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ファン第一号と片思いの相手

第15話 心愛への相談

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 次の日の朝、いつも通りの時間に俺は家を出た。

 だが、珍しく今日は大幅に寝過ごしてしまい、俺の見た目は不清潔極まりない状態になっている。
 髪はボサボサでひげは剃れておらず、おっさん臭全開って感じだ。

 本当にまいったぜ。
 徹夜までして翔から恋愛話をうまく聞き出す為の方法を考えていたのに、結局何も思いつかなかった。

 早見ちゃんとの約束の日まで、もうあまり時間がないと言うのに。
 今の俺の状況は、ハッキリ言って最悪だ。

 そして何度かため息を吐きながら、ゆっくりと商店街入り口地点へ向かった。

 そろそろ心愛が待っている場所だ。
 こんな辛気臭いままでは、絶対心愛に心配されてしまうな。

 俺はいつもの商店街入り口地点の近くで、深い深呼吸を2、3回行なった。
 そうする事で、気持ちがリセットされると何かの本で読んだからだ。

 よし、これでバッチリだ!

 何が変わったかもよく分かっていないまま、心愛の待つ場所まで歩いて行く。

 「おはようです!神谷さん」
 「おはよ。心愛」

 スマホを見ながら待っていた心愛が、俺に気づいて恒例の挨拶をしてきた。
 その挨拶を自然に受け入れ、自然な流れで返す。

 「あれ神谷さん、今日はいつもより清潔感がないですね」
 「わかるか?ちょっと寝坊してしまってな」
 「こうして見ると、神谷さんもおじさん何だなって思っちゃいます」
 「おじさん言うな。それにまだ30だからな」
 「そうでした。独身のおじさんでしたね」
 「あれ?俺の話聞こえてます?」

 俺たちはいつも通りのやり取りを交わす。
 しかし、そんなやり取りの最中に突然心愛が話すのを止めた。

 そしてこっちをじーっと見つめてくる。

 なんだ?
 俺の顔に何かついているのか?

 俺が不安そうな表情を浮かべると、心愛が何かを察した様に頷いた。

 「今日の神谷さん、いつもよりテンション低くないですか?」
 「そ……そうか?」
 「絶対そうです!私の見抜く癖はすごいですから」
 「また癖か。だが今回のその癖、全然信用性ないぞ」
 「そんな筈はありません。だって私、失敗しないので」
 「どっかの天才ドクターじゃあるまいし、人間は時に失敗する生き物なんだよ」

 そう言って、元気だとアピールをする為に少しシャドーボクシングをして見せる。
 元気がある時にする事が、あまり思い付かなかったのでこれで勘弁して欲しい。

 すると心愛が、明らかに呆れた顔をしてこっちを見てくる。
 そして少し経ってから口を開き始めた。

 「神谷さん……本当に大丈夫ですか?」
 「これを見てもまだ信じてくれないのか?シュ、シュシュ」

 心愛の顔を見ながら、右ストレートと左ストレートを交互に撃ち続ける。
 慣れない運動のせいか、相当息を切らしていた。

 そして心愛が、首を左右に振って俺に話しかけてくる。

 「その行動を見て、神谷さんの頭をさらに心配しています」
 「俺の頭がおかしいとでも?」
 「ノーコメントで」
 「いやいや、今更遅いから」
 「いつも以上に変なのは確かです」
 「ちょっと待て。今の言葉で引っかかる点があったのだが」
 「そうですか?やっぱり細かい人ですね」
 「俺は細かいのではない。感受性が豊かなんだ」

 そんなやり取りをした後、心愛がまたしても俺の事をじーっと見つめてくる。
 次はほっぺを膨らましていたので、見つめられていると言うよりかは睨まれていると言う方が表現としては正しいのかも知れん。

 多分心愛は、本当の事を早く言えと俺に圧をかけているのだろう。
 そんな圧を無視するかの様に、俺は別の方向を見ていた。

 「神谷さんは意地悪です」
 「そ……そんなつもりじゃ……」

 心愛の悲しそうな声に、若干焦ってしまった。
 流石に女子高生を泣かせる訳にはいかないからな。

 「じゃあ本当の事を話してください。私、神谷さんの力になりたいんです」
 「はぁ、分かったよ」
 「本当ですか!」
 「ああ」

 心愛のしつこさに負けた俺は、結局悩みを話す羽目になった。
 大人の男として、女子高生に悩みを相談すると言うのはいかがなものか……。

 色々と自分の中で葛藤しながら、何から話そうか悩んでいた。
 すると、ある事を思いつく。

 女子高生の心愛なら恋愛話の上手い聞き出し方とか何か知ってそうだよな。
 女子高生に頼ると言うのは大人としてどうかと思うが、今はそんな事を言っている場合では無い。

 そうだぜ。
 これは、心愛の力になりたいと言う思いを尊重しての事だ。

 そう自分に言い聞かせて、心愛に悩み事を話し出す。

 「じゃあ話すぞ」
 「はい、いつでもどうぞ」

 心愛が興味津々と言う表情で、俺にすごく近づいてくる。
 俺は少しドキッとしながらも、あまり顔を見ない様にして話し始めた。

 「女の上司がいるんだが、その人の命令で仲の良い同僚から好きな女性のタイプを聞き出さないといけなくなったんだ」
 「それはそれは、とても厄介そうですね」
 「それで、どうやって聞き出そうかとずっと悩んでいたんだ」
 「分かります。その気持ち」
 「何かいいアイディアとかあったりしないか?」

 すごく簡略化して、設定も少し変え心愛に説明した。
 それを聞いた心愛は、両手の人差し指で顳顬をぐるぐるさせながら必死にアイディアを考えてくれている。

 本当、いい奴だよな。
 相談して、よかったぜ。

 そして心愛は何かを閃いた様子で、俺ににっこりと笑いかける。

 「神谷さん、まずはこれまでの状況を詳しく教えてください」
 「お……おお」

 俺はこれまでの事を名前は伏せつつ、説明した。
 俺の臆病っぷりが、心愛へとても伝わっただろう。

 

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