青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比3 すれ違いと思春期

ロードムービー

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「ねえレイ、ラテアの居場所は大体わかってるんだし襲わなくていいの?」

「いいんだよ。偵察用のゴーレムはカフェを張らせてるから。あのカフェを張らせておけば大体の情報は手に入るはずだし。あの目が血走ってる傭兵たちが争い合って数を減らしてくれるもよし、ラテアを捕まえたところを横取りするもよし。そっちの方がどう考えてもこっちの被害が少ないし合理的じゃん」

 夕暮れ時のアーケード街。
 GW中ということもあり親子連れやカップル、学生たちでごった返している。
 物珍しそうに、あるいは少し恐る恐ると言った様子でシイナはレイについてくる。
 傍から見れば、レイとシイナは年頃の少年で遊び友達としか映らないだろう。

「じゃあ、今日は何をするの?」

「うーん、そうだなあ」

 一日中偵察用ゴーレムと睨めっこしていても気が滅入るだけ。
 それならもっと別の事に時間を割くべきだ。
 自分たち二人で乗り込んだところでどうにかなる問題ではないことはイースターの一件の時に身が染みている。

「映画館でも行くか」

「映画館?」

 シイナは可愛らしく首を傾げる。
 服はレイが選んでやったものだ。
 というのもシイナはセンスが良く言えば奇抜なのだ。

「そ。テレビの延長上みたいなもん。大画面で、音もいい映像を見るんだ。ま、百聞は一見にしかずってね。あ、でもお前狐だろ?大きな音って平気か?」

「大丈夫。調整可能」

「便利だなあ……」

 何事も経験である。
 流石に狐の優秀な耳を爆音で鼓膜ごと木っ端微塵にするのは避けたいと、レイはシイナに説明を試みる。
 と言ってもレイ自身実は映画館なんて行ったことがなかった。
 アーケード街には情報収集に何度も足を運んでいた。
 目的が目的だけにほとんどの店の中に入ったことはない。

(レストラン、女子ウケしそうな夢カワ雑貨。文房具屋に、本屋。服屋、食料品店とにかく何でもあるんだよな。後はゲーセンとか、映画館とか、ボーリング場とか。普段ならこんな日に絶対来ねえけど、シイナが楽しそうだからいっか)

 隣を歩くシイナは楽し気で、時折こちらをちらちらと見てくるのがいじらしい。

「ちなみに映画館は俺も初めてだ」

「おお、一緒。お揃い、嬉しい」

 耳と尾っぽを出していたなら、間違いなくぱたぱたと可愛らしく左右に振られていただろう。
 シイナはちょっとしたことでも喜んでくれる。
 地球人もエデン人も皆シイナのようだったらきっともう少しばかり優しい世界だったかもしれない。

「気になるやつあるか?」

 映画館の入り口。年季が入った建物は古臭く、GW中でも人の出入りはまばらだ。
 入口のガラスケースの中に張り出されたポスターを示す。
 新しい映画もあるが、中にはかなり古そうな所謂レトロ映画もある。

「んと……えと……」

 シイナはしきりにポスターを見比べている。
 少し笑ってから、声をかける。

「急いで決めなくても時間ならあるし、時間潰せる施設ならいくらでもあるから気にしなくていいぜ」

「ん、ありがと」

 レイの口から発されたのは存外優しく、穏やかな声音。
 悩んだ末にシイナが選んだのは子供向けの家族映画だった。
 母親が病気で倒れ、姉が妹の母親代わりになり奮闘するという映画。
 姉は妹の世話をするのが当たり前とされるのに嫌気がさし家出をするが、妹が一人で追いかける。
 妹は姉が大好きだったし、姉も心の底では妹の事を愛していた。
 追いついたはいいものの、へんてこな世界に二人して迷い込む。
 様々な困難を経て仲直りし、なんとか家に帰ることが出来るというロードムービーだ。
 最終的には母親の病気も治り、ハッピーエンド。
 
(子供向けだなあ……現実はんなうまくいかねえし。まあ娯楽の中でくらいハッピーエンドを見たいもんか)

 なんてレイはコーラを飲みつつ思っていたが、隣のシイナはそうではないようだ。
 ハラハラと時折身体を動かしじぃっと画面に集中するシイナ。
 そんな彼を見ている方がレイにとっては余程面白かった。

「面白かった?」

「面白かった!」

 シイナの声はそれはそれは弾んでいる。
 周囲の客はエンドロールが終わるまで待たず、殆どがさっさと出て行ってしまった。
 シイナは幕が完全に閉じきるまで動こうとしなかった。

(よっぽど楽しかったんだなあ。連れてきてよかった)

「夕飯何食べたい?」

「ハンバーグ!」

 子供の好むものをシイナは大体好む。 
 サラダなんかもちゃんと買って帰ろう。
 レイはそう心の中で決める。

「買って帰るかー」

 残念ながら自炊などしないので買って帰る以外の選択肢は特にない。
 歩き慣れた帰路につこうとしたところで背後から声をかけられる。

「お前、レイか?」

「ん?」

 やや低めのハスキーな女の声。
 聞き覚えのある声に後ろを振り返るとそこには背の高い黒い短髪の女がいた。
 全身黒づくめ、女らしさは殆どない。何より目を引くのは角と背中の翼だった。
 
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