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EP4 闇に溶ける懺悔5 動き出した世界
告白
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ぽたり。空っぽの皿に涙が一粒零れ落ちた。
さっきまで全然大丈夫で、普通に言葉を交わし冷静でいられたのに、急に心底恐ろしくなった。
俺は何とか涙を止めようと、目に力を籠める。でも、止まらない。
「ラテア……泣いているの?」
当然向かい合って座っている夏輝が気付かないはずがない。
それどころか、夏輝の顔をまじまじと見たら余計に涙が止まらなくなってしまった。
「ひっく、ぅう”、ちが、これ……」
情けない顔をみられたくなくて、俺は咄嗟に下を向いて、両手で顔を覆ってしまう。
だって、あまりにも情けない。
悲しいんじゃない。その逆だ、嬉しいんだ。
嬉しくて、安心した。手を伸ばせば触れられる距離に夏輝がいる。
お日様みたいな夏輝の匂いだって感じる。
「……悲しいんじゃ、ない、から」
何とか必死に紡いだ言葉は、やっぱりどうしようもなく震えて小さくなってしまった。
自分でも自分の事がコントロールできず、ただ顔を覆って何とか涙を止めようと四苦八苦していると、不意に額に温かく柔らかな何かが触れた。
「え……?」
驚き、顔を覆っていた手を離す。
触れていたのは夏輝の唇だった。驚いて、俺は顔を上げ、夏輝の顔をまじまじと見つめた。
「泣かないで、ラテア。もう絶対にラテアを一人にしたり、しない。絶対に。俺も、ラテアがいない間ずっと苦しくて、後悔してた。もっと俺がうまくやっていたら、ラテアが連れ去られたりしなかったんじゃって」
翡翠の瞳もまた、ラテアを真っすぐと見据えていた。
その顔つきは、出会ったときの頃よりも幾分か大人びて、精悍に見える。
ラテアの肩に優しく手をかけ、夏輝は言葉を紡ぎ続ける。
「ラテアが泣いているのは苦しい。苦しんでいるのは、見たくない。ラテアにはずっと、笑っていて欲しい。……それが、すごく難しいことはわかってる。この世界はすごく……残酷で、俺の知っている平和はなかった。君が受けてきた苦しみも、全部はわかってあげられないだろうけど、少しはわかるつもり。あのね……」
真摯な言葉。俺にも言いたいことはたくさんあった。伝えたいことが、たくさんある。
痛々しい、苦しみの入り混じった声音。
(俺だってそうだよ、夏輝にそんな顔させたくないんだよ……)
夏輝には笑っていて欲しい。怪我だってしてほしくない。
互いに互いをそんな風に思っていた。かけがえのない存在になっていた。
「聞いて、ラテア」
「なん、だよ……」
どこか緊張した面持ちで、夏輝はラテアの手を取り、握り締める。
手汗でぬるつく。緊張しているのが見て取れた。
そんな夏輝に対し、ラテアは先を促した。
夏輝は重々しく頷き、口を開いた。
「俺、ラテアの事が好き。大好きなんだ」
さっきまで全然大丈夫で、普通に言葉を交わし冷静でいられたのに、急に心底恐ろしくなった。
俺は何とか涙を止めようと、目に力を籠める。でも、止まらない。
「ラテア……泣いているの?」
当然向かい合って座っている夏輝が気付かないはずがない。
それどころか、夏輝の顔をまじまじと見たら余計に涙が止まらなくなってしまった。
「ひっく、ぅう”、ちが、これ……」
情けない顔をみられたくなくて、俺は咄嗟に下を向いて、両手で顔を覆ってしまう。
だって、あまりにも情けない。
悲しいんじゃない。その逆だ、嬉しいんだ。
嬉しくて、安心した。手を伸ばせば触れられる距離に夏輝がいる。
お日様みたいな夏輝の匂いだって感じる。
「……悲しいんじゃ、ない、から」
何とか必死に紡いだ言葉は、やっぱりどうしようもなく震えて小さくなってしまった。
自分でも自分の事がコントロールできず、ただ顔を覆って何とか涙を止めようと四苦八苦していると、不意に額に温かく柔らかな何かが触れた。
「え……?」
驚き、顔を覆っていた手を離す。
触れていたのは夏輝の唇だった。驚いて、俺は顔を上げ、夏輝の顔をまじまじと見つめた。
「泣かないで、ラテア。もう絶対にラテアを一人にしたり、しない。絶対に。俺も、ラテアがいない間ずっと苦しくて、後悔してた。もっと俺がうまくやっていたら、ラテアが連れ去られたりしなかったんじゃって」
翡翠の瞳もまた、ラテアを真っすぐと見据えていた。
その顔つきは、出会ったときの頃よりも幾分か大人びて、精悍に見える。
ラテアの肩に優しく手をかけ、夏輝は言葉を紡ぎ続ける。
「ラテアが泣いているのは苦しい。苦しんでいるのは、見たくない。ラテアにはずっと、笑っていて欲しい。……それが、すごく難しいことはわかってる。この世界はすごく……残酷で、俺の知っている平和はなかった。君が受けてきた苦しみも、全部はわかってあげられないだろうけど、少しはわかるつもり。あのね……」
真摯な言葉。俺にも言いたいことはたくさんあった。伝えたいことが、たくさんある。
痛々しい、苦しみの入り混じった声音。
(俺だってそうだよ、夏輝にそんな顔させたくないんだよ……)
夏輝には笑っていて欲しい。怪我だってしてほしくない。
互いに互いをそんな風に思っていた。かけがえのない存在になっていた。
「聞いて、ラテア」
「なん、だよ……」
どこか緊張した面持ちで、夏輝はラテアの手を取り、握り締める。
手汗でぬるつく。緊張しているのが見て取れた。
そんな夏輝に対し、ラテアは先を促した。
夏輝は重々しく頷き、口を開いた。
「俺、ラテアの事が好き。大好きなんだ」
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