248 / 334
EP3 復讐の黄金比7 決死隊
電撃戦
しおりを挟む
(……情報ではこいつも近接してくるようには見えないが、どうしたもんか)
夏輝達を先に行かせ、一人残った冬真はへらへら笑いを崩さない。
手に何か持っているわけでもない。杖は一体どこにあるのか。
冬真は目を細め、こちらを値踏みするように見ていた。
「一人で残るとは勇敢なことだ。随分と余裕そうだな」
「人手が足りねえんだよ、糞が」
至極どうでもいい、意味を大して持たない言葉の押収。
もっと使える人手があれば、単独戦闘が誰よりも苦手な瑞雪がここに一人残ることなどなかった。
だが、必要だから。夏輝を前へ行かせるためだから、リスクを承知で残った。
ちらちらと、しきりにスマホを確認する。
「どこもかしこも下々の者は人手が足りてないか。……うん、そうだなぁ」
冬真から漂う哀愁。にやけ面もどこか悲し気に見えた。
しかし、こうして適当な会話を挟んでいるだけで刻一刻と時間稼ぎをされている。
彼はここで管を巻いているだけでも仕事を果たせるが、瑞雪は違う。さっさと目の前の障害を排除し、先に進まなければならない。
(ままならないことが多すぎる)
大きくため息をつき、矢をいくつか取り出す。弓を構えるのはただの無駄だ。
一対一の戦いにおいて、弓を構え、引き絞り、射る。こんな動作をするだけの余裕は基本的にないのだから。
(栗色の髪の男……冬真だったか。ラテアが最初に遭遇した傭兵)
小さくこの男の事に関しては、多少なりの情報を得ている。
重力ー闇魔法の派生魔法を扱うこと。
かの魔法は瑞雪とて殆ど知らない。使っている魔物やエデン人を見たことは少なくとも瑞雪にはなかった。
だが、ロセが言うにはとても制御が難しく、エデン人でも使っている種族はそういない。使えるとしても、大規模な展開は無理でごく小規模な範囲に留まるはず。
勿論、周囲の被害を鑑みなければまた別だというが。
(あいつの知識は実際頼りになる……。支部に保管されているデータはそう多くはないし、本部のデータを閲覧するには権限が必要だ。俺達にない知識をあいつは持っている。逆に吸血鬼があそこまで知識に関して役に立たないとは思っていなかったが)
思い出してゲンナリする。地球人含め、弱いから相手をつぶさに観察するのだ。
吸血鬼ーアレウは絶対的な強者、食物連鎖の上に立つ存在であるからそんな必要はなかったのだろう。
「お、そろそろ来るか?」
矢を握りこんだのを確認し、冬真がポケットに手を突っ込み真っすぐ瑞雪を見据える。どうにも気だるげで、夜一とは正反対にやる気がなさそうだった。
舐められている。ほぼ間違いなく。この男や、夜一には夏輝や瑞雪に存在しない余裕を持っている。
しかし、瑞雪だって何の勝ち目も見いだせないまま単身対峙しているわけではない。
(威力より速度だ)
ほぼ無詠唱で、瑞雪は雷の槍を冬真に向かって放つ。一つだけでなく、いくつも同時に並列で詠唱を行う。
(氷ではダメだ、発生が遅すぎる。雷でとにかく重力魔法を詠唱させる隙を与えない……ひとまずこれで様子を見る、あわよくば押し切る)
多勢に無勢というわけでもなく、一対一のタイマンであるならば。
何より、盾や転移魔法などの瑞雪が苦手とする分野の魔法ではなく攻撃魔法なら。
「っはや!?」
冬真が反応しきる前に雷の槍が着弾。わき腹を掠め、じゅうじゅうと肉の焦げる匂いが充満する。
服の一部が焼き切れ、痛々しい肉の抉れた薄い腹が見えた。しかし、流石というべきか。
「……殺す気で撃ったんだがな」
「流石に殺されるほど弱くないって」
瑞雪が第二射を撃つ前に冬真が走り出す。雷の槍を連射しつつ、広域を攻撃可能な落雷の魔法も並列で組み立て始める。
ほぼ無詠唱で魔法を行使しているがゆえに、いくら瑞雪の得意とする攻撃魔法であっても荒は多くなる。
だからこそ、冬真の被害は脇腹を軽く抉られる程度にとどまっている。
「固定砲台タイプっぽいな。純粋な後衛か。まあ、前衛は猟犬に任せる方が無難だよなァ」
瑞雪と冬真が戦っているのは国道だ。国道沿いには多くの店が立ち並んでいる。遮蔽のない道路から建物へと走る冬真。
一切気にせず全力で攻撃魔法を紡げば、一瞬で冬真ごと建物を吹き飛ばすことは可能だろう。しかし、それをすることは人間ではなくただの化け物だ。
無人ならともかく、中には多くの市民がいるだろう。
「へえ、人間の被害を気にするタイプか。意外だな。その顔なら気にせずぶっ放してくるかと思ったが」
再び冬真が建物の影から飛び出してくる。
手には先程まではなかったはずの銃-それもアサルトライフルが握られていた。
「ッは……!?」
思わず喉の奥から驚嘆の声が漏れる。別に冬真は銃が治められていそうなアタッシュケースなどは一切所持していなかったはずだ。
「予想してなかったって顔だな。重力魔法の方はまあ割れてると思ったが、こっちはそうでもなかったらしい」
認識したのとほぼ同時に、銃弾の雨が瑞雪に向かって降り注いだ。
夏輝達を先に行かせ、一人残った冬真はへらへら笑いを崩さない。
手に何か持っているわけでもない。杖は一体どこにあるのか。
冬真は目を細め、こちらを値踏みするように見ていた。
「一人で残るとは勇敢なことだ。随分と余裕そうだな」
「人手が足りねえんだよ、糞が」
至極どうでもいい、意味を大して持たない言葉の押収。
もっと使える人手があれば、単独戦闘が誰よりも苦手な瑞雪がここに一人残ることなどなかった。
だが、必要だから。夏輝を前へ行かせるためだから、リスクを承知で残った。
ちらちらと、しきりにスマホを確認する。
「どこもかしこも下々の者は人手が足りてないか。……うん、そうだなぁ」
冬真から漂う哀愁。にやけ面もどこか悲し気に見えた。
しかし、こうして適当な会話を挟んでいるだけで刻一刻と時間稼ぎをされている。
彼はここで管を巻いているだけでも仕事を果たせるが、瑞雪は違う。さっさと目の前の障害を排除し、先に進まなければならない。
(ままならないことが多すぎる)
大きくため息をつき、矢をいくつか取り出す。弓を構えるのはただの無駄だ。
一対一の戦いにおいて、弓を構え、引き絞り、射る。こんな動作をするだけの余裕は基本的にないのだから。
(栗色の髪の男……冬真だったか。ラテアが最初に遭遇した傭兵)
小さくこの男の事に関しては、多少なりの情報を得ている。
重力ー闇魔法の派生魔法を扱うこと。
かの魔法は瑞雪とて殆ど知らない。使っている魔物やエデン人を見たことは少なくとも瑞雪にはなかった。
だが、ロセが言うにはとても制御が難しく、エデン人でも使っている種族はそういない。使えるとしても、大規模な展開は無理でごく小規模な範囲に留まるはず。
勿論、周囲の被害を鑑みなければまた別だというが。
(あいつの知識は実際頼りになる……。支部に保管されているデータはそう多くはないし、本部のデータを閲覧するには権限が必要だ。俺達にない知識をあいつは持っている。逆に吸血鬼があそこまで知識に関して役に立たないとは思っていなかったが)
思い出してゲンナリする。地球人含め、弱いから相手をつぶさに観察するのだ。
吸血鬼ーアレウは絶対的な強者、食物連鎖の上に立つ存在であるからそんな必要はなかったのだろう。
「お、そろそろ来るか?」
矢を握りこんだのを確認し、冬真がポケットに手を突っ込み真っすぐ瑞雪を見据える。どうにも気だるげで、夜一とは正反対にやる気がなさそうだった。
舐められている。ほぼ間違いなく。この男や、夜一には夏輝や瑞雪に存在しない余裕を持っている。
しかし、瑞雪だって何の勝ち目も見いだせないまま単身対峙しているわけではない。
(威力より速度だ)
ほぼ無詠唱で、瑞雪は雷の槍を冬真に向かって放つ。一つだけでなく、いくつも同時に並列で詠唱を行う。
(氷ではダメだ、発生が遅すぎる。雷でとにかく重力魔法を詠唱させる隙を与えない……ひとまずこれで様子を見る、あわよくば押し切る)
多勢に無勢というわけでもなく、一対一のタイマンであるならば。
何より、盾や転移魔法などの瑞雪が苦手とする分野の魔法ではなく攻撃魔法なら。
「っはや!?」
冬真が反応しきる前に雷の槍が着弾。わき腹を掠め、じゅうじゅうと肉の焦げる匂いが充満する。
服の一部が焼き切れ、痛々しい肉の抉れた薄い腹が見えた。しかし、流石というべきか。
「……殺す気で撃ったんだがな」
「流石に殺されるほど弱くないって」
瑞雪が第二射を撃つ前に冬真が走り出す。雷の槍を連射しつつ、広域を攻撃可能な落雷の魔法も並列で組み立て始める。
ほぼ無詠唱で魔法を行使しているがゆえに、いくら瑞雪の得意とする攻撃魔法であっても荒は多くなる。
だからこそ、冬真の被害は脇腹を軽く抉られる程度にとどまっている。
「固定砲台タイプっぽいな。純粋な後衛か。まあ、前衛は猟犬に任せる方が無難だよなァ」
瑞雪と冬真が戦っているのは国道だ。国道沿いには多くの店が立ち並んでいる。遮蔽のない道路から建物へと走る冬真。
一切気にせず全力で攻撃魔法を紡げば、一瞬で冬真ごと建物を吹き飛ばすことは可能だろう。しかし、それをすることは人間ではなくただの化け物だ。
無人ならともかく、中には多くの市民がいるだろう。
「へえ、人間の被害を気にするタイプか。意外だな。その顔なら気にせずぶっ放してくるかと思ったが」
再び冬真が建物の影から飛び出してくる。
手には先程まではなかったはずの銃-それもアサルトライフルが握られていた。
「ッは……!?」
思わず喉の奥から驚嘆の声が漏れる。別に冬真は銃が治められていそうなアタッシュケースなどは一切所持していなかったはずだ。
「予想してなかったって顔だな。重力魔法の方はまあ割れてると思ったが、こっちはそうでもなかったらしい」
認識したのとほぼ同時に、銃弾の雨が瑞雪に向かって降り注いだ。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる