青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比6 ぽっかりと空いた穴

反撃の手立て

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「わかった」

 瑞雪は特に何もコメントは残さず頷いた。
 アレウは言わずもがな、敵の戦力がわからず人質の数が膨大な以上人手はいくらあっても足りない。
 
「瑞雪君、今回は兄さんと僕は裏方に回ります」

「秋雨さんが病院の人間どもの被害を少しでも減らすようにってさ。ま、一般フロアの制圧は俺の猟犬による人海戦術が一番有効だろうからね。羊飼いがわんさかいるってわけでもなさそうだし。魔物程度なら俺の猟犬さえいれば余裕だもん」

 どうやら秋雨の指示らしい。 
 やや不服そうではあるが、朝陽としては秋雨に任務を与えられたのが純粋に嬉しいらしくそれ以上嫌味や文句を言ってくることはなかった。

「これで大方の事は決まったな」

 ようやく一心地つく。
 メンツは夏輝、瑞雪、トツカ、そしてアレウとロセ。
 双子がサポートな以上この少ないメンツで何とかするしかない。
 
「瑞雪さん、すぐにでもラテアを助けに……!」

 瑞雪が整理したところで掴みかかり……あるいは縋りつき、睨むように見つめる。
 ラテアはもともと実験施設に囚われていた。
 きっと今も酷く心細い……あるいは既に惨い実験を受けているのかもしれない。
 散々勅使河原の実験に巻き込まれた人々の末路は見てきたのだ。
 焦り、怒り、ふがいなさ……様々な感情が夏輝の胸を荒れ狂っているのだろう。

「すぐには危険だ。病院の見取り図などを手配している。昼間でなく陽が落ちてからせめて行くべきだ」

「でも……ッ!」

 夏輝とて、頭ではわかっている。
 けれど、それ以上にラテアへの想いが焦りを生んでいた。
 瑞雪には、ここまで入れ込むような相手などできた事がないため夏輝の焦りを理解はできても想像することは難しい。
 どうしたものかと考えあぐねていると、八潮がカウンターから店内へと出る。
 そして夏輝の背後へと回り、ぽんと優しく彼の肩を叩いた。

「夏輝」
「ッ……」

 諭すように、けれどはっきりと叱るように八潮は夏輝の名前を呼んだ。

「焦る気持ちはわかります。ですが、無策で敵の本拠地に突っ込むことがどれだけ愚かで、そしてラテア君の身も夏輝自身、果ては仲間の身まで危険にさらすかは夏輝とてわかっているでしょう?」

「……勅使河原の狙いが薬品の開発である以上、この一、二時間でラテアの命に危険が及ぶとは考えにくい。実験をするにしても準備時間が必要だと考える。決行は夜だ。それまでに準備と休息をとっておけ」

 瑞雪が再度説得するため丁寧に言葉を尽くして説明すると、夏輝はようやく悔し気に顔を歪めながら頷いた。
 嘘は一つも言っていない。事実だ。
 あれだけラテアを欲していたのだから、すぐに使い潰して殺すということもないはず。
 ラテア自身の負担は相当だろうが、それが最善の策であると、瑞雪はそう判断した。

「お前たちもそれでいいな?」

 残りのメンツに確認を取れば、その場にいた全員が頷く。
 今は五月の始め。陽が落ちるのは十八時過ぎくらいだろう。
 
「それじゃあ俺達は支部の方に戻るよ。準備とか色々あるし。ま、最善は尽くすさ。俺は超有能な羊飼いだし、前回よりも不利なフィールドじゃないからね。大船に乗ったつもりでいていいよ」

「では、また後で。夏輝君、辛いと思うけど気を確かにね。兄さんなりに励まそうとしているんです。何かあったらすぐに連絡をお願いします」

 朝陽が胸を張りつつカフェから出ていく。月夜も軽くこちらへと頭を下げた後、同じく。
 
「私たちも準備があるから一旦お暇するね。陽が落ちる前には戻ってくるから」

「ああ」

 ロセとアレウも出ていく。
 小さく息をつく。そもそも本来仕切るタイプではないのだから疲れもする。
 状況も状況だ。

「俺たちはどうする?瑞雪」

「とりあえず飯を食う」

 用意されていたサンドイッチに手を伸ばす。
 もそもそと食べていると、八潮が口を開く。

「夏輝、少し庭の方で話をしましょう」

 しませんか、ではなくしましょう。有無を言わさぬその言葉に夏輝は席を立つ。
 浮かない顔。ラテアを助け出さない限り、彼の心がはれることはないのだろう。
 気にしすぎても仕方がない。解決策が明確である以上、解決できるように尽力するだけだ。
 そのためにも瑞雪自身が消耗していては元も子もない。

「瑞雪君、トツカ君。私と夏輝は少し外の空気を吸ってきます。お客さんは来ないでしょうが、暫く店番の方をお願いしますね」

「承知した」

 八潮の言葉にトツカが素直に頷く。
 瑞雪は目線で了承を伝える。
 八潮であれば、夏輝の精神的負担を少しでも軽減できるかもしれない。
 彼と夏輝は血は繋がっていないのだろうが、彼は正しく夏輝の保護者、父であるように瑞雪は感じていた。

(……本来の父親というものは、家族というものはあの二人のような関係なんだろうな)

 どこか遠くに感じつつ、瑞雪は苦い感情をコーヒーと共に押し流した。




 
 


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