上 下
35 / 50
新プロジェクトとニューチューバー

第35話 結論

しおりを挟む
 時刻は16時30分。
 就業時間まで残り30分と迫っている。
 しかし、未だ何も解決策は思い付いていない。

 どうすればいい。
 どうすれば、早見ちゃんも心愛も傷つけずに全てが丸く収まるんだ。
 心愛との約束は当然守りたい。
 だが、早見ちゃんとの食事にも絶対行きたい。

 ……よし、早見ちゃんに食事の日をずらしてもらおうじゃないか。
 いやいや、冷静に考えてそれは無理だな。
 彼女の性格上、他の予定が自分の予定より重要だと伝えた瞬間機嫌を損ねて今後一生食事には行ってくれないだろう。

 ならば心愛に予定を変更してもらうしかなさそうか。
 でもなぁ、昨日の件もあるし約束までしちゃったもんなぁ。
 会社のデスクで一人もがき苦しんでいる俺の姿を見た他の社員達は、スーッと俺から距離をとった。

 「ちょっと悟、何さっきから変に体を動かしてんのさ」
 「ほっといてくれ」
 「機嫌最悪だね。なんかあった?」
 
 今日も爽やかにお節介を焼いてくる翔。
 普通の人間ならわざわざ面倒事には関わりたくない筈なのに、この男は裏表のないただの親切心で俺を助けようと必死になってくれる。
 ほんと、お前がいい奴過ぎて俺は時々無性に自分が小さく感じてしまうよ。

 「まあ、ちょっとな」
 「俺に話せない内容?」
 「俺自身の問題だ。気にしないでくれ」
 「そっか。それなら仕方ないか」
 「悪いな。でも心配してくれてサンキュー」

 俺は今出来る最高の笑顔を翔に向けた。
 これで少しは心配性の翔を安心させれたはずだ。
 その後お互いに軽く冗談を言い合って、翔は自分の席に戻っていく。

 しかし、翔と言う人間は普通の人以上に感の鋭い男。
 席に戻って行く途中、奴はこちらを振り返り俺だけに聞こえる声で言葉を発した。
 
 「二兎追うものは一兎も得ず……だよ」

 それだけ言い残して、翔は自分の席に戻って行った。
 あいつは最初から全て分かっていたのかもしれないな。
 今朝の心愛が言っていたメンタリストとは、一ノ瀬翔の事なのでは?とそんな事を考えながら翔に言われた言葉を改めてスマホで検索してみた。

 「何だよこれ」

 検索して出てきた言葉の数々を見て、思わず呟いてしまった。
 二人の女性を同時に手に入れようとすれば、その二人ともを失ってしまう……みたいなのとか。
 会社の上司のことが好きになってしまったが、今の彼女の事も手放したくはない。だからその両方と同時に付き合う事にしたのだが、結局二股がバレて二人から振られてしまったとか。

 こんな書き方されたら、まるで俺が心愛の事を狙ってるみたいじゃねえか。
 俺が好きなのは早見ちゃんで心愛はただの……俺のファン第一号だ。
 だからこう言う場合、俺が優先すべきは自分自身の幸せなんじゃないのか。
 心愛だって俺の幸せを喜んでくれるはずだ。
 
 そうだ間違いない。
 今日の予定は早見ちゃんとの食事を優先しよう。
 そう答えを導き出した俺は、すぐさまLimeで心愛に断りの連絡を入れた。

 『すまん心愛、今日の約束行けなくなってしまった。仕事が終わりそうになくてな。また次の機会にでも飯に行こう』

 何故か本当の理由は心愛に伝える事が出来なかった。
 理由は分からないのだが、早見ちゃんとの食事の事を打とうとした時一瞬だけだが怖くなってしまったのだ。
 具体的に何に対して怖くなったのかと問われても、明確な回答は出来ないと思う。
 心愛への連絡を終えた後、俺はスマホの電源を落とした。
 どうせ心愛から鬼のように怒り連絡が来ると思ったからだ。

 そして時刻は17時となった。
 仕事が終わり、俺は会社の外へと出る。
 11月も後半に差し掛かると、17時でも外はすでに真っ暗だ。
 そんな中で一人、全体的に黒をベースとした地雷系ファッションで身を包んでいる女性がスマホで何かを必死に見ていた。
 スマホの光で顔がうっすらと見えているだけなのだが、とても可愛い子だと言うのが分かる。

 「お待たせ」
 「もう先輩!さっきから何回も連絡入れてるんですけど!」
 「あ……まじで。ごめんごめん、今スマホの充電切れててさ」
 「ええーー!!スマホの充電切れるとか私なら普通に死ねます。まあ先輩はそんなにスマホ使わなさそうなんで、別にダメージはないかもですが……。でもあんまりスマホ使わない人がなんで充電切れてるのかって言う謎もありますよね」
 「寝る前に充電し忘れてたんだよ……ハハ」

 引き攣り笑顔を見せながら、俺は下手な嘘をついた。
 心愛にならすぐに見抜かれるであろう嘘だが、早見ちゃんには余裕でバレなかった。
 その後も早見ちゃんからはスマホの件や心愛と美久の件で色々と小言を言われたが、俺は大人な対応で華麗に受け流すことに成功。

 そして会社から歩く事10分。
 なかなかにお洒落なレストランが俺と早見ちゃんの前に現れた。
 
 「ここです!」
 「おお……、これはまた高級そうなレストランだな」
 「私の行きつけです。今日は遠慮せずに好きな物を食べてくださいね」
 「マジで?」
 「当たり前です!今日は先輩の為に貸切にしたんですよ?」
 「貸切!?」

 今俺の目の前にいるこの女性は一体何者なのだろうか。
 普段はどちらかと言うとあまり仕事が出来ない部類に入る俺の部下として共に働いているが、本当の早見月姫と言う存在を今日改めて知る事になるのかもしれない。
 
 「さあ入りましょ~~」
 「お……おう」

 
 
 
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...