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EP3 復讐の黄金比4 秘されたモノ
血のつながり
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「レイ、大丈夫?」
レイの家までシイナはそのまま戻り、ようやく身体を離す。
シイナがレイの顔を覗き込むと、レイは未だ怒りに囚われ、けれどシイナに対して申し訳なさそうな顔をしていた。
「……大丈夫、じゃ、ないかも」
ぽつりと呟き、鍵を取り出し家の扉を開ける。
ここまで弱ったレイを見るのはシイナは初めてだった。
中に入ったレイに続き、シイナも中に入りドアを閉め、鍵も閉める。
時刻はは既にカラスがカァカァと鳴く夕暮れ時。
遠くでチャイムの鳴る音がする。
部屋に入るとレイはそのまま力尽きたようにボロいソファへとダイブする。
「一人に、なりたい?」
「……いや、いい。ここに居て」
「わかった」
伺うように、シイナがレイに声をかけた。
恐る恐る、また捨てられないか心配するかのように。
レイは言葉に力こそなかったが、それに対してははっきりと首を横に振った。
「モフらせて」
「ん」
少しだけソファに隙間を開けるレイ。
シイナはそこへ腰を掛け、尻尾をレイの上へと乗せる。
レイはシイナの尻尾を普段よりいくらか強めに抱きしめ、顔を埋める。
シイナはただ、レイの好きにさせていた。
「……俺の、母さんさ。俺が小さいころにおかしくなっちまったんだ」
「うん」
暫くして、レイがぽつぽつと言葉を口にし始める。
それをシイナはただ、相槌を打ちつつ聞く。
「淫魔ってさ、弱っちい種族なんだよ。エデンでは力とか才能が全て。力の強い種族、個体が権力を持つ。地球みたいに基本的人権なんてないんだ。淫魔なんてその最たる例だ。個体の強さは最弱クラス、フェロモンなんて他の種族を誘うだけ。だから、淫魔の里は強い魔族に管理されてる」
「淫魔はモノ扱いなんだ。で、俺はその淫魔の中でもさらに落ちこぼれでさ。父親は誰かわからない。多分客の誰か。だから淫魔とナニカのハーフ。物心ついたときには母さんの頭はおかしくなってた。でも、偶に正気に戻るんだ。母さんはいつもロセウス、ロセウス、無事なの?って心配してた」
「正気の時に教えてもらった。ロセウスは母さんの弟で、俺が生まれるよりもずっとずっと前に里からいなくなったんだって。里の人たちに聞いても誰もあいつについて教えてくれなかった。ただ、皆目を反らすだけ。そもそもハーフの俺とまともに取り合ってくれる奴なんていなかったけど。フェロモンが俺は生まれつき殆ど出ないんだ。仕事ができないからさ、本当に使えない子供だったんだよな。母さんも狂っていて客を取れないから、俺たちはごくつぶし親子だったってわけ」
「地獄みたいな場所だった。母さんは俺を見ない、名前だって数えるほどしか呼んでくれてない。ロセウス、ロセウス、ロセウスってずっとそればっかり。だから、ずっと嫌いだったんだ。俺じゃなくてあの人の名前しか呼ばないから」
「でも、客が言ってるのを聞いたんだ。エデン人を地球人が拉致してるって。あの人はもしかしたら、地球に拉致されてしまったんじゃないかって。地球に連れていかれたエデン人はこの里の淫魔たちなんて比じゃないくらいに酷い、残酷な目に逢うんだって、そう話してた」
「俺は自分を恥じた。あの人は無理やり拉致されて、死んだほうがましな目に遭わされているのかもしれない。母さんが狂うのも仕方ない。大切な弟の事を想えば胸が張り裂けそうになるのだって当たり前だ。それと同時に、あの人をこちらに連れて帰ることが出来れば母さんは元に戻るかもしれないって、そう考えたんだ」
「それでさ、エデンから地球に侵攻する計画がもちあがって。その為の偵察とか、調査とかの為にスパイが募集されたんだ。淫魔はフェロモンで誘惑することが出来るから、スパイの適性があった。だから、俺はハーフだって偽って立候補したんだ。里の誰も当然スパイになんてなりたくないから、すんなり決まった」
「護身用のゴーレムを渡されて、不安定なゲートを通ってここまで来た。……スパイは建前で、あの人を探すために」
長い時間をかけて、絞り出すようにレイは語る。
シイナはただ、ぽん、ぽん、と尻尾であやすようにレイを撫でる。
「そしたらさ、あの人は自分の意思でこっちに来たって。母さんを捨てて、地球でのうのうと幸せに暮らしてたんだ……!許せない、許せないよ……母さんは何のために狂ったの?あんな、家族を見捨てて逃げ出すような奴の為?わかるよ、淫魔の里は地獄だ。俺だって嫌いだ。でも、でも……自分一人で逃げて、母さんの事なんて知らない、もう自分には関係ないって……あんまりだ」
段々と鼻声になっていく。
堪えきれず、涙の膜がすみれ色の瞳を覆う。
とうとう決壊し、伝い落ちる涙。
ずっとずっと、幼いころから抱え込んできた想いと胸を突き上げる激情がないまぜになり、消化不良を起こす。
「……レイは、ロセウスを殺したい?」
「殺したい。あいつだけは、絶対に……絶対に許せない。殺さなきゃ、母さんが報われない……っ」
シイナが静かに問う。
レイは低い、唸るような声で答える。
シイナは復讐だとか、憎しみだとか、それを昇華する方法を知らない。
ただ、ラテアに対する様々な負の感情をレイは寄り添う事で消し去ってくれた。
そのことしか、方法しか、シイナは知らない。
だから、シイナはレイにしてもらったことと同じことをレイにしようと決意した。
「うん、うん。手伝う。俺、レイの事好きだから、手伝うよ。ずっと辛かった、苦しかったのわかる。俺はまだ、生まれて少ししか経ってないけど」
「お前まで、巻き込む……のは」
吐露することで少しだけ冷静になったレイは、シイナに対しての罪悪感に言葉を濁す。
「いいの。レイは俺に居場所をくれた。それに、俺も、ラテアの代わりになれなかった落ちこぼれだから、レイの気持ち、わかる」
「……うん」
シイナの優しさに、レイは確かに救われていた。
「エデン人には、相性とは別に本当の名前があるんだ。家族とか、親友とか、恋人とか、そういう人にしか教えない名前」
「俺の本当の名前はな、グレイアって言うんだ」
「シイナ、お前には教えておく。……ありがとな」
シイナの尻尾が左右に大きく揺れる。
ぱた、ぱた、ぱた、と。
そしてレイに抱き着き、ぎゅっと強く抱きしめる。
レイはそんなシイナを抱き留め、頭を撫でてやる。
「それと、一つ思いついたんだ。あいつを殺す方法を」
レイの家までシイナはそのまま戻り、ようやく身体を離す。
シイナがレイの顔を覗き込むと、レイは未だ怒りに囚われ、けれどシイナに対して申し訳なさそうな顔をしていた。
「……大丈夫、じゃ、ないかも」
ぽつりと呟き、鍵を取り出し家の扉を開ける。
ここまで弱ったレイを見るのはシイナは初めてだった。
中に入ったレイに続き、シイナも中に入りドアを閉め、鍵も閉める。
時刻はは既にカラスがカァカァと鳴く夕暮れ時。
遠くでチャイムの鳴る音がする。
部屋に入るとレイはそのまま力尽きたようにボロいソファへとダイブする。
「一人に、なりたい?」
「……いや、いい。ここに居て」
「わかった」
伺うように、シイナがレイに声をかけた。
恐る恐る、また捨てられないか心配するかのように。
レイは言葉に力こそなかったが、それに対してははっきりと首を横に振った。
「モフらせて」
「ん」
少しだけソファに隙間を開けるレイ。
シイナはそこへ腰を掛け、尻尾をレイの上へと乗せる。
レイはシイナの尻尾を普段よりいくらか強めに抱きしめ、顔を埋める。
シイナはただ、レイの好きにさせていた。
「……俺の、母さんさ。俺が小さいころにおかしくなっちまったんだ」
「うん」
暫くして、レイがぽつぽつと言葉を口にし始める。
それをシイナはただ、相槌を打ちつつ聞く。
「淫魔ってさ、弱っちい種族なんだよ。エデンでは力とか才能が全て。力の強い種族、個体が権力を持つ。地球みたいに基本的人権なんてないんだ。淫魔なんてその最たる例だ。個体の強さは最弱クラス、フェロモンなんて他の種族を誘うだけ。だから、淫魔の里は強い魔族に管理されてる」
「淫魔はモノ扱いなんだ。で、俺はその淫魔の中でもさらに落ちこぼれでさ。父親は誰かわからない。多分客の誰か。だから淫魔とナニカのハーフ。物心ついたときには母さんの頭はおかしくなってた。でも、偶に正気に戻るんだ。母さんはいつもロセウス、ロセウス、無事なの?って心配してた」
「正気の時に教えてもらった。ロセウスは母さんの弟で、俺が生まれるよりもずっとずっと前に里からいなくなったんだって。里の人たちに聞いても誰もあいつについて教えてくれなかった。ただ、皆目を反らすだけ。そもそもハーフの俺とまともに取り合ってくれる奴なんていなかったけど。フェロモンが俺は生まれつき殆ど出ないんだ。仕事ができないからさ、本当に使えない子供だったんだよな。母さんも狂っていて客を取れないから、俺たちはごくつぶし親子だったってわけ」
「地獄みたいな場所だった。母さんは俺を見ない、名前だって数えるほどしか呼んでくれてない。ロセウス、ロセウス、ロセウスってずっとそればっかり。だから、ずっと嫌いだったんだ。俺じゃなくてあの人の名前しか呼ばないから」
「でも、客が言ってるのを聞いたんだ。エデン人を地球人が拉致してるって。あの人はもしかしたら、地球に拉致されてしまったんじゃないかって。地球に連れていかれたエデン人はこの里の淫魔たちなんて比じゃないくらいに酷い、残酷な目に逢うんだって、そう話してた」
「俺は自分を恥じた。あの人は無理やり拉致されて、死んだほうがましな目に遭わされているのかもしれない。母さんが狂うのも仕方ない。大切な弟の事を想えば胸が張り裂けそうになるのだって当たり前だ。それと同時に、あの人をこちらに連れて帰ることが出来れば母さんは元に戻るかもしれないって、そう考えたんだ」
「それでさ、エデンから地球に侵攻する計画がもちあがって。その為の偵察とか、調査とかの為にスパイが募集されたんだ。淫魔はフェロモンで誘惑することが出来るから、スパイの適性があった。だから、俺はハーフだって偽って立候補したんだ。里の誰も当然スパイになんてなりたくないから、すんなり決まった」
「護身用のゴーレムを渡されて、不安定なゲートを通ってここまで来た。……スパイは建前で、あの人を探すために」
長い時間をかけて、絞り出すようにレイは語る。
シイナはただ、ぽん、ぽん、と尻尾であやすようにレイを撫でる。
「そしたらさ、あの人は自分の意思でこっちに来たって。母さんを捨てて、地球でのうのうと幸せに暮らしてたんだ……!許せない、許せないよ……母さんは何のために狂ったの?あんな、家族を見捨てて逃げ出すような奴の為?わかるよ、淫魔の里は地獄だ。俺だって嫌いだ。でも、でも……自分一人で逃げて、母さんの事なんて知らない、もう自分には関係ないって……あんまりだ」
段々と鼻声になっていく。
堪えきれず、涙の膜がすみれ色の瞳を覆う。
とうとう決壊し、伝い落ちる涙。
ずっとずっと、幼いころから抱え込んできた想いと胸を突き上げる激情がないまぜになり、消化不良を起こす。
「……レイは、ロセウスを殺したい?」
「殺したい。あいつだけは、絶対に……絶対に許せない。殺さなきゃ、母さんが報われない……っ」
シイナが静かに問う。
レイは低い、唸るような声で答える。
シイナは復讐だとか、憎しみだとか、それを昇華する方法を知らない。
ただ、ラテアに対する様々な負の感情をレイは寄り添う事で消し去ってくれた。
そのことしか、方法しか、シイナは知らない。
だから、シイナはレイにしてもらったことと同じことをレイにしようと決意した。
「うん、うん。手伝う。俺、レイの事好きだから、手伝うよ。ずっと辛かった、苦しかったのわかる。俺はまだ、生まれて少ししか経ってないけど」
「お前まで、巻き込む……のは」
吐露することで少しだけ冷静になったレイは、シイナに対しての罪悪感に言葉を濁す。
「いいの。レイは俺に居場所をくれた。それに、俺も、ラテアの代わりになれなかった落ちこぼれだから、レイの気持ち、わかる」
「……うん」
シイナの優しさに、レイは確かに救われていた。
「エデン人には、相性とは別に本当の名前があるんだ。家族とか、親友とか、恋人とか、そういう人にしか教えない名前」
「俺の本当の名前はな、グレイアって言うんだ」
「シイナ、お前には教えておく。……ありがとな」
シイナの尻尾が左右に大きく揺れる。
ぱた、ぱた、ぱた、と。
そしてレイに抱き着き、ぎゅっと強く抱きしめる。
レイはそんなシイナを抱き留め、頭を撫でてやる。
「それと、一つ思いついたんだ。あいつを殺す方法を」
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