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05三学期の憂鬱
ミステリ小説コンペ事件02
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そして4月6日午前10時。俺の家にどやどやと『探偵部』の面々が到着する。まずは三宮英二と菅野結城の主従カップル。手土産に高級どら焼きを持ってきてくれた。俺は感謝する。
「ありがとな、英二、菅野さん。上がってくれ」
英二は大あくびをした。明らかに寝不足で、目の下にはじゃっかんの隈が浮いている。
「純架の電話で企画には賛成した。だが俺もミステリ小説など勝手が分からん。しかも3分間でオチまでつけなきゃいけないとはな。おかげで昨夜遅くまでパソコンとにらめっこだ。お前はどうだ、楼路? いい作品は書けたか?」
俺は頬をほころばせた。出来上がったものに手応えを感じていたのだ。
「まあ、俺の発表の番になったら驚くぜ。それだけは約束していい」
次に現れたのは飯田奈緒と辰野日向の女子コンビ。こちらは元気そうだった。
「富士野くんの自宅に来るなんて久しぶりね。日向ちゃんとは途中で一緒になったよ」
「飯田さん、辰野さん、どうぞどうぞ。歓迎するぜ」
「これ、お土産の抹茶ケーキです」
日向が紙袋を持ち上げた。純架は抹茶好きだったな、と思い、さすがはあの奇人の隠れた恋人だけはある、と苦笑する。
俺の部屋は一気に狭苦しくなった。終業式以来の再会で、会話も自然と弾む。
しかし肝心要の『探偵部』部長、桐木純架がいまだ現れない。俺は何かあったのかとスマホをかけてみた。
「もしもし、富士野楼路だけど。純架か?」
「いいえ、私は朝青龍です。今はモンゴルで実業家をしています」
ここまで幼稚な嘘をつける高校生って、今どき純架ぐらいのものだろう。
「ふざけてないで早く来いよ。家が隣なんだしな」
「楼路くんと話してると冗談が通じなくて困るね。今行くよ」
こうして最後の客、純架が我が家にやってきた。なぜかメジャーリーグ野球選手・大谷翔平のユニフォームを着ている。
ファンなのか?
俺の部屋に入って『探偵部』一同を見渡すなり、「卿らの討議も、長いわりに、なかなか結論がでないようだな」とのたまった。
『銀河英雄伝説』のオーベルシュタインかよ。
あ、そうだ、一応聞いておかなきゃ。
「純架。実は俺の妹の朱里も、コンペに参加したいっていって、作品を書いてきたんだけど……」
純架は直前の参加希望報告にも、鷹揚に首肯した。
「いいね! じゃあ朱里くんも加わっていただこう。早速この場に呼んで……」
「コーヒー持って来ました、先輩方」
トレイにマグカップを7個載せて、朱里が入室してきた。奈緒が立ち上がって出迎える。
「きみが富士野朱里さんね。私は『探偵部』所属の飯田奈緒よ。話は富士野楼路くんから聞いてる。よろしくね」
親しみを込めたあいさつだった。これには朱里も恐縮する。トレイを丸テーブルに置きながら、一同に頭を下げた。
「今日は義兄のためにお集まりくださって、感謝しております。インスタントのコーヒーですが、味はいいのでお熱いうちに召し上がってください」
何だ、朱里は結構まともな口を利けるんじゃないか。普段の俺に対する態度とは打って変わって、おしとやかに振る舞う彼女。新たな一面を見せ付けられて、俺は朱里への評価を変えざるを得なかった。
純架が抹茶ケーキを頬張りながら、中学3年生に尋ねる。
「きみも参加するんだってね。楼路くんから聞いたよ。大歓迎だ」
こうして『探偵部』6人と朱里の、計7人が狭い部屋におさまった。
「それじゃあ早速『ミステリ小説コンペティション』、始めようか。誰からいくか、まずは公平なくじ引きで決めよう」
純架は持参していた割り箸6本入りのコップを机に置く。
「隠れた先端に番号入りの紙片が貼られてあるんだ。みんな、箸をつまんでくれたまえ。朱里くんはゲストってことで、1番最初に発表してもらおう」
俺たちはコップから飛び出している箸の上端を手にする。6人全員に行き渡った。
「一斉に引くよ。せーのっ!」
みんなそれぞれ引いたくじの番号に一喜一憂する。俺は3番か。
「あーっ、私1番じゃない」
奈緒ががっかりしたように叫ぶ。俺は首をかしげた。
「朱里の次の番ってことか。でも飯田さん、別にそんなにしょげ返ることでもないと思うんだけど」
彼女は頬をふくらませる。ご不満らしい。
「だって、こういうのは後ろにいけばいくほど有利でしょ? いろんなコンクールとかだってトップバッターは審査員の記憶に残りにくいっていうし」
まあそれは一理ある、か。でもそうなると、奈緒より先にやる朱里は圧倒的不利ってことだけど……
ともあれ、1番は朱里、2番は奈緒、3番は結城、4番は俺、5番は日向、6番は純架、7番は英二と決まった。
「俺が最後でいいのか? 何か悪いな」
英二は嬉しそうに相好を崩す。くそ、いいくじ引きやがって。
結城は俺に笑顔をひらめかせた。
「富士野さんと私は中盤ですね。盛り上げていきましょう」
英二の専属メイド兼ボディガードの結城が、ミステリ小説を書く。どんな内容なのか、俺は興味を抱いた。まあそれも、すぐに満足させられるわけだが。
日向が高級どら焼きに舌鼓を打っている。甘いものが好きなのか、単に空腹だったのか、誰よりも先に自分の分をたいらげた。
「部長の桐木さんの作品、楽しみにしてますよ」
「うん、期待していてくれたまえ、辰野さん。そうそう、抹茶ケーキありがとう」
では、と純架が座りなおした。一同を見渡し、満足そうに微笑む。
「朱里くん、自作品の朗読を始めてくれたまえ」
かくしてミステリ小説コンペは始まった……
「ありがとな、英二、菅野さん。上がってくれ」
英二は大あくびをした。明らかに寝不足で、目の下にはじゃっかんの隈が浮いている。
「純架の電話で企画には賛成した。だが俺もミステリ小説など勝手が分からん。しかも3分間でオチまでつけなきゃいけないとはな。おかげで昨夜遅くまでパソコンとにらめっこだ。お前はどうだ、楼路? いい作品は書けたか?」
俺は頬をほころばせた。出来上がったものに手応えを感じていたのだ。
「まあ、俺の発表の番になったら驚くぜ。それだけは約束していい」
次に現れたのは飯田奈緒と辰野日向の女子コンビ。こちらは元気そうだった。
「富士野くんの自宅に来るなんて久しぶりね。日向ちゃんとは途中で一緒になったよ」
「飯田さん、辰野さん、どうぞどうぞ。歓迎するぜ」
「これ、お土産の抹茶ケーキです」
日向が紙袋を持ち上げた。純架は抹茶好きだったな、と思い、さすがはあの奇人の隠れた恋人だけはある、と苦笑する。
俺の部屋は一気に狭苦しくなった。終業式以来の再会で、会話も自然と弾む。
しかし肝心要の『探偵部』部長、桐木純架がいまだ現れない。俺は何かあったのかとスマホをかけてみた。
「もしもし、富士野楼路だけど。純架か?」
「いいえ、私は朝青龍です。今はモンゴルで実業家をしています」
ここまで幼稚な嘘をつける高校生って、今どき純架ぐらいのものだろう。
「ふざけてないで早く来いよ。家が隣なんだしな」
「楼路くんと話してると冗談が通じなくて困るね。今行くよ」
こうして最後の客、純架が我が家にやってきた。なぜかメジャーリーグ野球選手・大谷翔平のユニフォームを着ている。
ファンなのか?
俺の部屋に入って『探偵部』一同を見渡すなり、「卿らの討議も、長いわりに、なかなか結論がでないようだな」とのたまった。
『銀河英雄伝説』のオーベルシュタインかよ。
あ、そうだ、一応聞いておかなきゃ。
「純架。実は俺の妹の朱里も、コンペに参加したいっていって、作品を書いてきたんだけど……」
純架は直前の参加希望報告にも、鷹揚に首肯した。
「いいね! じゃあ朱里くんも加わっていただこう。早速この場に呼んで……」
「コーヒー持って来ました、先輩方」
トレイにマグカップを7個載せて、朱里が入室してきた。奈緒が立ち上がって出迎える。
「きみが富士野朱里さんね。私は『探偵部』所属の飯田奈緒よ。話は富士野楼路くんから聞いてる。よろしくね」
親しみを込めたあいさつだった。これには朱里も恐縮する。トレイを丸テーブルに置きながら、一同に頭を下げた。
「今日は義兄のためにお集まりくださって、感謝しております。インスタントのコーヒーですが、味はいいのでお熱いうちに召し上がってください」
何だ、朱里は結構まともな口を利けるんじゃないか。普段の俺に対する態度とは打って変わって、おしとやかに振る舞う彼女。新たな一面を見せ付けられて、俺は朱里への評価を変えざるを得なかった。
純架が抹茶ケーキを頬張りながら、中学3年生に尋ねる。
「きみも参加するんだってね。楼路くんから聞いたよ。大歓迎だ」
こうして『探偵部』6人と朱里の、計7人が狭い部屋におさまった。
「それじゃあ早速『ミステリ小説コンペティション』、始めようか。誰からいくか、まずは公平なくじ引きで決めよう」
純架は持参していた割り箸6本入りのコップを机に置く。
「隠れた先端に番号入りの紙片が貼られてあるんだ。みんな、箸をつまんでくれたまえ。朱里くんはゲストってことで、1番最初に発表してもらおう」
俺たちはコップから飛び出している箸の上端を手にする。6人全員に行き渡った。
「一斉に引くよ。せーのっ!」
みんなそれぞれ引いたくじの番号に一喜一憂する。俺は3番か。
「あーっ、私1番じゃない」
奈緒ががっかりしたように叫ぶ。俺は首をかしげた。
「朱里の次の番ってことか。でも飯田さん、別にそんなにしょげ返ることでもないと思うんだけど」
彼女は頬をふくらませる。ご不満らしい。
「だって、こういうのは後ろにいけばいくほど有利でしょ? いろんなコンクールとかだってトップバッターは審査員の記憶に残りにくいっていうし」
まあそれは一理ある、か。でもそうなると、奈緒より先にやる朱里は圧倒的不利ってことだけど……
ともあれ、1番は朱里、2番は奈緒、3番は結城、4番は俺、5番は日向、6番は純架、7番は英二と決まった。
「俺が最後でいいのか? 何か悪いな」
英二は嬉しそうに相好を崩す。くそ、いいくじ引きやがって。
結城は俺に笑顔をひらめかせた。
「富士野さんと私は中盤ですね。盛り上げていきましょう」
英二の専属メイド兼ボディガードの結城が、ミステリ小説を書く。どんな内容なのか、俺は興味を抱いた。まあそれも、すぐに満足させられるわけだが。
日向が高級どら焼きに舌鼓を打っている。甘いものが好きなのか、単に空腹だったのか、誰よりも先に自分の分をたいらげた。
「部長の桐木さんの作品、楽しみにしてますよ」
「うん、期待していてくれたまえ、辰野さん。そうそう、抹茶ケーキありがとう」
では、と純架が座りなおした。一同を見渡し、満足そうに微笑む。
「朱里くん、自作品の朗読を始めてくれたまえ」
かくしてミステリ小説コンペは始まった……
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