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祓魔師。

その言葉を耳にした瞬間、おれが僅かに残った魔力で男の身体を弾き飛ばして腕の中から逃げ出したのと、男が首から下げ、衣服の内側に隠した十字架を取り出し握り締めたのはほぼ同時だった。

逃げ出せたはいいものの、今のでまた魔力を消耗してしまったおれはもう立っていることすらままならず、その場にぺたんと座り込んでしまった。


「はぁっ、はぁ…っ」


息が苦しい。
おれはここで、このまま死んでしまうんだろうか…?

死なないって、約束したのに。


「あらら。もうほとんど魔力尽きかけてるみたいだね。…これは俺が祓うまでもないかな?」

「ゃだ…、死にたくない…っ」

「そう言われてもなぁ。俺、祓魔師だし。きみが自滅するか俺が祓うかの二択しかないんだけど」

「ゃだ…いや…。やくそく、したの。しなないって…。だから、おねがい、なんでもするから…たすけて…っ」


薄れ行く意識の中、涙を溢して必死に命乞いをする姿はさぞかし無様だろう。
だけどもう、そんなことに構っている余裕など無かった。

このままでは、約束を破ることになってしまう。


(…リアム…カイ…ごめん…。おれ、もう…。)


「……ねぇ、きみ、よく見たら可愛い顔してるね」

「……?」

「髪もサラサラで肌もすべすべだし…。うわ、ほっぺた柔らかっ」

「…な、に?」


惨めに床に這い蹲るおれの傍にやってきてしゃがみ込み、おれの髪や顔に掌を這わせてくる祓魔師。

そして彼は唐突に、決めた、と言っておれの身体を抱え上げた。


「なんでもするって言ったよね?じゃあ、俺の使い魔になってよ。そうしたら、助けてあげる」

「…つかいま…」

「そう。聞いたことあるでしょ?俺達みたいな特別な術を使える人間と契約を結んで、主従関係になるの。使い魔になった悪魔は主である人間に絶対服従する代わりに、主の持つ力を分けてもらえるから、わざわざ他の人間を襲わなくても生きていけるようになるし。
…それに、俺の使い魔になったら…俺の精液たっぷり注いであげるよ?」

「……っ」


悪い話じゃないでしょ?
そう言われ、思わず喉がゴクリと鳴った。

極度の飢餓状態とも言える今のおれにとって、それはなんとも甘美な響きで。

どうせこのままでは死んでしまうし、仮に生き長らえて魔界に戻ったところで、リアムとカイが居なくなった今、おれはひとりぼっちだ。

だったらもういっそのこと使い魔にでもなんでもなってやろうじゃないか。
そうすればおれは生き延びることができ、彼らとの約束を破らなくて済む。


「…わかりました。あなたに、服従します」


覚悟を決めたおれはそう言って、自らを抱きかかえる男にぴったりと身を寄せると、男は嬉しそうに笑った。
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