学園ミステリ~桐木純架

よなぷー

文字の大きさ
上 下
151 / 156
05三学期の憂鬱

ミステリ小説コンペ事件04

しおりを挟む
★さつまいも事件(著・飯田奈緒)

 2年C組の仲良し4人組――優香ゆうかのぞみ、スバル、小春こはるは、全寮制の女子高で毎日を楽しく過ごしている。
 現在進行中のホームルームでは、規律に厳しいことで有名な観世音かんぜおん先生が、風紀の乱れを正すべく説教をしていた。丸い金縁眼鏡で髪は短く、年齢は50代半ば。黒い服を好んで化粧は申し訳程度だ。生徒手帳の校則をそらで唱えられるといわれるほどお堅く、特に無駄という無駄を極端に嫌う性格だった。女生徒たちの間ではルールブックと結婚した女性だと揶揄やゆされている。彼女の笑顔を見たというものは皆無だった。
 優香はこの先生が苦手だ。はきはきした声で喋りかけられると鞭打たれるようで、なるべく彼女の視界に映らぬよう気をつけて行動している。
 だが――。今日は観世音先生にお願いしなきゃならないことがあった。
 教師による生徒のあるまじき過食についての講釈は、ようやく終盤に差し掛かる。彼女は自分のように暴飲暴食をつつしみ、間食に手を出すことのないよう気をつけなさい、と話をしめくくった。
 やっとホームルームは解散となる。女生徒たちはそれぞれ寮への帰りじたくを始め、室内はにわかに騒々しくなった。先生が教室を出ようとする。優香は彼女を追いかけて呼び止めた。振り向いた先生は鋭い眼光で優香を見下ろし、何の用かと尋ねてくる。
 実は昨日、実家のおばあちゃんが、優香の元へさつまいもを5個届けてくれた。優香はそれを仲良し4人組で食べるべく、家庭科調理室のレンジを使わせてほしい、と観世音先生に訴えた。物怖じしなかったといったら嘘になる。今しがた間食を非難していた彼女だ、優香の願いはすぐさま突っぱねられるだろう――そう覚悟もしていた。
 だが意外にも先生は了承した。ただし4人が食べ過ぎないよう見張るべく、自分が立ち会うことを条件にして。
 こうして夕方5時、4人組は観世音先生の監視のもと、レンジでさつまいもの調理を始めた。洗ったさつまいもをペーパータオルで包み、それをラップでくるむ。600ワットで1分半加熱し、200ワットで10分ほど温めて甘味を引き出す。竹串が通るようなら出来上がり。
 ホクホクのさつまいもに舌鼓を打つ4人。この女子高では食事中の会話は厳禁なので、無心に食べ進める。足りなくなるかもと危惧して持ってきた5個目のさつまいもは、調理しないまま持ち帰ることになりそうだった。
 そこでふと、優香は物欲しそうな先生の視線に気がつく。やっぱりさつまいもを食べたいのだろうと察し、どうですかと勧めた。先生はしかし、過食はよくありませんとあくまで固辞する。
 優香はこの融通の利かない頑固な教師に、どうやったらさつまいもを食べさせられるか思案した。さて、どうしよう?

 優香は望、スバル、小春と目顔めがおで企図を共有しあうと、5個目のさつまいもを調理し始める。観世音先生は過食だとして叱りつけてきた。優香はしかし、4人で分け合うこと、1個だけ残すのも半端すぎることなどを挙げ、どうにかさつまいもを作り上げた。そして4人は目配せで意思を揃える。やはりお腹一杯だし間食はよくない。これ以上食べるのはやめておこう。でも、このままではせっかくのさつまいもが「無駄」になる。そう、観世音先生が大嫌いな「無駄」に。
 先生は優香たちの意図を察して不快感を示した。しかし容赦なく増幅させられていた食欲に、最後は屈する。
 それなら自分が食べておきましょう――彼女はそう口にしたのだ。優香たちの視線と微笑みに赤い顔をしながら、観世音先生はさつまいもを食べるのだった。そうして、あまりのおいしさに初めて相好を崩すのだった。



「これミステリ小説か?」

 英二が一同の感想を代弁した。奈緒が顔を両手で隠す。

「だから嫌だったのよー。朱里ちゃんの後にこれを出すの恥ずかしくて……」

 しかし純架はこの作品を激賞した。

「いいじゃないかね。伏線がオチに繋がっているし、どうやって食べさせるのかは興味をかき立てられたよ」

「ホント!?」

 俺も彼女を持ち上げる――下心なしに。

「お堅い先生と仲良し4人組のほほえましいお話だよな。入学式の舞台で発表するにはふさわしいし、聴いた新入生たちはほっこりするに違いないよ」

 朱里は手厳しかった。コーヒーカップを傾けて喉をうるおすと、最大の弱点を指摘する。

「オチに意外性がないですよ。オレはあんまり……。『探偵部』の活動を伝えるにはちょっと駄目ですね」

「そんなぁ」

 日向も朱里に気まずく同意した。

「普通の小説としてはすっごくよかったんですけど、ミステリ小説でないのがやっぱり目的に沿わないというか……」

 奈緒は悲嘆にくれる。がっかりとため息をついた。

「5000円が……とほほ」

 次は結城の番だ。彼女は普段は英二の影に徹しているので、こういった自分の主義主張を表明する機会は滅多にない。どんなものかお手並み拝見といこうじゃないか。

「では、まいります」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

処理中です...