239 / 334
EP3 復讐の黄金比6 ぽっかりと空いた穴
反撃の手立て
しおりを挟む
「わかった」
瑞雪は特に何もコメントは残さず頷いた。
アレウは言わずもがな、敵の戦力がわからず人質の数が膨大な以上人手はいくらあっても足りない。
「瑞雪君、今回は兄さんと僕は裏方に回ります」
「秋雨さんが病院の人間どもの被害を少しでも減らすようにってさ。ま、一般フロアの制圧は俺の猟犬による人海戦術が一番有効だろうからね。羊飼いがわんさかいるってわけでもなさそうだし。魔物程度なら俺の猟犬さえいれば余裕だもん」
どうやら秋雨の指示らしい。
やや不服そうではあるが、朝陽としては秋雨に任務を与えられたのが純粋に嬉しいらしくそれ以上嫌味や文句を言ってくることはなかった。
「これで大方の事は決まったな」
ようやく一心地つく。
メンツは夏輝、瑞雪、トツカ、そしてアレウとロセ。
双子がサポートな以上この少ないメンツで何とかするしかない。
「瑞雪さん、すぐにでもラテアを助けに……!」
瑞雪が整理したところで掴みかかり……あるいは縋りつき、睨むように見つめる。
ラテアはもともと実験施設に囚われていた。
きっと今も酷く心細い……あるいは既に惨い実験を受けているのかもしれない。
散々勅使河原の実験に巻き込まれた人々の末路は見てきたのだ。
焦り、怒り、ふがいなさ……様々な感情が夏輝の胸を荒れ狂っているのだろう。
「すぐには危険だ。病院の見取り図などを手配している。昼間でなく陽が落ちてからせめて行くべきだ」
「でも……ッ!」
夏輝とて、頭ではわかっている。
けれど、それ以上にラテアへの想いが焦りを生んでいた。
瑞雪には、ここまで入れ込むような相手などできた事がないため夏輝の焦りを理解はできても想像することは難しい。
どうしたものかと考えあぐねていると、八潮がカウンターから店内へと出る。
そして夏輝の背後へと回り、ぽんと優しく彼の肩を叩いた。
「夏輝」
「ッ……」
諭すように、けれどはっきりと叱るように八潮は夏輝の名前を呼んだ。
「焦る気持ちはわかります。ですが、無策で敵の本拠地に突っ込むことがどれだけ愚かで、そしてラテア君の身も夏輝自身、果ては仲間の身まで危険にさらすかは夏輝とてわかっているでしょう?」
「……勅使河原の狙いが薬品の開発である以上、この一、二時間でラテアの命に危険が及ぶとは考えにくい。実験をするにしても準備時間が必要だと考える。決行は夜だ。それまでに準備と休息をとっておけ」
瑞雪が再度説得するため丁寧に言葉を尽くして説明すると、夏輝はようやく悔し気に顔を歪めながら頷いた。
嘘は一つも言っていない。事実だ。
あれだけラテアを欲していたのだから、すぐに使い潰して殺すということもないはず。
ラテア自身の負担は相当だろうが、それが最善の策であると、瑞雪はそう判断した。
「お前たちもそれでいいな?」
残りのメンツに確認を取れば、その場にいた全員が頷く。
今は五月の始め。陽が落ちるのは十八時過ぎくらいだろう。
「それじゃあ俺達は支部の方に戻るよ。準備とか色々あるし。ま、最善は尽くすさ。俺は超有能な羊飼いだし、前回よりも不利なフィールドじゃないからね。大船に乗ったつもりでいていいよ」
「では、また後で。夏輝君、辛いと思うけど気を確かにね。兄さんなりに励まそうとしているんです。何かあったらすぐに連絡をお願いします」
朝陽が胸を張りつつカフェから出ていく。月夜も軽くこちらへと頭を下げた後、同じく。
「私たちも準備があるから一旦お暇するね。陽が落ちる前には戻ってくるから」
「ああ」
ロセとアレウも出ていく。
小さく息をつく。そもそも本来仕切るタイプではないのだから疲れもする。
状況も状況だ。
「俺たちはどうする?瑞雪」
「とりあえず飯を食う」
用意されていたサンドイッチに手を伸ばす。
もそもそと食べていると、八潮が口を開く。
「夏輝、少し庭の方で話をしましょう」
しませんか、ではなくしましょう。有無を言わさぬその言葉に夏輝は席を立つ。
浮かない顔。ラテアを助け出さない限り、彼の心がはれることはないのだろう。
気にしすぎても仕方がない。解決策が明確である以上、解決できるように尽力するだけだ。
そのためにも瑞雪自身が消耗していては元も子もない。
「瑞雪君、トツカ君。私と夏輝は少し外の空気を吸ってきます。お客さんは来ないでしょうが、暫く店番の方をお願いしますね」
「承知した」
八潮の言葉にトツカが素直に頷く。
瑞雪は目線で了承を伝える。
八潮であれば、夏輝の精神的負担を少しでも軽減できるかもしれない。
彼と夏輝は血は繋がっていないのだろうが、彼は正しく夏輝の保護者、父であるように瑞雪は感じていた。
(……本来の父親というものは、家族というものはあの二人のような関係なんだろうな)
どこか遠くに感じつつ、瑞雪は苦い感情をコーヒーと共に押し流した。
瑞雪は特に何もコメントは残さず頷いた。
アレウは言わずもがな、敵の戦力がわからず人質の数が膨大な以上人手はいくらあっても足りない。
「瑞雪君、今回は兄さんと僕は裏方に回ります」
「秋雨さんが病院の人間どもの被害を少しでも減らすようにってさ。ま、一般フロアの制圧は俺の猟犬による人海戦術が一番有効だろうからね。羊飼いがわんさかいるってわけでもなさそうだし。魔物程度なら俺の猟犬さえいれば余裕だもん」
どうやら秋雨の指示らしい。
やや不服そうではあるが、朝陽としては秋雨に任務を与えられたのが純粋に嬉しいらしくそれ以上嫌味や文句を言ってくることはなかった。
「これで大方の事は決まったな」
ようやく一心地つく。
メンツは夏輝、瑞雪、トツカ、そしてアレウとロセ。
双子がサポートな以上この少ないメンツで何とかするしかない。
「瑞雪さん、すぐにでもラテアを助けに……!」
瑞雪が整理したところで掴みかかり……あるいは縋りつき、睨むように見つめる。
ラテアはもともと実験施設に囚われていた。
きっと今も酷く心細い……あるいは既に惨い実験を受けているのかもしれない。
散々勅使河原の実験に巻き込まれた人々の末路は見てきたのだ。
焦り、怒り、ふがいなさ……様々な感情が夏輝の胸を荒れ狂っているのだろう。
「すぐには危険だ。病院の見取り図などを手配している。昼間でなく陽が落ちてからせめて行くべきだ」
「でも……ッ!」
夏輝とて、頭ではわかっている。
けれど、それ以上にラテアへの想いが焦りを生んでいた。
瑞雪には、ここまで入れ込むような相手などできた事がないため夏輝の焦りを理解はできても想像することは難しい。
どうしたものかと考えあぐねていると、八潮がカウンターから店内へと出る。
そして夏輝の背後へと回り、ぽんと優しく彼の肩を叩いた。
「夏輝」
「ッ……」
諭すように、けれどはっきりと叱るように八潮は夏輝の名前を呼んだ。
「焦る気持ちはわかります。ですが、無策で敵の本拠地に突っ込むことがどれだけ愚かで、そしてラテア君の身も夏輝自身、果ては仲間の身まで危険にさらすかは夏輝とてわかっているでしょう?」
「……勅使河原の狙いが薬品の開発である以上、この一、二時間でラテアの命に危険が及ぶとは考えにくい。実験をするにしても準備時間が必要だと考える。決行は夜だ。それまでに準備と休息をとっておけ」
瑞雪が再度説得するため丁寧に言葉を尽くして説明すると、夏輝はようやく悔し気に顔を歪めながら頷いた。
嘘は一つも言っていない。事実だ。
あれだけラテアを欲していたのだから、すぐに使い潰して殺すということもないはず。
ラテア自身の負担は相当だろうが、それが最善の策であると、瑞雪はそう判断した。
「お前たちもそれでいいな?」
残りのメンツに確認を取れば、その場にいた全員が頷く。
今は五月の始め。陽が落ちるのは十八時過ぎくらいだろう。
「それじゃあ俺達は支部の方に戻るよ。準備とか色々あるし。ま、最善は尽くすさ。俺は超有能な羊飼いだし、前回よりも不利なフィールドじゃないからね。大船に乗ったつもりでいていいよ」
「では、また後で。夏輝君、辛いと思うけど気を確かにね。兄さんなりに励まそうとしているんです。何かあったらすぐに連絡をお願いします」
朝陽が胸を張りつつカフェから出ていく。月夜も軽くこちらへと頭を下げた後、同じく。
「私たちも準備があるから一旦お暇するね。陽が落ちる前には戻ってくるから」
「ああ」
ロセとアレウも出ていく。
小さく息をつく。そもそも本来仕切るタイプではないのだから疲れもする。
状況も状況だ。
「俺たちはどうする?瑞雪」
「とりあえず飯を食う」
用意されていたサンドイッチに手を伸ばす。
もそもそと食べていると、八潮が口を開く。
「夏輝、少し庭の方で話をしましょう」
しませんか、ではなくしましょう。有無を言わさぬその言葉に夏輝は席を立つ。
浮かない顔。ラテアを助け出さない限り、彼の心がはれることはないのだろう。
気にしすぎても仕方がない。解決策が明確である以上、解決できるように尽力するだけだ。
そのためにも瑞雪自身が消耗していては元も子もない。
「瑞雪君、トツカ君。私と夏輝は少し外の空気を吸ってきます。お客さんは来ないでしょうが、暫く店番の方をお願いしますね」
「承知した」
八潮の言葉にトツカが素直に頷く。
瑞雪は目線で了承を伝える。
八潮であれば、夏輝の精神的負担を少しでも軽減できるかもしれない。
彼と夏輝は血は繋がっていないのだろうが、彼は正しく夏輝の保護者、父であるように瑞雪は感じていた。
(……本来の父親というものは、家族というものはあの二人のような関係なんだろうな)
どこか遠くに感じつつ、瑞雪は苦い感情をコーヒーと共に押し流した。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる