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忘れられた悪魔
一目だけでも...
しおりを挟むそんなことがあってから、もう二十日が過ぎた。
その間にリヒトは元に戻り、おれたちはまた以前のように仲良く平和な毎日を過ごしている。
...と言えたらどれだけ良かっただろう。
残念ながら相変わらずリヒトはおれのことを忘れてしまったままで、カリーナを恋人だと思い込んでいて仕事以外の時間はずっと二人で過ごしているらしい。
そしてリヒトがおれのことを忘れているということはつまり、リヒトにとっておれは祓うべき悪魔のうちの一体にしかすぎないということで、今この状態で接触してしまうと祓われてしまう可能性がある為、近寄ることすら出来なくて。
もう何ヶ月もの間ずっと一緒にいた愛する人と突然引き離され、その上一目会うことすらできない苦しみは想像以上で、おれは毎日泣いて過ごしていた。
二十日の間、何もしなかったわけではない。
正確に言うと、おれは何もしなかった...というか出来なかったけど、ケンさんとクオンは通常の職務の合間を見てリヒトを襲った悪魔について色々と調べてくれたし、リアムとカイはケンさんに命じられた通り毎晩それぞれがリヒトとカリーナの家の周辺を、バレないように上空から見張ってくれた。
だけど残念なことに、件の悪魔がリアムとカイの前に姿を現すことは無かった。
当然と言えば当然だ。
だって、通常悪魔達が姿を現す夜になると、カリーナの傍には、仕事を終えたリヒトが寄り添っているのだから。
最初こそ、まさか二体もの悪魔が同時に襲ってくるなんて思っていなかったリヒトが不意をつかれてやられてしまったかもしれないけど、本来のリヒトはすごく強い。
それは、ケンさんやクオンも口を揃えて言っていた。
だからその二体の悪魔達は一度リヒトと接触をし、その特性を知られて警戒されてしまった以上、無闇にリヒト達に近付くことができないのだろう。
姿を現さない限り、祓うことはできない。
そういうわけで結局なんの進展も無いまま、二十日が経ってしまった。
二十日の間、おれの傍には常に誰かしらが付き添っていてくれた。
それは、泣いているおれを独りにさせないようにという気遣いかもしれないし、目を離した隙にリヒトに接触しないよう見張られていたのかもしれない。
理由は分からないけど、日中はリアムかカイが。
夜はケンさんかクオンが、交代でずっと傍にいてくれて、色々と話し掛けてくれたから、孤独感を感じることはなかった。
だけど正直もう、リヒトに会えない寂しさはとっくに限界をこえていて。
一目でいいからリヒトに会いたい、話したり触れたりするのは無理でも、遠目から少しだけでも彼の姿を見たい。
...そして可能であればカリーナに接触して、リヒトを返して欲しいと伝えたい。
その思いは日に日に増していき、ついに抑えが効かなくなってしまったタイミングで、絶好のチャンスが訪れた。
リヒトがおれを忘れてしまってから二十一日目の夜...つまり明日、ケンさんとクオンに悪魔祓いの依頼が入ったのだ。
その上どちらの依頼も少し厄介らしく、カイとリアムもそれぞれの主について依頼人の元を訪れることになり、そうなると必然的におれの傍から誰もいなくなる時間が生まれる。
...その隙をついてケンさんの小屋を抜け出すことができれば。
カリーナに接触するのは難しくても、リヒトの姿を一目見ることぐらいならできるかもしれない。
会いたい。
どうしても会いたい。
こんなに辛い生活が続くのなら、もういっそのこと祓われてしまってもいい。
もはや自分ではどうすることも出来ないぐらい膨れ上がった気持ちを抑え込む術などなく、二十一日目の夜、おれはこの小屋を抜け出すことに決めた。
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