青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比5 復讐に駆られる者たち

嵐の前の静けさ

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(ラテアは三日後の作戦決行の日までロセさんの家に匿ってもらう手筈だし、俺も大人しくしていないと)

 会議の翌朝。
 夏輝はいつも通りに起床し、いつも通りに朝食を作り、いつも通りに掃除をしていた。
 ラテアのいない部屋はとても静かで、トロンが時折話しかけてくるくらいだ。
 
(慣れたくないな。ラテアがいる生活が当たり前であってほしい)

 小さく息をつく。
 アレウと一緒に居る限り、ラテアは無事なはずだ。
 問題は、そちらではなく。

(病院を攻める……たくさん人が死ぬ)

 無関係の人々が、大量に。
 しかし、放置してもそれ以上の人が死ぬ。
 
(魔法は便利だけど、万能じゃない。物語のように誰も彼もを救えるような英雄にはなれない。現実の魔法は結局、銃やナイフと何ら変わりないんだよな……)

 この世界は思い通りにならないことだらけだ。
 思い通りになることが正しいとは思わないが、被害者が出ない、死人が出ないなどという願いくらいは思い通りになってほしいものだ。
 
(……俺が出来るのは、できる限り被害が少なくなるように頑張ること。やらないって選択肢はないんだ)

 竜、グリーゾスとの戦い、そしてイースターでの戦い。
 結局戦うしかなかった。戦う以外の道などなかった。

「あ、そうだ。ノアの事も断らなきゃ……巻き込んじゃうかも」

 そう思い、スマホで連絡を取ろうとしたところで玄関のチャイムが鳴った。
 ぴんぽん、といういつも通りの音。
 
「しまった……」

 昨日の夜に伝えておけばよかった。
 そう思ってももう遅い。
 慌てて玄関に走り、鍵をあけ、ドアを開ける。

「おはよう夏輝!」

 ドアを開けた瞬間飛び込んでくるのあの笑顔。
 ノアは普段と変わらぬ快活な挨拶を夏輝へと投げかける。
 それにホっとしつつも、今の事態を考えると早く遠ざけなければならない。

「おはよう、ノア。あのさ……ごめんっ!」

「え?急にどうしたの?」

 夏輝のいきなりの謝罪にノアは訝し気な視線を送る。
 当然だ、何の説明もしていないのにいきなり謝罪されても訳が分からないだけだ。
 
「ああ、ごめん……!」

 やや口早に謝罪し、夏輝は改めてノアに説明を行う。

「実は、急に用事が出来ちゃって……GW中勉強会、やっぱりキャンセルにしてほしいんだ」

「それはいいけど、大分急だね。夏輝にしては珍しい」

 ノアは怒るでもなく素直に聞いてくれる。
 夏輝から勉強を頼んだのにも関わらずだ。

「ごめんよ……俺にもどうしようもなくて」

 まさかここまで急激に事態が変化するとは思っていなかった。
 
(ラテアへの告白も……落ち着いてからだな、うん)

 今はそれよりもしなければならないことがたくさんあるのだから。
 
「絶対この埋め合わせはするから……!」

「そうだなあ、今度カフェで何か奢ってもらおっかな」

 そう言ってノアはからからと笑う。
 これくらいで許してくれる幼馴染で本当によかった。

「そういえば、ラテア君は?」

「GW中は知り合いの家に泊まるって」

「ふぅん。フられたわけじゃないんだ」

 くすくす。
 ノアの言葉に一瞬ギョっとし、夏輝の顔が青くなる。
 それを見てノアは肩をすくめ、冗談だよとアピールをした。

「もももももも勿論だよ!って言うかまだ告白すらしてないからっ!?」

「告白する前に愛想尽かされたのかと」

「そそそそそんなことないからっ!」

 あまりにも動揺しすぎて引き攣った高い声が漏れ出る。
 
「そ、それよりさ!駅まで送るよ!ね!」

 ノアの背中を押し、家から押し出す。
 外は快晴。まだ朝でありながら、ほんの少しだけ暑さを感じる。
 
「駅まで送るだけなのに鞄持ってくの?」

「一応ね」

 カバンの中には短剣が入っている。
 万が一に備えて常に持ち歩くようにはしているのだ。
 勿論、使わないに越したことはないのだが。
 そのままノアと並び駅までの道を歩く。
 ノアの家は学校から少し遠い場所にあり、黒間市までは電車で通っている。
 元気な青少年らしく陽の日差しを避けることなく歩く。
 時折眩しい以外に害はない。

「ノア、俺さ」

「うん?」

「今度ね、ラテアに告白しようと思うんだ」

 幼馴染にぽろりと漏らす。

「その前に色々ちょっと……大変なことがあるから、それが全部解決したら」

「おお……」

 ノアは夏輝の呟きに目を満月みたいに真ん丸にした。
 しかし、すぐに真剣な顔つきになり、グっと拳を握り締める。

「いいじゃん!誰かを好きになるってすっごくいいことだと思うよ、僕!いやあ、夏輝がそんな風に青春ちゃんと出来そうで僕は嬉しいよ。安心したよ」

「そこまでぇ……?」

 歩き慣れた駅までの道。
 普段通りの日常だと夏輝は今の今まで思っていた。
 
「っ……!?」

 全身にぶわりと走る怖気。
 肌が粟立つこの感覚に、夏輝は覚えがあった。

(結界!?)

 夏輝は勿論張っていない。
 夏輝以外の何者かが結界を展開したのだ。
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