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忘れられた悪魔

どうしても会いたくて

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そうして迎えた、二十一日目の夜。

おれを一人で残して行くことが不安なのか、出掛け際に何度もこちらを振り返っては「絶対ここから出るなよ」と繰り返していたケンさんの姿を思い出すと申し訳無い気持ちになるし、あとでバレたら怒られるだろうけど、リヒトに会いたいという気持ちの方が遥かに勝ってしまっていた為、おれは予定通り、ケンさんの小屋を静かに抜け出した。

近くの木にとまっていた梟に憑依し、まずはリヒトの家を目指す。
徒歩だと少し時間がかかるそこは、直線距離なら大して遠くなく、空を飛んでいくとすぐに辿り着くことが出来た。

リヒトに忘れられた一日目を除き、たった二十日の間離れていただけなのにすごく懐かしく感じる、リヒトとおれの大切な場所。
忘れられてしまうまでここで過ごした愛しい毎日を思い出すだけで、胸が熱くなる。

だけど、今この瞬間この建物の中に誰かがいる気配は感じられなかった。
つまり、おれが会いたくて堪らない彼は今ここにはいない。

出来ることなら大好きなこの家から離れたくないけど、ケンさん達が戻ってくるより先にケンさんの小屋に戻らないといけないおれには、いつまでも思い出に浸っている暇はないのだ。

ここにいないとなると次に目指すのはカリーナの家。

まだ行ったことはないけど、場所はリヒトから聞いていたから分かる。

リヒトに教えてもらった目印を頼りに飛んでいくと、リヒトの家から空を飛んで体感一分弱程度の場所にカリーナの住む家はあった。

初めて行くその場所を見逃さないようにゆっくり飛んでそのぐらいかかったから、地上を徒歩で移動したら多分十五分ぐらいはかかっていただろう。

ゆっくりと地上に降り立ち、周りに人がいないことを確認してから憑依を解く。

見上げた目の前の建物の中からは人の気配がして、ここにリヒトがいるんだ、そう思ったら、喜びなのか恐怖なのか緊張なのか、よく分からない感情で手足がガタガタと震えた。

さて、どうやって中に入ろう。
魔力を使って鍵を開けることは簡単にできても、この姿のままではバレてしまう。
困り果てていると、近くの草むらから微かに音がした。

気配を殺して近づくと、そこに居たのは小さな野ねずみ。
度重なるタイミングの良さに感謝しつつその小さな身体に憑依すると、わざわざ魔力を使って鍵を開けなくとも、外壁に空いたごく小さな穴から中に入ることが出来た。

穴を通って辿り着いた場所は、清潔感のあるこじんまりとした洗面所。
玄関から廊下を抜けた先にあるそこには扉がなく、一度廊下に出ると、二階から人の気配を感じる。

この小さな体ではそんなに大きな物音は立たないだろうけど念の為、少しの物音も立てないよう慎重に階段を上がっていくと、白い扉の向こうから話し声が聞こえてきた。


(...この扉の向こうに、リヒト達が居るのかな...。)


もし...もしリヒトが、カリーナと抱き合っていたら...キスをしていたら...おれをベッドで沢山愛してくれるのと同じようなことをしていたら...。

そんな場面を目撃してしまったら、おれは一体どうなってしまうんだろう。

ここに来るまではただただリヒトに会いたいという思いだけで、他のことを考える余裕など無かった。
だけどいざこうして実際に来てみると、これまで考えつかなかったシチュエーションが次々に浮かんできて怖気付いてしまう。

...まずは、中の音を聞いて少しでも状況を把握しておこう。

元の身体よりもかなり効く耳をピッタリと扉に押し当てると、中の物音や話し声が鮮明に聞こえてきて、そして。

その内容におれは思わず憑依を解き、扉を開けてその向こうへ飛び込んだ。
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