効果を期待し、女王の顔を覗き込む。それは最大の形で報われた。ハンシャの頬に血が上り、呼吸がしずまってきて、薄っすらとまぶたを持ち上げたのだ。

「レンズ……研磨にミズタ、マリ……。わたくしは一体……」

 意識が戻り、一転快方に向かい始める彼女。どうやら矢に撃たれた前後のことを忘れているようだが、俺はそんなものは無視してミズタとマリを引っ張り寄せた。

「悪いけど女王、話は後だ。この二人と俺を治療してくれ。正直立っているのもやっとなぐらいなんだ」

 レンズが困惑してどうするべきか迷う風だったが、ハンシャはこの依頼をすぐさま引き受けた。今度は自力で上体を起こす。

「3人とも怪我をされているようですね。構いませんよ。今治して差し上げます」

 マリがミズタの包帯を取り、その痛々しい手首を露わにさせた。ミズタが謙虚けんきょな態度で進み出る。

「恐れ入ります……」

「ふらふらじゃないですか、ミズタ。後で滋養じようのつくものをお食べなさい」

 女王が撫でると、あっという間に傷口が塞がった。順番にマリと俺も手当てを受ける。その頃にはハンシャもだいぶ回復してきており、むしろ大量の血を失った俺たちより元気になった。

 俺たちがどうにか一命を取り留めると、レンズがハンシャにゆっくりと経緯を説明する。女王は俺たちからサメ相手の奮闘を聞かされると、熱心にうなずいた。

「それで怪我していたのですね。ありがとう、研磨、ミズタ、マリ。貴方たちには感謝してもしきれません」

 俺は少しはにかんだ。そこで自身の空きっ腹が悲しげに音を立てる。一同が笑った。

「三人とも、今日は食事とお風呂を済ませ、疲れた体を休めてください。研磨、ミズタ、マリ。明日からよろしくお願いします」



 俺たちは治療院を後にした。マリが「私とミズタの自宅で休みましょう」と提案してきたので、腹と背中がくっつきそうな俺は一も二もなく賛成した。

 二人の住居は城から少し離れた斜め下に浮いている。平屋建ての素朴な家だった。それにしても、城といい闘技場といい治療院といい、どうやって浮いてんだ、これ。

 俺が質問すると、隣を飛ぶミズタが答えた。

「研磨も見たでしょ、お城の中枢に浮かんでいた巨大な黒曜石。あれは神界のシンボルであり、神様との接点であり、重力からあたしたちの家を解放してくれた魔法の宝石なの。神族の中心がハンシャ女王なら、神界の中心はあの黒曜石と言えるわね」

 マリが岩の島に建てられた自宅に着地する。俺とミズタも同様にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...