サラリーマンが女子高生を救ったら、女子高生がサラリーマンのファンになってしまった。人生まだまだ捨てたもんじゃない。

チョコズキ

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ファン第一号と片思いの相手

第9話 緊張と偶然

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 早見ちゃんからお願いされて、俺は今チャネルの店にやって来ていた。
 高級感溢れる外観と内装に、貴族をモチーフにした制服姿の従業員達。

 そして、客が全員女性と言う何ともカオスな空間だ。

 「いらっしゃいませ。本日はどう言った物をお探しで?」
 「ええと……、限定のリップとかって……ありますか?」

 とても気品に満ちた店員の女性が、話しかけてくる。
 しかし、心の準備が出来ていなかった俺はスムーズに言葉が返せなかった。

 「はい、ございますよ。こちらにどうぞ」

 カウンターに案内され、椅子に座る。
 カウンターのガラスケースには、チャネルのアイテムが綺麗に並べられていた。

 すごいな。
 どれも高そうだ。

 「お待たせしました。お客様、こちらが100本限定のチャネルルージュアリュールヴェルヴェットルリオンドゥチャネルルージュでございます」

 ん?今何と?
 一言も聞き取れなかったんだが……。

 「は……はい。それで」

 もう何でもいいと思ってしまい、適当に返事を返した。

 「それではこちら、お包みしますか?奥様にはこのラッピング、彼女様にはこちらのラッピングなんかに分かれていますが」
 「じゃ……じゃあこっちで」
 「かしこまりました。では奥様用のラッピングでお包みしますね」
 「よ……よろしくお願いします」

 ヤッベーー!
 もうなんか訳わからないまま、話を進めちまったーー!

 いつから早見ちゃんが俺の奥さんになったんだよ!

 そんな後悔に見舞われながら、数分間商品が完成するのを待った。

 そして店員さんが、綺麗に包装された品物を俺の元へと持ってくる。

 「大変お待たせしました。こちらがお品物です」
 「ありがとうございます」

 渡された品物を手に持ち、会計を済ませる事に。

 「本日は、ご購入ありがとうございました」
 「いえいえ、こちらこそ」
 「またのご来店、お待ちしております」

 こうして俺は、何とか無事にチャネルのリップを手に入れる事が出来た。

 店から出てすぐにスマホを取り出す。

 そうだ、ちゃんと買えた事を早見ちゃんに報告しとかないと。

 『お疲れさん。ちゃんと買えたぞ』
 『本当ですか!さすが先輩ですね』
 『まあな』
 『じゃあ月曜日に持って来て下さいね』
 『分かった』

 よし、報告も終わったしどっかでお茶でもして帰るか。

 チャネルの店から歩いて15分。

 この辺りで何か良さそうな店ないかなぁ。
 どうせなら来週の土曜日に、早見ちゃんを連れて来れるようなお洒落な店が良いんだが。

 ……

 ……

 お!
 あそこなんて良いんじゃないか?

 カフェ・ド・ブラン

 すげぇお洒落そうだ。
 外観もファンタジーの世界に出て来そうな感じで、俺の好みにもバッチリだ。

 では入ってみますか。

 ガチャ。

 「いらっしゃいませー!お客様、何名様ですか?」
 「一人です……ってあれ?」
 「神谷さん!?」
 「心愛!?」

 何ともこんな偶然があるのだろうか。
 たまたま入った店で、心愛がバイトをしているなんて。

 「神谷さん、偶然ですね」
 「本当びっくりしたぞ」
 「神谷さんでもカフェとか来たりするんですね」
 「お前は俺の事を何だと思ってるんだ」
 「独身で30歳の可哀想な……これ以上はやめときます」
 「そこまで言ったなら最後まで言っても変わんねえぞ」

 そんなやり取りを軽くした後、俺は心愛に席まで案内された。
 カフェの中も、外観と同じようにファンタジーの世界を意識して作られているようだ。

 それに、このカフェで働く店員さん達の制服もそれぞれ個性があってまた良い。
 心愛は全体的に白で統一されており、ファンタジー作品に出てくるお姫様のような雰囲気を表している。

 「神谷さん、一つ言っておきますね」
 「何だ?」
 「ちょっと周りのお客様を見てみて下さい」

 心愛にそう言われ、周りを見渡した。

 ええと、カップル、カップル、カップル、カップル……。
 これってまさか。

 「心愛、この店のお客の特徴って」
 「はい、その通りです。なので今、神谷さんはとても変な目で見られてると思いますよ」
 「それ知ってたんなら、何故席に通す前に言ってくれなかったんだ!」
 「その方が面白いかなって。てへ♪」
 「てへやめて。それに全然面白くねえよ」

 これ完全にやっちまったやつだよな。
 カップル御用達の店に、30歳のサラリーマンが一人で居るって絶対変な人扱い認定じゃねえか!

 「心愛よ。俺はもう帰るぞ」
 「駄目ですよ」
 「どうしてだ!」
 「だって、一度席に着いたら何か頼まないと出れないって言うルールが」
 「嘘だろ」
 「本当ですよ。ほら」

 心愛の指差す方向に目をやった。
 そこには確かに、ルールーがいくつか書いてある貼り紙が貼られていた。

 仕方ない。
 何か適当に頼んで、さっさと出るとしよう。

 「店員さん、ちょっといいか」

 店内を歩いていた心愛に声を掛けた。

 「お客様、何でしょうか?」
 「この、妖精のエキスジュースをもらおうかな」
 「分かりました。お客様の為に、妖精さんのありとあらゆるエキスをたっぷりとお入れしておきますね」
 「ちょっと店員さん!妖精さんの普通のエキスだけでいいからね!」

 心愛はそう言って、ニヤニヤしながら厨房の方へと入っていった。
 その間、変な飲み物を持って来られないか不安を感じつつも色々と周りを見て楽しんでいた。

 そして数分後。
 心愛がお洒落なグラスに入った独特な色をしているドリンクを持って来た。

 「お待たせしました。こちらがココアちゃん特製の妖精さんのスペシャルエキスジュースになりまーす♪うふふ」
 「あのう心愛さん、注文した商品の名前と少し変わっているようなのですが……」
 「神谷さん、私はあなたのファン第一号ですよ?」
 「あれ、言葉が通じてないのか?」
 「細かい事は気にしないでください♪」

 無茶苦茶だ。
 まあでも、せっかく作ってくれたんだしちょっと飲んでみるか。

 ……

 ……

 「美味い!」
 「当たり前ですよ!私が神谷さんの為に、愛情込めて作りましたから」
 「ありがとな。心愛」

 俺がそう言うと、心愛は少し照れ臭そうにしていた。
 そして、全て飲み干したので帰る事に。

 「心愛、じゃあ俺は帰るわ」
 「神谷さん、私ももう上がりなので駅まで一緒に行きませんか?」
 「お……おお。それなら外で待ってる」

 こうして俺は、心愛と一緒に駅まで帰る事となった。

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