42 / 60
誓い
ワガママを言って
しおりを挟む「ごめんね、ルカ。少し寂しい思いをさせるけど...」
「......んーん。お仕事だもん、仕方ないよ。おれのことは気にしなくていいから、気を付けてね...?」
夜も眠らずにカリーナの家で張り込むことにした俺は、カリーナの家に出向く前にルカを補給し、仮眠を取ってから向かおうと仕事を早めに切り上げ一度帰宅した。
自宅の玄関扉を開け、ただいま、と声を掛けると、入ってすぐ右側にあるダイニングテーブルでミルクを飲みながらレシピ本をめくっていたルカが、予想外に早い俺の帰宅に驚いた顔をしたあとすぐ嬉しそうに笑って駆け寄って来たのを抱き締め、ただいまのキスをして。
ひとしきりルカの甘い口内を堪能してから、今夜からのことを話すと、おれのことは気にしなくていいからなんて言いつつも寂しさを隠しきれないのか、眉が八の字に下がり下唇をきゅっと噛んで目を伏せてしまったルカに、仕事とは言え心が痛む。
「ルカ、おいで?」
「...なぁに?」
すっかりしゅんとしてしまったルカの手を引き、玄関を入って左側にあるリビングスペースのソファに並んで腰を下ろすと、不思議そうに見上げてくるルカと片手は指を絡めて繋ぎ、もう片方の手でピンク色の髪を優しく撫でた。
「強がらなくていいんだよ。寂しい時はちゃんと寂しいって言いな?」
「…...だめ。リヒトのこと困らせたくない」
俺と目を合わせてしまったら気持ちが抑え込めなくなってしまいそうなのだろう。
ずっと目を逸らしたまま、ふるふると左右に首を振るルカのいじらしさにこっちが泣きそうだ。
本当に、悪魔のクセして一体彼はどこまで健気なのか。
まあ、そういう彼だからこそこんなにも惹かれてしまったのだけれど。
「迷惑だなんて思わないよ。だって、俺はすごく寂しい。罪の無い人を悪魔から守るためとはいえ、ルカと過ごす時間が減るんだから」
「リヒト......」
「それとも、ルカは違う?寂しいのは俺だけ?」
「...っ、そんなわけないじゃん!おれだって寂しいもん!だけどそんなワガママ言ってもリヒトを困らせるだけだから...おれ...!」
とうとう泣き出してしまった彼を大切に大切に腕の中に閉じ込め、髪を撫で、背中をさすってやる。
一度溢れてしまった涙はなかなか止めることが出来ず、俺のシャツの胸元に染み込んでくるその冷たさすら愛しい。
「...うう......っ、りひ、との、ばか...」
「意地悪言ってごめんね。ルカの本当の気持ちが聞きたかったから」
「いわなくたって、わかるでしょ...っ」
「うん、そうだね。でもちゃんとルカの口から聞きたかった」
「......ほんとは行って欲しくないよ。昼間もお仕事で会えないのに、夜も家にいないなんて嫌...」
「そうだよね、ごめんね」
はたから見たら、たかが数日、夜に家を空けるだけでそんな大袈裟な...と思われるかもしれない。
だけどカリーナを悩ませる淫魔を祓うまでこの任務は続くのであって数日で終わるとは限らないし、日中は普段通り神父の仕事もあるから、実質ルカに会えるのは朝仕事に出掛ける前と、一度帰宅してカリーナの家に出掛けるまでのほんの僅かな時間だけ。
周囲も呆れるほど互いに溺愛していて、しかも永遠の愛を誓い合ったばかりの、言うなれば新婚同様の俺達にとってそれがどれだけ辛く寂しいことか……察して欲しい。
「...でも、リヒトの負担になるのが一番嫌だから。ワガママ言わないで良い子でお留守番してるから、なるべく早く終わらせてね...?」
「もちろん。すぐに終わらせて帰ってきて、そしたらいっぱい甘やかしてあげるからね」
「.........ぅん」
2
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
蜘蛛の巣
猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω)
世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。
混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。
やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。
伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは?
※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
花を愛でる獅子【本編完結】
千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。
そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。
※本編完結いたしました。
今は番外編を更新しております。
結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。
楽しんでいただければ幸いです。
ショタ18禁読み切り詰め合わせ
ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる