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EP3 復讐の黄金比8 錆びついた復讐
エレベーターの罠
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「ロセさん!上からエレベーターが……!」
「……ちょっとまずいね。これ以上速度はやめるのは私の翼じゃ無理かも」
焦って夏輝が叫ぶ。
切羽詰まった状況ではあったが、ロセはへら、と愛らしく笑う。
「だからごめんね?風を使ってクッション作ってね」
そう言って、ロセは夏輝を離し自らも翼を畳む。
途端、当然重力に従い夏輝は落下し始めた。
「わ、わかりました!」
頬に当たる風。
どんどん底に吸い込まれるように落下していく夏輝。
光で照らしていると底が見えてくる。
ミスを犯せば一瞬で地面にたたきつけられ、死ぬ。
緊張の中夏輝は風のクッションを厚く展開する。
「っ……」
「よ、っと」
クッションのおかげで打ち付けたり潰れたりすることなくふわりと着地する二人。
鉄の扉は当然行きと同じく固く閉ざされており、夏輝が再び光の刃で切って捨てる。
「ぅっ……眩しいな」
扉が無残に大きな音を立てて崩れ落ちた瞬間、視界いっぱいに広がる白い光。
思わず目を閉じてから、再びゆっくりと開く。
まず視界に入ってくるのは白、白、白。
そして長く伸びる一本の通路だった。
通路の両脇にはたくさんの扉が並んでいる。
無機質な、まさに研究所と言えばこういった光景を連想させる、そんな場所だった。
「この先にラテアが……」
「進もうか。いつがタイムリミットかわからないし」
ロセの言葉に夏輝は硬い表情をしたまま頷く。
(お願いラテア、無事でいて……)
地上部分と異なり、地下はごうんごうんと絶えず何か機械の駆動音のような音が響いている。
今度は獣の息遣いは全く感じられない。
じりじりとした焦燥感に吐き気がする。
耳を澄ませても機械音以外は聞こえず、地下の間取りは遠呂も邪魔をされたらしく知らないという。
情報のないまま進むしかない。
ひとまず真っすぐ突き当りにある両開きの扉から確認を試みる。
扉に手をかけると、セキュリティパネルによりロックされていると思いきや開いていた。
警戒しつつ扉をあけ放つと、そこは病院のエントランス並みの広さを持つ部屋であった。
部屋の中心には一人の少年が立っていた。
鼠色の髪に一房の赤。
レイだった。
(シイナは……)
夏輝は警戒しつつ、部屋の中に耳を澄ませる。
しかし、何も聞こえない。しんと静まり返っている。
イオやマナの反応を辿ろうにも、シイナはそもそもマナを宿さない存在だった。
「よぉ」
レイは極めて冷静なように見えた。
少なくとも以前のように即座に怒り狂い、襲ってくるようなことはない。
しかし、レイの視線は夏輝ではなくロセの事を見ていた。
「まだ諦めていないみたいだね。出来れば諦めてくれると嬉しいんだけど」
ちらりと横眼でロセを見る。
ロセの顔からは表情というものが一切消え失せているように思えた。
今まで夏輝が見たことのない、感情をあえて押し殺したような顔だった。
「……諦められるわけないだろ。あんたを殺さないと、母さんが浮かばれない」
「でも、私も殺されてあげるわけにはいかないから。私が死んだらアレウが悲しむし」
そう言ってロセはちら、と夏輝の方へと視線を向ける。
「先に行きなよ。ラテア君が待ってるよ」
立ちふさがるレイの奥に扉が一つ。
ここで初めてレイは夏輝の顔を見た。
そしてさっさと行けと言わんばかりに親指で背後の扉を指す。
「別に奥に行くのは止めないぜ。俺の目的はそいつだしな」
レイもロセの言葉に同意。
しかし、夏輝は首を縦には振らなかった。
「いいえ。行きません。だって、聞いたけど君はロセさんの命を狙っているんでしょう?今ここでロセさんを置いていくことは出来ないです。アレウさんが来るまで耐えるか、ここを二人で突破するべきです。ここでもし先に進んでも、きっとラテアに怒られますし」
迷うことなく、夏輝はそう言い切った。そして刀を構える。
ロセが何を言っても聞きやしないだろう。
その瞳には力があった。
「……嫌になるよ、何もかもうまくいきゃしねえ」
そんな夏輝に対し、レイはがりがりと後頭部を掻きつつ吐き捨てる。
その瞬間、夏輝の背後に音もなく黒い毛並みの狐獣人が現れる。
「……ちょっとまずいね。これ以上速度はやめるのは私の翼じゃ無理かも」
焦って夏輝が叫ぶ。
切羽詰まった状況ではあったが、ロセはへら、と愛らしく笑う。
「だからごめんね?風を使ってクッション作ってね」
そう言って、ロセは夏輝を離し自らも翼を畳む。
途端、当然重力に従い夏輝は落下し始めた。
「わ、わかりました!」
頬に当たる風。
どんどん底に吸い込まれるように落下していく夏輝。
光で照らしていると底が見えてくる。
ミスを犯せば一瞬で地面にたたきつけられ、死ぬ。
緊張の中夏輝は風のクッションを厚く展開する。
「っ……」
「よ、っと」
クッションのおかげで打ち付けたり潰れたりすることなくふわりと着地する二人。
鉄の扉は当然行きと同じく固く閉ざされており、夏輝が再び光の刃で切って捨てる。
「ぅっ……眩しいな」
扉が無残に大きな音を立てて崩れ落ちた瞬間、視界いっぱいに広がる白い光。
思わず目を閉じてから、再びゆっくりと開く。
まず視界に入ってくるのは白、白、白。
そして長く伸びる一本の通路だった。
通路の両脇にはたくさんの扉が並んでいる。
無機質な、まさに研究所と言えばこういった光景を連想させる、そんな場所だった。
「この先にラテアが……」
「進もうか。いつがタイムリミットかわからないし」
ロセの言葉に夏輝は硬い表情をしたまま頷く。
(お願いラテア、無事でいて……)
地上部分と異なり、地下はごうんごうんと絶えず何か機械の駆動音のような音が響いている。
今度は獣の息遣いは全く感じられない。
じりじりとした焦燥感に吐き気がする。
耳を澄ませても機械音以外は聞こえず、地下の間取りは遠呂も邪魔をされたらしく知らないという。
情報のないまま進むしかない。
ひとまず真っすぐ突き当りにある両開きの扉から確認を試みる。
扉に手をかけると、セキュリティパネルによりロックされていると思いきや開いていた。
警戒しつつ扉をあけ放つと、そこは病院のエントランス並みの広さを持つ部屋であった。
部屋の中心には一人の少年が立っていた。
鼠色の髪に一房の赤。
レイだった。
(シイナは……)
夏輝は警戒しつつ、部屋の中に耳を澄ませる。
しかし、何も聞こえない。しんと静まり返っている。
イオやマナの反応を辿ろうにも、シイナはそもそもマナを宿さない存在だった。
「よぉ」
レイは極めて冷静なように見えた。
少なくとも以前のように即座に怒り狂い、襲ってくるようなことはない。
しかし、レイの視線は夏輝ではなくロセの事を見ていた。
「まだ諦めていないみたいだね。出来れば諦めてくれると嬉しいんだけど」
ちらりと横眼でロセを見る。
ロセの顔からは表情というものが一切消え失せているように思えた。
今まで夏輝が見たことのない、感情をあえて押し殺したような顔だった。
「……諦められるわけないだろ。あんたを殺さないと、母さんが浮かばれない」
「でも、私も殺されてあげるわけにはいかないから。私が死んだらアレウが悲しむし」
そう言ってロセはちら、と夏輝の方へと視線を向ける。
「先に行きなよ。ラテア君が待ってるよ」
立ちふさがるレイの奥に扉が一つ。
ここで初めてレイは夏輝の顔を見た。
そしてさっさと行けと言わんばかりに親指で背後の扉を指す。
「別に奥に行くのは止めないぜ。俺の目的はそいつだしな」
レイもロセの言葉に同意。
しかし、夏輝は首を縦には振らなかった。
「いいえ。行きません。だって、聞いたけど君はロセさんの命を狙っているんでしょう?今ここでロセさんを置いていくことは出来ないです。アレウさんが来るまで耐えるか、ここを二人で突破するべきです。ここでもし先に進んでも、きっとラテアに怒られますし」
迷うことなく、夏輝はそう言い切った。そして刀を構える。
ロセが何を言っても聞きやしないだろう。
その瞳には力があった。
「……嫌になるよ、何もかもうまくいきゃしねえ」
そんな夏輝に対し、レイはがりがりと後頭部を掻きつつ吐き捨てる。
その瞬間、夏輝の背後に音もなく黒い毛並みの狐獣人が現れる。
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