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EP4 闇に溶ける懺悔3 手よ届け
迎えに来たよ
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『れ、い……れい……』
確かに聞こえる。
ぼんやりと、どすんどすんと脳みそを揺さぶられるかのような衝撃と共にシイナの声が確かに俺たちの耳に届いていた。
俺の聞き間違えでなければ、だけど。
「……なあ、今シイナの声が聞こえたよな?」
「ううん?俺には聞こえてないけど……」
夏輝の戸惑う声。
他のメンツも、何を言っているんだ?という顔をしている。
……たった一人を除いて。
「シイナ!?シイナの声が聞こえたのか!?」
シイナ、という言葉を俺が紡いだ瞬間、先程までの沈んだ様子とは一変して俺の肩を掴み揺さぶってくる。
ただでさえ不安定な足場だったから、そのまま背後に倒れそうになってしまう。
トツカが俺たちの首根っこを掴んで止めてくれたけど。
「危ないぞ」
「ありがとトツカ……。っていうか、俺以外聞こえていないのか?」
トツカの言葉に礼を言ってから、皆に確認を取る。
しかし、やはり誰もが首を横に振る。
「……もしかすると」
瑞雪だけがなにか心当たりがあったようで、小さく呟く。
眉根を潜めつつ、前方からこちらを飲み込まんとする泥を凍てつかせる。
トツカが俺たちの前に躍り出、氷の塊を砕き割った。
「お前の共鳴現象によるものじゃないだろうか。あれも魂に関するものだし、勅使河原が開発した薬品はそもそもは魂を進化させるためのもの。反対の性質を持ったにせよ、魂に関するものであることに変わりはないだろう。……泥に触れなくとも聞こえるのは、何故なのかはわからないが」
考え込む様子を見せつつも、魔法を詠唱する手を止めることはない。
「……シイナは、なんて?」
唇を震わせながら、レイは俺を縋るような目で見てくる。
その目は血走っていて、顔色は真っ青だった。
出会った時の不敵で生意気な様子は最早なく、ただ弱り切っている子供でしかない。
「レイ、って。お前の名前を呼んでいたよ」
「まだ、心が残ってる?」
「きっと。見えるようにしてやらなきゃ」
微かに、レイの瞳に光が灯る。
希望の光。……それが打ち砕かれる可能性も高いけれど、ここでレイが絶望しては万に一つの可能性すら残らない。
後で恨まれたとしても、それはそれ、これはこれ。
「シイナは、きっとレイの事を待ってると思う。君じゃなきゃ、シイナの事は助けられないと思うんだ」
「……うん」
しっかりと、レイは首を縦に振り頷いた。
「なら、やることはひとーつ。もっとスピード上げるからねぇ。あと……多分、あの子はレイを目標にしてきてるよね?」
「……恐らくはそうだろうな。たった一つ、レイの事だけをあいつは今覚えているのかもしれない。レイの魂を追ってきている可能性は……ここまでのあいつの辿った移動経路を見る限り正しいかもしれない。病院からここまで来るのに真っすぐは移動できなかっただろう?」
夜一の言葉に瑞雪が確認を取る。
パネルを片手でささっと操作すると、瑞雪のスマホの画面が車内で全員に見えるようにホログラムで映し出された。
「邪魔されまくってるからね~。真っすぐはさすがに進めてないよ」
「っすよね。おまけに自分の魔法とポニテのおにーさんの魔法で前方はがったがたっすからね。申し訳ないけど、気にしてる余裕はないんスけども」
ヴェルデはやや申し訳なさそうにしつつも、手は止めない。
誰一人としてこの場にいる者に配慮できるだけの余裕はないからだ。
それでも夜一が優秀な運転手であるがゆえになんとかなっている。
『れい……れい……たすけ、なきゃ、まもらなきゃ、そこにいる』
泥の狐は確かにシイナだった。
超絶に悪い視界の中、それでも泥の狐がこちらを真っすぐに見据えている。
身体を自壊させながら、俺達へ―否、レイへと向けて前身を続けている。
こんなことになってなお、シイナはレイの事だけを考えている。
……いや、それ以外を全てなくしてしまったのかもしれない。
伸ばされた腕は明らかに車体を掴もうとしていた。
「まさかあっちから仕掛けてくれるとはな。……捕まったらたどり着く前に死ぬんだけど」
俺はため息をつきつつ、言葉を吐き捨てた。
確かに聞こえる。
ぼんやりと、どすんどすんと脳みそを揺さぶられるかのような衝撃と共にシイナの声が確かに俺たちの耳に届いていた。
俺の聞き間違えでなければ、だけど。
「……なあ、今シイナの声が聞こえたよな?」
「ううん?俺には聞こえてないけど……」
夏輝の戸惑う声。
他のメンツも、何を言っているんだ?という顔をしている。
……たった一人を除いて。
「シイナ!?シイナの声が聞こえたのか!?」
シイナ、という言葉を俺が紡いだ瞬間、先程までの沈んだ様子とは一変して俺の肩を掴み揺さぶってくる。
ただでさえ不安定な足場だったから、そのまま背後に倒れそうになってしまう。
トツカが俺たちの首根っこを掴んで止めてくれたけど。
「危ないぞ」
「ありがとトツカ……。っていうか、俺以外聞こえていないのか?」
トツカの言葉に礼を言ってから、皆に確認を取る。
しかし、やはり誰もが首を横に振る。
「……もしかすると」
瑞雪だけがなにか心当たりがあったようで、小さく呟く。
眉根を潜めつつ、前方からこちらを飲み込まんとする泥を凍てつかせる。
トツカが俺たちの前に躍り出、氷の塊を砕き割った。
「お前の共鳴現象によるものじゃないだろうか。あれも魂に関するものだし、勅使河原が開発した薬品はそもそもは魂を進化させるためのもの。反対の性質を持ったにせよ、魂に関するものであることに変わりはないだろう。……泥に触れなくとも聞こえるのは、何故なのかはわからないが」
考え込む様子を見せつつも、魔法を詠唱する手を止めることはない。
「……シイナは、なんて?」
唇を震わせながら、レイは俺を縋るような目で見てくる。
その目は血走っていて、顔色は真っ青だった。
出会った時の不敵で生意気な様子は最早なく、ただ弱り切っている子供でしかない。
「レイ、って。お前の名前を呼んでいたよ」
「まだ、心が残ってる?」
「きっと。見えるようにしてやらなきゃ」
微かに、レイの瞳に光が灯る。
希望の光。……それが打ち砕かれる可能性も高いけれど、ここでレイが絶望しては万に一つの可能性すら残らない。
後で恨まれたとしても、それはそれ、これはこれ。
「シイナは、きっとレイの事を待ってると思う。君じゃなきゃ、シイナの事は助けられないと思うんだ」
「……うん」
しっかりと、レイは首を縦に振り頷いた。
「なら、やることはひとーつ。もっとスピード上げるからねぇ。あと……多分、あの子はレイを目標にしてきてるよね?」
「……恐らくはそうだろうな。たった一つ、レイの事だけをあいつは今覚えているのかもしれない。レイの魂を追ってきている可能性は……ここまでのあいつの辿った移動経路を見る限り正しいかもしれない。病院からここまで来るのに真っすぐは移動できなかっただろう?」
夜一の言葉に瑞雪が確認を取る。
パネルを片手でささっと操作すると、瑞雪のスマホの画面が車内で全員に見えるようにホログラムで映し出された。
「邪魔されまくってるからね~。真っすぐはさすがに進めてないよ」
「っすよね。おまけに自分の魔法とポニテのおにーさんの魔法で前方はがったがたっすからね。申し訳ないけど、気にしてる余裕はないんスけども」
ヴェルデはやや申し訳なさそうにしつつも、手は止めない。
誰一人としてこの場にいる者に配慮できるだけの余裕はないからだ。
それでも夜一が優秀な運転手であるがゆえになんとかなっている。
『れい……れい……たすけ、なきゃ、まもらなきゃ、そこにいる』
泥の狐は確かにシイナだった。
超絶に悪い視界の中、それでも泥の狐がこちらを真っすぐに見据えている。
身体を自壊させながら、俺達へ―否、レイへと向けて前身を続けている。
こんなことになってなお、シイナはレイの事だけを考えている。
……いや、それ以外を全てなくしてしまったのかもしれない。
伸ばされた腕は明らかに車体を掴もうとしていた。
「まさかあっちから仕掛けてくれるとはな。……捕まったらたどり着く前に死ぬんだけど」
俺はため息をつきつつ、言葉を吐き捨てた。
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