青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比4 秘されたモノ

愛に狂うもの

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「依頼を受けてるのにあいつらに味方するとかありえねえよ、邪魔するんじゃねえよっ!」

 額に青筋が浮かび、血走る目。
 シイナはレイを止めたかったが、止める術を持たなかった。
 エヴァンはと言え特に動じた様子はない。
 ただ一つわかるのは彼が絶対にシイナ達をロセとやらの元へ行かせないという覚悟だった。
 ヴェルデは手を貸すでもなく、ただマナを渡しそっぽを向いてふてくされていた。

「あっちの狐のガキは好きにしろ、でもロセは傷つけさせねえっ!そもそも殺す気満々だろうがっ!」

 多勢に無勢、ゴーレム三体とシイナを相手にエヴァンは一歩も引かない。
 手には銃が握られているが、発射される気配はなく、魔法は直接詠唱され具現化している。
 
「煌めき 反射せよ 光の鏡(コルシェント リフレクト スペクルムルシス)」

 飾り気のない詠唱。
 エヴァンが言いきると同時にイオが溢れ、レイとシイナを囲むように多数の光で出来た浮遊する鏡が出現する。

「光魔法使いか、面倒くせえなっ!」

 レイが吠えるように吐き捨てる。

「灯せ光の刃、煌めき惑わせ光の幻影」

 エヴァンが鏡の影に隠れるように走り込む。
 それと同時に詠唱を開始、短剣は光のエンチャント魔法によって長剣へと変貌。
 さらに鏡に光が乱反射し多数のエヴァンの幻影が現れる。
 普段のレイならば即座にシイナに指示を出せたかもしれない。
 しかし、今のレイにまともな判断能力は残されていなかった。

「ガキだな」

 エヴァンが呟く。
 鏡を放置し、ゴーレムはエヴァン達に向かって腕を叩き下ろす。
 しかし、その大ぶりな攻撃と幻惑によって対象をうまく取れない。
 エヴァンは身体強化魔法の適性がない。
 光魔法に特化した羊飼いだった。
 
「がるるるるるっ!」

「……お前は幻影が効かないのか、厄介だな」

 しかし、シイナは幻影に惑わされない。
 何故なら鼻を犬のものに変化させ、匂いでエヴァンの本体を感知しているからだ。

「それかっ!」

 シイナのおかげでレイも本体を察知する。
 思わずエヴァンは舌打ち。
 身体強化が使えない以上、幻惑など小手先の技を交える必要がある。
 近接戦はどうにも相性の悪い相手だ。

「がうっ」

 ゴーレムの薙ぎ払いとシイナのゴリラの腕がエヴァンに迫る。
 
「っぐ、ぅ」

 後方にステップで回避するも、完全には避けきれず左足を強かに打ち付ける。
 ぼきりと嫌な音がして、再び舌打ち。

「流石に舐めすぎてたか」

 しかし、一方的にやられるわけもなく、攻撃を受けつつも一本ゴーレムの腕を切り落とす。
 機械人形は痛みなど感じない。
 片腕だろうと動く限り永遠にエヴァンを執拗に狙い続ける。
 
(一発なら許容範囲か)

 短剣を投げ捨て、銃を両手で持つ。
 六発装填可能なリボルバー型の杖。
 銃を使わず短剣を使っていた理由はこの銃型の杖を使うのに制限があるからだった。
 
「手伝い、必要っスか?」

「いらねえ、マナだけ寄越せ」

「うぅ、猟犬遣いの荒い人っス、ローズさんも可哀そうに」

 ヴェルデがにたにたと笑いながらエヴァンに声をかけるが、にべもなく断られる。
 全く情も何もない言葉にうなだれるヴェルデ。
 そんな彼からエヴァンはたっぷりとマナを吸い上げる。

(ローズのもんよりは劣るがまあいい)

 ヴェルデは土のマナ、ローズはエヴァンと同じ光のマナを持つ。
 故に相性はローズの方がずっといい。
 とはいえこの場を蹴散らす程度ならば問題ないと判断、自らの血と練り弾丸に莫大なイオを宿す。
 
「まず、い!」

 強いイオの反応にシイナが全身の毛を逆立てる。
 即座にエヴァンへの攻撃を止め、レイの元へと走る。
 エヴァンの銃口はゴーレムを通しレイへと向いていたからだ。

「ロセの敵は死ね」

「ッ……!?」

 レイは反応できず、目を見開く。
 淫魔故にエデン人でありながら身体能力は並程度しかない。
 そこにさらに怒りで思考が塗りつぶされていれば対応できないのは必然だった。
 刹那、銃口から極太のレーザーが射出される。
 このままではレイは跡形もなく塵となって消えるだろう。

「レイっ!」

 しかし、シイナがギリギリ発射されるよりも前にレイの元へたどり着き、抱き上げ空へと飛びあがりゴーレムから全速力で離れる。

「シイナ……」

「レイ、大丈夫?俺、守るから……でも、こいつはロセじゃない、だから今は逃げよう?」

「……わかった。ごめん」

 腕の中でレイは小さく息をつき、謝罪した。

「逃げたか」

 一方のエヴァンの前には巨大なゴーレムだったものの残骸が転がっている。
 残りの小型のゴーレム二体は逃げていったらしい。
 
「残り五発。一発程度ならすぐ回復するから問題はないな」

「エヴァン先輩のそれ、強いけど使いにくいっすよね。六発しか装填出来ないのに珠の補充は十二時間に一発だけなんて」

 ヴェルデはゴーレムの残骸に近づき、つま先でつつく。
 もはや動かず、ただの鉄くずでしかない。
 周囲の家々などの構造物、道路やガードレールはものの見事に破壊されていた。

「随分と派手にやったなあ、お前ら。お前らっつうかエヴァンか」

 かつかつとブーツの音を響かせながら、割れたコンクリートを踏みしめやってくる大男。
 ベルナルドだった。
 ベルナルドは目を細め、暴れまわった惨状を見つめている。
 
「随分な重役出勤だな、おっさん」

「こっちもこっちで嗅ぎまわってる卑怯なハイエナどもを止めてたんだよ。仕事をしていなかったわけじゃない」

 ごきごきと音を立て肩を回しながらベルナルドはエヴァン達の元まで歩み寄った。

「あの日本人どもか」

 エヴァンの言葉にベルナルドが頷く。
 ベルナルドが言っているのは恐らく冬真と夜一の事だろう。
 
「酒場にあほどもをけしかけたのもあいつらだ。全く小賢しい連中だ。正々堂々やり合ったほうがスッキリするのによぉ」

 がりがりと頭を掻きながらベルナルドはへらへらと笑う。

「ベルナルドさぁん!聞いてくださいっスよ!」

「うん?どうした?」

 ヴェルデがそこでベルナルドに泣きつく。
 ぱたぱたと走り寄り、エヴァンがした凶行の数々を一つ残らず密告……否、堂々と報告した。
 先程までへらへらと笑っていたベルナルドの目が剣呑さを帯びる。

「ははは、お前は相変わらずだな。だがお前は傭兵だ。依頼を受けた以上はそれを完遂する義務がある。それが傭兵の掟だ。わかってるな?」

「……それに関しては悪かった。ヴェルデの攻撃はロセが危ないと思ってうっかり手が出た。完遂するのはわかってる。これ以上は私情は持ち込まねえ。……ただ、ロセを殺すことだけは認められない」

 ワンオクターブ低い、聞いているものの心臓をわしづかみにするようなベルナルドの威圧に満ちた言葉。
 それをエヴァンは全く臆することなくはっきりと態度に示した。

「若いねえ……まあ、わかってるならいいさ。ヴェルデ、お前もそれでいいか?」

「仕方ないっスね……後でご飯か何か奢ってくださいよ。っくし!」

 ベルナルドは懐から煙草を取り出し、火をつける。
 たっぷりと煙を吸い込み、吐き出すとヴェルデがくしゃみを連発した。
 
 


 



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