21 / 39
水中の透海町
名ばかりの明るい幽霊
しおりを挟む「へえ~あのギリギリを避けるなんてなかなか君やるじゃん」
どこからか声が聞こえた。しかもどうやら事を起こした張本人のようだ。
「この子があんな一瞬で避けれるわけないでしょ。私が安全な場所に移動させたのよ」
「な~んだ、瑠海のお得意の瞬間移動かぁ~」
声は近くから聞こえてくるのにどこを見渡しても、姿が見当たらない。
「じゃあ私も君の真似をしよ~っと」
パチンと指を鳴らした音が空間中に響く。
その音が聞こえたと思うとまた場所を移動していた。
今度はどこかの建物の中のようだった。
天井が高く数メートル離れたところに左右に一つずつ入口があった。
とても広く、すぐ近くにはチケットを買う受付コーナーがあった。
ここがどこなのか気になり走ってそこに向かった。
『透海美術館 チケット売り場』
どうやら美術館に移動してきたようだ。
そう言えばシャノワール小村さんが美術館と、キーワードのうちの一つとして言っていた。
つまり大河君との思い出を思い出す、きっかけとなる場所。
受け付けコーナーの台の上にこの美術館のパンフレットがあった。
表紙には『湖原こはら翔かける展』と書いてあった。
『今では世界中で名が知られている湖原翔。そんな彼はこの透海町で生まれた。たくさんの絵画を世の中に生み出し続けている彼は、色んな物を描いている。その中でも今回の展覧会では『金魚』というテーマに絞って、開催することにした。更にまだ誰も見たことがない彼の未公開の絵画もこの展覧会で、独占初公開。彼の絵画の原点ともなった絵画たちを、是非ともご覧あれ。』
「湖原翔かぁ聞いたことがあるような、ないような……」
「あっこれ私も聞いたことあるよぉ。なかなかな有名人だよネ」
すぐ真後ろからその声は聞こえた。反射的に勢いよく振り向くと、後ろには人がいた。
「あっど~もルナで~す。一応、幽霊やってるよんっ」
ルナと名乗った少女は右手でピースをして、ウインクをした。
ポニーテールだけど髪色が水のように、透き通っていた。
アイドルのように愛らしい顔立ちをしていて八重歯が特徴的。
あたしが通っていた高校の夏用の制服を着ていた。
身長は自分より想像以上に高い。一体何cmなのだろうか。
そして彼女の姿は少し透き通っていた。
「幽霊……」
幽霊と言えばおどろおどろしいイメージを抱いていた。
今この瞬間まで。それがたった今ぶち壊れた。例外もいるのだと認識した。
「君は結ちゃんだよねっ。瑠海から話は聞いているよ~、彼との記憶を思い出したいんだよねっ。いやぁいいね~青春だね~。私はそんな大した青春したことないからなぁ」
しかもよく喋る。全く幽霊だと思えない容姿に話し方。
「私ね。実はね幽霊だけど幽霊じゃないんだぁ。色々と事情がありやしてね。金ちゃん様が私の周りの人の記憶から私の存在ごと消してくれたの。それで金ちゃん様と瑠海のお手伝いをすることになったの。この髪色ね~凄いでしょっ。金ちゃん様が色々と一時的に能力をくれたの。 服装を変えることができたり、髪型や髪色が変えれるっていう素敵な能力っ。いいでしょ~」
一切こちらは何も聞いていないのに、本人から色々と事情を話してくれた。
そしてまた新しいキャラが出てきた。金ちゃん様って誰だ。
「それは我のことだ。結」
いつの間にかルナの隣に何故かここに居る筈もない絵里さんの姿と瑠海がいた。
「えっ絵里さん……どうしてここに……」
瑠海が優しく微笑んだ。
「この人は絵里さんじゃないわ。本当の名前はないのだけれどみんなからよく言われている名前を言うのなら……金魚神きんぎょしん様ね。この人には本当の姿がないの。だから人の目の前に現れる時は私の体を借りたり、金さんが会ったことある人になって登場するのよ」
「少しそなたの心の中を読ませてもらった。驚かせてしまったのならすまない。瑠海の言う通りだ。我には名前という名前もなければ、姿もない。だから瑠海の姿を借りたり、こうやって別の人の姿になって現れているのだ」
絵里さんの姿で話しているけど喋り方も声も違っていた。
今日出会った金魚神様そのままだった。
「我のことは好きに呼ぶといい。ルナは金ちゃん様。瑠海は金さんと呼んでいるぞ」
今神様の目の前に自分はいる。まさか神様と話す日が来るなんて想像していなかった。
名前はなんて呼べばいいだろう。フルネームは長いし、良いのが思いつかない。
ルナの呼び方も瑠海の呼び方も自分には、ピンと来なかった。
「瑠美奈……」
ふとその名前が思いついた。瑠海とルナの名前を合体させた単純な名前。
それでもあたしはこれがいいなと、思った。
「瑠美奈か……面白い。気に入った。ならそなたは瑠美奈と呼ぶといい」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる