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EP3 復讐の黄金比7 決死隊
長い夜の始まり
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「乗り心地はそこそこってところだな」
「文句があるなら降りて飛んでくれ」
車内で愉快な罵声が飛ぶ。
普段なら夏輝がとりなしたりする場面ではあったが、車が発車した途端黙ってしまった。
じぃっとカーナビを睨むように見つめている。
車内の誰もが夏輝にかける言葉を持たない。
下手な慰めは逆効果だし、そんなことよりもラテア奪還に尽力するべきだとその場の誰もが思っていたからだ。
……まあ、トツカはそんな事感じてはいない。ただ無口なだけだった。
結局雨は降らず、雲の合間から月と星が見え隠れしている。
陽が沈んだというのに、今日は妙に蒸し暑い。雨が降ったからか湿度が高く不愉快だった。
『結界が黒間市一帯に張られたわ!』
後一キロ程度で病院内の敷地に突入するというところでトロンがけたたましく騒ぎ出す。
支部も動き始めたようだった。
「久々に長い夜になりそうだ」
アレウがボヤく。
助手席のロセは騒ぐトロンなどなんのその、車窓から夜空を見上げていた。
各々勝手で大変よろしい。
瑞雪もまた気にせず走り続けることにした。
夕方までに、ここまでの敵に関する情報共有は全て行っている。
更に新手の傭兵が出てきたり、実験体の魔物が解放されたりなどすればその限りではないが、ある程度なら対処が可能だろう。
そんなことを考えつつ、フクとトロンにマナ及びイオの反応を探らせ走っていた。
『……イオ反応!上!いきなり現れたわ!多分……夏輝を襲ったやつ!』
トロンの言葉に瑞雪は躊躇することなく一気にアクセルを踏み込む。
「舌噛まないようにしろ!しっかり捕まっておけっ!」
瑞雪が叫ぶ。
「ちょっというのが遅いんじゃないかな!?」
踏み込んでから言っても遅いとロセが文句を言う。
夏輝がバックミラーを確認すると、すぐ後ろのコンクリートが滅多切りにされていた。
刹那、バンの上に何かがずしんという重たい音と共に着地。車全体が揺れた。
「……上に乗られたか」
車内に響く瑞雪の舌打ち。
なにかに斬られたかのように窓ガラスに亀裂が入り、バン全体がさらに揺れる。
「瑞雪さん、俺」
「お前は動くな。お前を送り届けるために俺達がいるんだ。トツカ、あいつを追い払え!」
「わかった」
ここでアレウに行かせるわけにはいかない。夏輝もまた同じく。
トツカがバンのドアを横に勢いよくスライドさせ、上へとひょいとあがる。
どしんと鈍い音がして、さらに車体が揺れる。
成人男性、それもガタイのいい男二人分の体重乗ってもバンが沈むことはない。
「あは、新しい人だ~」
車はすさまじいスピードで病院へ向かって走り続けている。
身体強化魔法を全身にかけ、車体の上でもトツカは一切動じずに行動可能だった。
一方の夜一はふらふらと今にも車から落ちそうであった。
しかし、落ちない。何故だか妙に安定感がある。
「トツカ!わかってると思うが俺の血を奪いすぎるなよ!これは前菜みたいなもんだ!」
「ああ」
一応声をかけておく。
トツカは力強く頷き、刀をどこからともなく呼び出す。
夏輝から夜一の情報は既に聞いている。トツカの背後から不可視の刃が首を狙い放たれた。
正確無比な一撃。
しかし、刃一発にリーチはそこまでないようで、トツカは上体を逸らしかわしてみせた。
髪がはらはらと数本落ちる。車体へと落下する前に今度はトツカが動いた。
お返しとばかりに刀で夜一の首……ではなく、心臓を穿とうと鋭い突きを放つ。
「おお、ほうれんそうが出来てる♪いっつも俺は冬真に怒られるのに~」
「首は大体の生物の弱点だと思っていたが違うものがいるとは、面白いな」
一つ問題があるとすれば、夜一は戦闘狂で、トツカもまたその気があるということだった。
トツカの突きを夜一は本命の武器たる大鎌を召喚し受け止める。
目を細め、口元を歪める。
「……あの見えない刃と言い、一体何の魔法なんでしょう?それとも、首無し騎士っていう種族は皆ああなんですか?」
夏輝が問う。
瑞雪は夜一を振り落とそうと速度を上げ続けていた。車体がガタガタと揺れ、アレウが腕を伸ばしトツカが開けた扉を一旦閉める。
「他の首無し騎士を俺は見たことがない。そもそも妖精という種族は基本的に気まぐれで、猟犬としての適性はほぼない。扱いづらいことこの上ない」
「そうだね。妖精は山の天気みたいにコロコロと気分が変わるものだから。でも、首無し騎士はそうでもないんだよ。職務に忠実だからね」
大鎌はリーチこそ長いものの、振りが遅い。
それに対しトツカの刀は小回りが利く。懐に飛び込み、心臓を切り裂き息の根を止めようとするだろう。
しかし、その弱点を不可視の刃によって克服していた。
何より、いくら大型のバンの上とはいえ戦うにはあまりにも狭かった。
互いに武器を持ちながらも、武器を互いに消し、徒手空拳での勝負へと移行していく。
「職務に忠実?」
夏輝が首をかしげる。
「うん。首無し騎士は死の近い命に対して宣告をする役目があるんだ。ほとんどの首無し騎士は寡黙で、職務の為に世界各地を放浪している。妖精のような遊び心は一般的に彼らは持たない。武器である大鎌も戦闘を楽しむためではなく、苦しみなく命を刈り取るためにある。……あの子は、違うみたいだけどね?」
地球生まれのアレウより、ロセの方がエデンの種族や事情に詳しいのだろう。
トツカは違和感を感じていた。
車体の上は不安定で、加速によるGを感じとにかく動きづらいし、一歩足を踏み外せばあっという間に車体から投げ出されること請け合いだ。
頬に当たる風は刃のように鋭いし、五感を遮る。
けれど、目の前の夜一は一切その様子が見受けられないのだ。
拳を繰り出しあっても、相手の方がより軽やかに動きかわしていく。
落とされまいとトツカは脚力強化を重ね掛けし、車体に足を食い込ませる。
身体強化魔法を使いなんとか堪えている状態だった。
「魔法の方は……これは何の派生だ?」
『多分だけど、光の魔法の派生かしら。恐らく、空間に影響を及ぼす類の魔法だと思うの。今データベースを確認しているけれど、殆ど例がないわね……』
瑞雪の問いに答えたのはトロンだった。
「わかりやすい魔法は対処が楽だが、小手先の魔法は面倒だな」
「瑞雪ちゃんって実は結構脳筋だよね」
ボヤく瑞雪にロセが思わず苦笑いを漏らす。
真っすぐぶっ飛ばせればどれだけ楽だろう。しかし、現実はそううまくはいかないのであり。
トツカは空気抵抗を受けないため、動きを最小限に抑えていた。
一方の夜一は曲芸師かと思うほどに大胆な動きが多い。
軽やかに、ここが車上ではないかのように飛び回る。
「腕力強化、脚力強化……」
しかし、トツカとてやられてばかりではない。
夜一は背こそ高いもののトツカに比べて筋肉量は少ない。
加えて身体強化魔法を夜一は使わない。
一撃でもまともに喰らえば間違いなく車上から吹っ飛ばされる。
不可視の刃は土魔法を使って動かず防ぐ。
拳を振るい、殴り、あるいは相手の攻撃を受け止める。
一進一退の攻防だった。
(こうやって殴り合っているのは楽しいが、そろそろなんとかしたいところだ。下半身をうまいこと使えないのは不便極まりない)
瑞雪達の会話が車上のトツカに聞こえているわけもなく。
戦うことは好きだ。身体を動かすことも。
イースター以降、戦ったのは雑魚ばかりで燻っていたのもある。
目をギラつかせ、トツカは夜一をとらえるため動きの癖を観察する。
(一定でなく、ふらふらと掴みどころがないな。だが、不可視の刃さえ凌げば相手もまた肉弾戦以外の攻撃方法はないようだ)
落ちるかもしれない、その一点において自分は不利だ。そうトツカは結論付ける。
(なら……)
これなら血を貰う必要すらない。
土のマナを練り上げ、自らの靴底にスパイクを生成する。
片足を踏み込み、車体にしっかりと食い込ませる。
腕を振り上げ、夜一に向かって振り抜く。
夜一は拳をかわし、トツカの頬へとカウンターを決めようとする。が。
「っぐ、ぁ……!?」
まさかこの不安定な車上で蹴りなど使うと予想していなかったのだろう。
それを逆手に取り、トツカは夜一のみぞおちに見事な蹴りを一発入れ、吹き飛ばした。
「文句があるなら降りて飛んでくれ」
車内で愉快な罵声が飛ぶ。
普段なら夏輝がとりなしたりする場面ではあったが、車が発車した途端黙ってしまった。
じぃっとカーナビを睨むように見つめている。
車内の誰もが夏輝にかける言葉を持たない。
下手な慰めは逆効果だし、そんなことよりもラテア奪還に尽力するべきだとその場の誰もが思っていたからだ。
……まあ、トツカはそんな事感じてはいない。ただ無口なだけだった。
結局雨は降らず、雲の合間から月と星が見え隠れしている。
陽が沈んだというのに、今日は妙に蒸し暑い。雨が降ったからか湿度が高く不愉快だった。
『結界が黒間市一帯に張られたわ!』
後一キロ程度で病院内の敷地に突入するというところでトロンがけたたましく騒ぎ出す。
支部も動き始めたようだった。
「久々に長い夜になりそうだ」
アレウがボヤく。
助手席のロセは騒ぐトロンなどなんのその、車窓から夜空を見上げていた。
各々勝手で大変よろしい。
瑞雪もまた気にせず走り続けることにした。
夕方までに、ここまでの敵に関する情報共有は全て行っている。
更に新手の傭兵が出てきたり、実験体の魔物が解放されたりなどすればその限りではないが、ある程度なら対処が可能だろう。
そんなことを考えつつ、フクとトロンにマナ及びイオの反応を探らせ走っていた。
『……イオ反応!上!いきなり現れたわ!多分……夏輝を襲ったやつ!』
トロンの言葉に瑞雪は躊躇することなく一気にアクセルを踏み込む。
「舌噛まないようにしろ!しっかり捕まっておけっ!」
瑞雪が叫ぶ。
「ちょっというのが遅いんじゃないかな!?」
踏み込んでから言っても遅いとロセが文句を言う。
夏輝がバックミラーを確認すると、すぐ後ろのコンクリートが滅多切りにされていた。
刹那、バンの上に何かがずしんという重たい音と共に着地。車全体が揺れた。
「……上に乗られたか」
車内に響く瑞雪の舌打ち。
なにかに斬られたかのように窓ガラスに亀裂が入り、バン全体がさらに揺れる。
「瑞雪さん、俺」
「お前は動くな。お前を送り届けるために俺達がいるんだ。トツカ、あいつを追い払え!」
「わかった」
ここでアレウに行かせるわけにはいかない。夏輝もまた同じく。
トツカがバンのドアを横に勢いよくスライドさせ、上へとひょいとあがる。
どしんと鈍い音がして、さらに車体が揺れる。
成人男性、それもガタイのいい男二人分の体重乗ってもバンが沈むことはない。
「あは、新しい人だ~」
車はすさまじいスピードで病院へ向かって走り続けている。
身体強化魔法を全身にかけ、車体の上でもトツカは一切動じずに行動可能だった。
一方の夜一はふらふらと今にも車から落ちそうであった。
しかし、落ちない。何故だか妙に安定感がある。
「トツカ!わかってると思うが俺の血を奪いすぎるなよ!これは前菜みたいなもんだ!」
「ああ」
一応声をかけておく。
トツカは力強く頷き、刀をどこからともなく呼び出す。
夏輝から夜一の情報は既に聞いている。トツカの背後から不可視の刃が首を狙い放たれた。
正確無比な一撃。
しかし、刃一発にリーチはそこまでないようで、トツカは上体を逸らしかわしてみせた。
髪がはらはらと数本落ちる。車体へと落下する前に今度はトツカが動いた。
お返しとばかりに刀で夜一の首……ではなく、心臓を穿とうと鋭い突きを放つ。
「おお、ほうれんそうが出来てる♪いっつも俺は冬真に怒られるのに~」
「首は大体の生物の弱点だと思っていたが違うものがいるとは、面白いな」
一つ問題があるとすれば、夜一は戦闘狂で、トツカもまたその気があるということだった。
トツカの突きを夜一は本命の武器たる大鎌を召喚し受け止める。
目を細め、口元を歪める。
「……あの見えない刃と言い、一体何の魔法なんでしょう?それとも、首無し騎士っていう種族は皆ああなんですか?」
夏輝が問う。
瑞雪は夜一を振り落とそうと速度を上げ続けていた。車体がガタガタと揺れ、アレウが腕を伸ばしトツカが開けた扉を一旦閉める。
「他の首無し騎士を俺は見たことがない。そもそも妖精という種族は基本的に気まぐれで、猟犬としての適性はほぼない。扱いづらいことこの上ない」
「そうだね。妖精は山の天気みたいにコロコロと気分が変わるものだから。でも、首無し騎士はそうでもないんだよ。職務に忠実だからね」
大鎌はリーチこそ長いものの、振りが遅い。
それに対しトツカの刀は小回りが利く。懐に飛び込み、心臓を切り裂き息の根を止めようとするだろう。
しかし、その弱点を不可視の刃によって克服していた。
何より、いくら大型のバンの上とはいえ戦うにはあまりにも狭かった。
互いに武器を持ちながらも、武器を互いに消し、徒手空拳での勝負へと移行していく。
「職務に忠実?」
夏輝が首をかしげる。
「うん。首無し騎士は死の近い命に対して宣告をする役目があるんだ。ほとんどの首無し騎士は寡黙で、職務の為に世界各地を放浪している。妖精のような遊び心は一般的に彼らは持たない。武器である大鎌も戦闘を楽しむためではなく、苦しみなく命を刈り取るためにある。……あの子は、違うみたいだけどね?」
地球生まれのアレウより、ロセの方がエデンの種族や事情に詳しいのだろう。
トツカは違和感を感じていた。
車体の上は不安定で、加速によるGを感じとにかく動きづらいし、一歩足を踏み外せばあっという間に車体から投げ出されること請け合いだ。
頬に当たる風は刃のように鋭いし、五感を遮る。
けれど、目の前の夜一は一切その様子が見受けられないのだ。
拳を繰り出しあっても、相手の方がより軽やかに動きかわしていく。
落とされまいとトツカは脚力強化を重ね掛けし、車体に足を食い込ませる。
身体強化魔法を使いなんとか堪えている状態だった。
「魔法の方は……これは何の派生だ?」
『多分だけど、光の魔法の派生かしら。恐らく、空間に影響を及ぼす類の魔法だと思うの。今データベースを確認しているけれど、殆ど例がないわね……』
瑞雪の問いに答えたのはトロンだった。
「わかりやすい魔法は対処が楽だが、小手先の魔法は面倒だな」
「瑞雪ちゃんって実は結構脳筋だよね」
ボヤく瑞雪にロセが思わず苦笑いを漏らす。
真っすぐぶっ飛ばせればどれだけ楽だろう。しかし、現実はそううまくはいかないのであり。
トツカは空気抵抗を受けないため、動きを最小限に抑えていた。
一方の夜一は曲芸師かと思うほどに大胆な動きが多い。
軽やかに、ここが車上ではないかのように飛び回る。
「腕力強化、脚力強化……」
しかし、トツカとてやられてばかりではない。
夜一は背こそ高いもののトツカに比べて筋肉量は少ない。
加えて身体強化魔法を夜一は使わない。
一撃でもまともに喰らえば間違いなく車上から吹っ飛ばされる。
不可視の刃は土魔法を使って動かず防ぐ。
拳を振るい、殴り、あるいは相手の攻撃を受け止める。
一進一退の攻防だった。
(こうやって殴り合っているのは楽しいが、そろそろなんとかしたいところだ。下半身をうまいこと使えないのは不便極まりない)
瑞雪達の会話が車上のトツカに聞こえているわけもなく。
戦うことは好きだ。身体を動かすことも。
イースター以降、戦ったのは雑魚ばかりで燻っていたのもある。
目をギラつかせ、トツカは夜一をとらえるため動きの癖を観察する。
(一定でなく、ふらふらと掴みどころがないな。だが、不可視の刃さえ凌げば相手もまた肉弾戦以外の攻撃方法はないようだ)
落ちるかもしれない、その一点において自分は不利だ。そうトツカは結論付ける。
(なら……)
これなら血を貰う必要すらない。
土のマナを練り上げ、自らの靴底にスパイクを生成する。
片足を踏み込み、車体にしっかりと食い込ませる。
腕を振り上げ、夜一に向かって振り抜く。
夜一は拳をかわし、トツカの頬へとカウンターを決めようとする。が。
「っぐ、ぁ……!?」
まさかこの不安定な車上で蹴りなど使うと予想していなかったのだろう。
それを逆手に取り、トツカは夜一のみぞおちに見事な蹴りを一発入れ、吹き飛ばした。
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