51 / 60
忘れられた悪魔
不器用な優しさ
しおりを挟むそれからおれとリアムとカイは、リヒトに遭遇しないようケンさんの執務室の窓から抜け出し、それぞれ外にいたカラスに憑依してケンさんの小屋へと飛んだ。
小屋の前で憑依を解き、中に入るとカイがおれの好物のホットミルクを用意してくれて、それを飲んでいたらリヒトの家のソファでリヒトとぴったり寄り添いながらホットミルクを飲んでいた時のことを思い出してまた涙が溢れてきた。
「ルカくん…苦しいね…」
「うぅ……っ、りひと、ほんとに、戻るの、かなぁ…?もし、戻らなかったら、おれ……」
「そん時は俺があのクソ祓魔師野郎のすかしたツラ一発ぶん殴って目ェ覚まさしてやるから大丈夫だ」
「ダメだよ、リアムの馬鹿力で殴ったらリヒトの首もげるから。ねぇルカくん、悔しいけど、ケンのおっさんは強いよ。俺でも敵わなかった。クオンも。リアムが勝てなかった祓魔師だからすごく強いんだと思う。だから大丈夫。絶対リヒトを元に戻してくれるから、信じて待とう?」
「わかってるの…ちゃんと、わかってる…ケンさんとクオンなら、きっと、なんとかしてくれる…それに、おれには、カイとリアムがついててくれてる、大丈夫、って、思ってるんだけど、でも、やっぱり、こわい…」
カイに抱き締められ、背中をさすられながらその腕の中でぐすぐすと泣き続けるおれに、二人は呆れるでもなく、見捨てるでもなく、ずっと優しい言葉をかけ続けてくれた。
そんな状態のまま、どれだけ経っただろう。
泣きすぎて頭が痛くなってきたし、息も苦しくなってきた。
いい加減泣くのをやめて、リヒトを元に戻すことだけ考えたい、そう思うのに、涙は全然止まってくれず、困り果てていた時だった。
「…ルカ、悪い」
掠れた声で突然そう呟いたリアムの人差し指と中指をおでこにあてられたかと思ったら、頭の中にぱちんという衝撃を受けたと同時に目の前がかすみ始めた。
「…っ?!ちょっとリアム、何してんのさ!」
「少しの間気絶させとくだけだ。ずっと泣きっぱなしの方がルカだって辛ぇだろ」
「だからって、こんなの…」
「…ルカにあんまり余計なこと考えさせたくねぇんだよ」
「…ほんっと、不器用だよね、リアムは」
「……うっせ」
遠のいていく意識の中、二人の会話がぼんやりと聞こえてくる。
(…そっか、リアムは、おれのために…。)
少しびっくりしたけど、仲間の不器用な優しさが嬉しくて。
「……ありが、と…」
上手く回らなくなった舌でそれだけ伝えると、おれは完全に意識を手放した。
2
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
チート魔王はつまらない。
碧月 晶
BL
お人好し真面目勇者×やる気皆無のチート魔王
───────────
~あらすじ~
優秀過ぎて毎日をつまらなく生きてきた雨(アメ)は卒業を目前に控えた高校三年の冬、突然異世界に召喚された。
その世界は勇者、魔王、魔法、魔族に魔物やモンスターが普通に存在する異世界ファンタジーRPGっぽい要素が盛り沢山な世界だった。
そんな世界にやって来たアメは、実は自分は数十年前勇者に敗れた先代魔王の息子だと聞かされる。
しかし取りあえず魔王になってみたものの、アメのつまらない日常は変わらなかった。
そんな日々を送っていたある日、やって来た勇者がアメに言った言葉とは──?
───────────
何だかんだで様々な事件(クエスト)をチートな魔王の力で(ちょいちょい腹黒もはさみながら)勇者と攻略していくお話(*´▽`*)
最終的にいちゃいちゃゴールデンコンビ?いやカップルにしたいなと思ってます( ´艸`)
※BLove様でも掲載中の作品です。
※感想、質問大歓迎です!!
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
蜘蛛の巣
猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω)
世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。
混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。
やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。
伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは?
※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
花を愛でる獅子【本編完結】
千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。
そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。
※本編完結いたしました。
今は番外編を更新しております。
結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。
楽しんでいただければ幸いです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる