超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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 これだ。俺が求めていた喧嘩は。下手したら命を落としかねない、極限のやり取り。プロスポーツ界じゃ即禁止されるような生命の削り合い。わくわくして、どうにも笑みが止まらなかった。

「もっと来いよ、このデク人形が」

 俺は悲鳴を上げる内臓を無理矢理押さえつけ、今度はお互い同時に相手へおどりかかった。魔族は俺の顔面への肘打ちを狙ったが、俺は身を屈めてかわした。そして手刀一閃! 奴の脇腹から反対側の肩にかけてを、斜めに斬り上げた。

 人形は真っ二つに裂かれ、悲鳴もなくその場に崩れ落ちた。今まで人型になるよう繋いでいた何かの力が失われ、ただの木屑きくずとなる。そのまま動かなくなった。

 勝った……のか? もう喧嘩はおしまいか? 俺は木片を踏みつけると、案外簡単に決着してしまったことに欲求不満を覚えた。もうちっと楽しませてくれるかと思ったのに。

 と、そこで首根っこをつかまれる。ミズタの落雷が鼓膜にとどろいた。

「馬鹿! さっきから人目を集めてるじゃない! さっさと逃げるわよ」

 俺たち3人は街の上空を逃げていく。去り際魔方陣はどうなったかと見てみると、跡形もなく消え失せていた。野次馬たちが集まってきている……



「何をニヤニヤ笑いながら戦ってたのよ。キモいわね」

 俺の案内で自宅へ向かう途上、ミズタは背後から悪態をついた。見下ろす街は帰宅する人々で賑わっている。今更隠す気も起こらず、俺たち3人は堂々と空を飛んでいた。それにしても、上から眺める夜景ってのも悪くないもんだ。

「うるせえな、そんなこと言うんだったら助けてやらねえぞ」

 俺が言い返すと、やり取りを聞いていたマリが嬉しそうに口を挟んできた。

「では鏡さん、神界に来て私たちを救っていただけるのですね?」

「まあな。さっきみたいな奴をぶっ飛ばせばいいんだろ? お安い御用だ」

 俺は人形との戦いで得た高揚感を、心中何度も反芻はんすうしていた。あっけなく終わってしまったが、それはここしばらく味わえなかった興奮だった。あんな体験が出来るならこの世の果てまでも行ってやる。喧嘩マニアの血が騒いで仕方なかった。

「あそこだ」

 俺は自宅――2階建ての築12年だ――を指差した。窓を開けて出てきたはずだが、果たして――

 開いていた。俺は安堵し、物音を立てないよう気をつけながら、窓をスライドして中に入った。ミズタとマリも続く。俺はカーテンを閉めると、明かりの紐を引っ張った。蛍光灯の白色光が室内を浮かび上がらせる。一連の過程は誰にも見られなかった、はずだ。

「ふうん、思ったより片付いてるわね」

 ミズタが珍しく俺を褒めて、スプリングの利いたベッドに腰掛けた。改めて見ると、やっぱり可愛いな、こいつ。それに……

「よ、横乳よこちちが……」

 ミズタが気付き、わきを隠すように腕組みした。

「ちょっと、どこ見てんのよ! この変態!」

 下はさすがに何か穿いているようだが、胴体はブラジャーもなく、青い布で前と後ろを隠しているに過ぎない。豊富な胸は両サイドが丸出しで、さすがの俺も鼻の下を伸ばさざるを得なかった。いやー、神族ってみんなこうなのかな。ちょっと楽しみが増えた。

「変態はないだろ、変態は。おめえが変な格好してるのが悪いんだ。なあマリ?」

 マリもミズタと同じ服装だが、こちらは胸もなくスタイルも稚拙ちせつだ。

「私の横乳には関心がないようですね」

 そりゃそうだ、とはさすがに気の毒で言えなかった。マリがわざとらしく咳払いして、この話題を切って捨てる。

「ともかく改めてお話しましょう、鏡さん。私とミズタは神界よりこの人間界に使わされ、超人類の獲得を目的として行動しています」

 俺はあぐらをかいた。しかしこいつら、靴を脱がずに土足で動いて、平気な顔してやがる。日本の文化にうといのだろうか。

「ちょっと待った。そもそも超人類って何なんだ? 人間として更に進化した存在、なんだろうけど、何で俺が超人類になったんだ? 他の奴らはどうして人間のままなんだ?」

 ミズタは白い足を組んで、馬鹿を見物するように俺を見下ろした。

「あんたが『進化の粒』を受け継ぐものだからよ」

「『進化の粒』って何だよ。分かんねえ固有名詞ばかり次々出てくるじゃねえか。基本から説明しろ、基本から」

 マリが絨毯じゅうたんにぺったり座り込みながら語った。

「実は数万年前、今回の神族と魔族の争いを――魔族の神界への潜入を予言していた方がおられました。それが神界の賢者サイード様です。彼女は人間界へ降り立ち、まだ言葉も話せなかった初期の人間たちに『進化の粒』を与えました。ちょうど数万年後、すなわち現在に、受け継ぐものが覚醒するように。しかし『進化の粒』はごくごく稀少きしょうな上、効果も精度も低いものです。口にした人間の子々孫々ししそんそん、ごくごく一部だけが、或いは進化を始めるかもしれない……そんな非常に分の悪い賭けでした。しかし将来の神族の滅亡を恐れたサイード様は、それでも可能性があるならと、計画を実行なされたのです」

 マリは少し暗い顔をした。ショートボブの赤い髪が艶やかなカーブを描いている。

「しかし、何しろ数万年前の話です。神族の誰もが、サイード様の行ないをすっかり忘れていました。伝説のような位置づけで、誰も重要視していなかったのです。そこへ今回の魔族の侵攻です。ほぼ同時に現れた、人間界における異常な力の放射を検知したことで、ようやく私たちはサイード様のなされたことを思い出し、感謝したのです。ですが……」

 いかにも無念そうに首を振る。小さなピアスがつられて揺れた。

「魔族の側も、人間界で覚醒した超人類をスカウトしていたのです。この日本における最初の超人類は、どうやら魔界側に引き込まれたようです。ようです、というのは、私とミズタが――少し手間取って、遅れてしまいましたが――駆けつけたときには、もう異常な力が行方不明となっており、痕跡だけがわずかに残る程度だったからです。乱闘などの形跡がなかったことから、平和裏に取り引きが成立したと見るのが妥当でしょう。そこで私たちは焦り、次の異常な力である鏡さん、あなたに緊急に接触したのです」

 俺は足を投げ出し、斜め後ろに両手をついた。

「あー、俺の他にも超人類に覚醒した奴がいたってことか。しかもこの島国日本に。そいつと喧嘩出来れば良かったのになあ。惜しいことした」

 金色の滝が曲線を描いた。ミズタが髪をかき上げたのだ。

「あんたってホント喧嘩馬鹿ね。でもその方が私たちにとっても好都合かな」

 うるせえ、馬鹿じゃねえよ。喧嘩好きと呼べ。

「それで? おめえら神族や魔族ってのは何なんだ?」

「あたしたち神族は代々の女王の爪から生まれた存在よ。神界は今のハンシャ女王の治世で最盛期を迎えているわ。魔族はそんな神族に、魔界より攻撃を加えてきた一族。こうしている今も、円盤状の神界は魔族に領土を侵されつつあるの」

 円盤状か。まるで天動説みたいな世界だな。

「じゃあ魔界は神界の裏側とかか?」

 何気なくつぶやいた言葉は、どんぴしゃストライクだったらしい。マリが手を打ち合わせた。
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