青い春を漂う

CHIKA(*´▽`*)

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美術家での出来事

初公開の絵画

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 移動した場所は前の部屋と少しだけ展示方法が違っていた。
基本的に絵画は額に入って壁に飾ってあるのがほとんどだ。
さきほどの部屋は全てそうだったのに対してこの部屋は違った。
一部の絵画はショーウインドウの中に飾られていた。
 何か理由があるのだろうか。特に大事な絵画なのだろうか。
見てみないことには何も分からない。

「さて、またゆっくりと絵画を見るとするかのう」
「わぁ~ガラスケースの中に絵が入ってる~! あの部屋にはなかったのに~。
 何でだろ~」
 相変わらずのこの自由さ。客は自分達しかいないからいいんだけど。
「……ん?」
 ここの部屋に来てからまだ瑠美奈が一言も発していないことに気付いた。
どうかしたのだろうか。何かあったのだろうか。

「どうしたの、瑠海」
「え……あっ。あぁ結ちゃんか。特に何もないわよ、大丈夫」
そうは言ってるけど何か考えているような様子に見える。
「瑠海のことが気になるなら絵を順番に見ていくと良い。すぐに分かる」
「絵を順番に……?」
 何故、絵の話になるのか分からないけどつまり関係しているということだろう。

「私も瑠海のこと気になるから順番に見て行こ~っと」
「あんた案外優しいところもあるのね、意外」
 こんな時でもルナをいじって行くのは流石としか言いようがない。
この二人で漫才コンビやったら結構売れるのではなかろうか。
「こんな時でもいじるなんてあんた達、漫才でも組んじゃえば?」
とつい言葉に出してしまった。気付いた時にはもう遅かった。

何か言われるのではないかと思ったが二人の反応は予想外だった。
「漫才か~悪くないかもね。一緒に組んじゃう?」
「動画デビューでもしちゃって二人でがっぽがっぽ稼ぎましょうか。
 ……って肉体がないからそんなことできないけどね。それ以外の問題もあるけど」
 思ったより好反応だった。なんだかんだ言って仲が良いのだ。
喧嘩するほど仲が良いとはまさにこのことだろう。
「とりあえず先に二人で見て回れば? 後から私達も追いつくから」
 瑠海の言葉に甘えてそうすることに。

 そう言ったはいいけども、一緒に見て回ることが全然出来ていない。
その理由は見るスピードが二人とも全く異なるから。
 じっくりと隅から隅まで見るのに対してルナは少し見ただけですぐに別の場所へ移動する。
ちゃんと見ているのかと聞くと。
あの絵画はこういう所が特徴的だった、ああいう所が好きなどと。印象に残ったことをすぐに喋った。
 彼女はさっと見ただけですぐに記憶してしまうのだろう。
もっと他に隠れた才能があるのではないのかなんて思ってしまう。
彼女にとってはそれらを褒めたとしても、普通だよ~なんて言うのだろう。
これが生まれながらの天才ってやつか。

 ということで二人で見るという名の一人での絵画鑑賞。
自分のスピードでゆっくりと隅から隅まで見る。
 作品のレベルはとても上がっていた。きちんと吸収して自分のものにしたのだろう。
有言実行できている。流石だとしか言いようがない。彼も元から絵の才能があったのだろう。
それを自分で磨いていって更に素晴らしいものにしていっている。

「ん?」
 ある絵画が特に目に入った。他の絵画もきちんと目を凝らして見たけど。
その絵画には髪の長い女性の後ろ姿と金魚がその周りを泳いでいた。
女性は夏服の制服を着ていた。彼の知り合いだろうか。
 彼の絵画にはまだ人間が出てきてなかった。この絵が初めてだった。
もちろん他の絵画なら登場していたかもしれないけど。
少なくともここに飾られている絵画限定ならこれが初めて。
「……彼の友達かな」
 もしくは恋人か。もしかしたら妻という存在になっているかもしれない。
少なくとも親しい関係だろう。

 最後と同時に初公開の絵画は普通の絵画と隣に存在していた。
全く特別感がしない。初公開という雰囲気も特にしない。
この展覧会の売りと言っても過言ではないのにそんな扱いでいいのかと思ってしまう。
せめて何かしらもう少し工夫できなかったのだろうか。
案外こういうのは作者がこうして欲しいと頼んでこうなったのだろうか。
パンフレットにはそれらしいことが書いてなかったから不確かだけど。

 とりあえずそれらは置いといてその売りの絵画を見ることに。
さてさていつ描いたかも分からないし何故、今まで公開していなかったかも分からない。
ただ初公開という情報しかない絵画。それは一体どんなものなのか。
その絵画をこの目に拝むとしようか。
「……えっ」
 その絵画には麦わら帽子を被った茶髪のロングの女性がいた。
その周りには三匹、金魚が泳いでいる。和金と朱文金と出目金。
それだけでは全く驚くことは何もない。しかしもう一人描かれているのだ。
 女性に後ろから抱かれて、笑い合っている幼い頃の自分がそこにいた。
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