41 / 60
誓い
依頼
しおりを挟むハイバックチェアから立ち上がり、客人を迎え入れる為に執務室の扉を開ける。
そこに立っていたのは小柄な女性だった。
黒く艶やかな長い髪に、傷一つない綺麗な肌、大きな瞳。
俺はルカにしか興味が無いから、正直ルカ以外の生き物は人間だろうと淫魔だろうと魅力的に感じることは無いが、きっと世間一般的には美人、と評されるのであろうその女性は、俺と目が合うなりふわっと花が咲くように微笑んだ。
「はじめまして。カリーナ・ナイトと申します」
「リヒト・ブラウです。お待ちしておりました。どうぞ」
扉を開いているのとは反対の手で室内に入るよう促すと、小さな声で「失礼します」と言って俺の執務室へと足を踏み入れた彼女は、俺にすすめられてソファに腰を下ろすとホッと溜め息を吐いた。
「こちらへは初めて参りましたの。とても厳かな雰囲気で緊張致しましたわ」
「一般の方にはあまり馴染みの無い場所ですからね。あまり気を張っていると疲れてしまいますから、どうぞ楽になさって下さいね、ナイトさん」
「ありがとうございます、リヒトさん。私のことはカリーナ、と呼んでくださいな」
紅茶を淹れて差し出せば、またふわりと微笑んだカリーナ。
きっとケンさんあたりが見たら顔を真っ赤にさせてしどろもどろになりそうだな...と思うその綺麗な笑顔に適当に微笑み返す。
ルカと出会う前は人並み程度に女性に興味があったはずなのに、今はもうルカに夢中過ぎてこれほどの美人を相手にしてもなんとも思わないし、むしろさっさとこの話し合いを終わらせてまた一人になってルカのことを考えたい。
自分の分の紅茶も淹れた俺は、彼女が座るソファの、ローテーブルを挟んだ向かい側のソファに腰を下ろすと、早速ですが...と彼女を悩ませている淫魔についての情報を聞き出すことにした。
彼女の話によると、淫魔による最初の夜襲は6日前。
それ以来その淫魔は毎晩のように現れるが、今のところカリーナの体液を奪うと去っていくそうで、淫魔の性器を挿入されたりはしていないらしい。
その時のことを思い出しているのか、自分の身体を抱き締めるようにして小さく震えながら話すカリーナは、相手が俺じゃなかったら発情してしまうのでは無いかという程、やたらと艶かしい雰囲気を醸し出している。
「私、もう悪魔に自分の身体を好き勝手されるのは嫌なんです。それに、もし悪魔の...を入れられたりでもしたらと思うと怖くて堪らなくて…お願いします、リヒトさん。助けて下さい」
確かに、今のところは体液を奪われるだけでそれ以外は何もされていないようだが、それだって相当な恐怖や嫌悪感が付き纏っている筈だし、ましてや悪魔の性器を体内に挿入されるかもしれないだなんて...まともな人間の女性からしたら耐え難い程不安だろう。
これは早急になんとかしてあげなくては。
この件が片付くまで、ルカをゆっくり可愛がってあげる時間が取れなくなるのは残念だが、俺は祓魔師。
自分の欲望を満たすよりも、依頼人を助けるのが最優先だ。
「...分かりました。もう安心して大丈夫ですよ。俺が必ず守りますから」
「リヒトさん...。嬉しい、ありがとうございます」
安心させるように優しく微笑みかけると、頬を赤らめて涙ぐむカリーナ。
そうして俺はこの日から毎晩、淫魔を祓いカリーナが日常を取り戻すまで、カリーナの家で張り込むことになった。
2
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
それでも僕は君がいい
Q.➽
BL
底辺屑Dom×高スペ王子様系Sub
低スペックで暗くて底意地の悪いDomに何故か惚れきってる高スペック美形Sub男子の、とっても短い話。
王子様系Subにちょっかいかけてる高位Domもいます。
※前中後編の予定でしたが、後編が長くなったので4話に変更しました。
◇大野 悠蘭(ゆらん) 19/大学生 Sub
王子様系美形男子、178cm
秋穂の声に惹かれて目で追う内にすっかり沼。LOVELOVEあいしてる。
◇林田 秋穂(あきほ)19/大学生 Dom
陰キャ系三白眼地味男子 170cm
いじめられっ子だった過去を持つ。
その為、性格がねじ曲がってしまっている。何故かDomとして覚醒したものの、悠蘭が自分のような底辺Domを選んだ事に未だ疑心暗鬼。
◇水城 颯馬(そうま)19/大学生 Dom
王様系ハイスペ御曹司 188cm
どっからどう見ても高位Dom
一目惚れした悠蘭が秋穂に虐げられているように見えて不愉快。どうにか俺のSubになってくれないだろうか。
※連休明けのリハビリに書いておりますのですぐ終わります。
※ダイナミクスの割合いはさじ加減です。
※DomSubユニバース初心者なので暖かい目で見守っていただければ…。
激しいエロスはございませんので電車の中でもご安心。
蜘蛛の巣
猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω)
世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。
混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。
やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。
伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは?
※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
花を愛でる獅子【本編完結】
千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。
そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。
※本編完結いたしました。
今は番外編を更新しております。
結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。
楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる