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EP3 復讐の黄金比2 ラテア包囲網
かみ合わない男たち
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「おいおいおいおいおい、吸血鬼が出てくるなんて聞いてないんだが?」
勅使河原の用意したセーフハウス。
一種の宿泊施設のようなその場所にイギリスからやってきた傭兵たちはいた。
他の傭兵たちはで払っており、戻ってきた冬真と夜一も含め六人しかいない。
施設に戻るなりため息をつき、ソファにどっかりと大きな音を立てて冬真が座る。
夜一はふらふらと歩き回り、何を考えているのかわからない。
「ははは、どうした若造。返り討ちにされたか?その割には元気だな」
「うるせえおっさん。返り討ちにされる前に帰ってきたわ!」
既に広間にはベルナルドとエヴァン、そして人形のように美しい少女が一人いた。
首には薔薇のコサージュのついたリボン。
服はロリータというほどではないが、フリルがふんだんにあしらわれており可愛らしい。
解けば長いだろう深い青色の髪はツインテール状に結ばれている。
爪にはキラキラのネイル。
凡そこの場には似つかわしくない、そう思えるような少女だ。
何よりその瞳孔は星型に輝いていた。
「天使か?いや、そういう意味ではなく」
「お、よくわかったな坊主」
少女は冬真をちら、と見る。
その目は鋭く怜悧だった。
一方のベルナルドは楽し気に大きな声で豪快に笑っている。
「まあ、一応そこそこ羊飼い歴は長いもんで。おっさんの猟犬なのか?」
「いや?俺のじゃないぜ。エヴァンのパートナーだ。ほら、エヴァン。パートナーの事は同業者に紹介しとけ」
争う仲とは言え、互いに直接殺し合うわけではない。
世間話程度のコミュニケーションはしておくべきだと傭兵歴の長いものは考える。
「そっちの似非神父のか」
「はぁ……そうだ」
椅子に座り本を読んでいたエヴァンがここでようやく他のメンツに目を向けた。
そこには一切興味がありませんと、どうでもよさそうな表情が張り付いている。
「エヴァン先輩、なんかこの茶髪、めちゃくちゃ疲れて見えるッスね」
「よく言われる。そんなに疲れて見えるか?」
ヴェルデの言葉に冬真は眉根を潜める。
「そりゃ、まあ。歳の割に疲れてそうって思うッス。ぶっちゃけ辛気臭いッス。おっさんのがよっぽど元気そうなんだけど」
「俺は毎日ちゃあんと鍛えてるからな」
ベルナルドが腕まくりをし、筋骨隆々の上腕二頭筋を見せつけてくる。
元気なおっさんだった。
「ああああああああああああああ」
ヴェルデの言葉に冬真が奇声を上げる。
「やっぱり羊飼いって変人しかいないのね。エヴァン、さっさと紹介して頂戴よ。全く、可愛い女子もいないからなーんにも楽しくないじゃない、ここ。あとうるっさいわよヴェルデ」
男たちがあほなことをしていると、突然少女がぴしゃりと言い放った。
青いツインテールを揺らし、冷ややかな目で男どもを射抜いている。
「ご、ごめんっス姉御ぉ……。いきなり奇声を上げる変人がいたから驚いたんスよ!日本人ってやっぱりクレイジーッス!」
「うるせえ!イギリス人にはこの日本の羊飼いの苦しみなんざわかんねえよ!あっちは御絡流の会の締め付けもそんなにねえだろ。まあそれはどうでもいいとして、紹介の続き」
冬真が発狂しているのか真っ当なのかイマイチわからないような状態で先を促す。
懐から煙草とライターを取り出す。
いかにも安っぽい銘柄だ。
「煙草吸っても?」
「別に構わないわよ。何時もベルナルドが吸っているもの」
「ありがとさん」
一応ローズに確認を取ると、彼女は意外にも許してくれた。
ヴェルデが糞程嫌そうな顔をしていたが無視する。
火をつけ、ゆったりと吸い込む。
このマズさが癖になる。
「彼女はローズ。天族。他に何か紹介することあるのか?」
ぶっきらぼうなエヴァンの言葉にローズは深いため息をつく。
「はあ……相変わらずね、エヴァン。興味がなさすぎるでしょう。私はローズ。好きなものは可愛い女の子、そして恋バナとか?これで紹介は十分でしょう」
ローズもローズでキツい口調。柔らかさはほぼない。
とはいえ天使なんてそんなもんだと冬真は割り切る。
(まあ、天族なんてほとんど見たことねえけど!)
魔族はとにかく種族が多岐にわたるが、天族は少数精鋭というのが冬真の認識だ。
無機質で徹底的な上下社会。
階級別に分かれており、上の命令は絶対。
故に殆ど猟犬としては見ることがない種族だ。
「で、紹介も終わったことだし。お前たちが仕掛けてすごすごと帰ってきたんだ、次は俺達の順番ってことでいいか?」
「おっさん、いつからこのゲームはターン制になったんだ?RPGじゃあるまいし」
煙草を吸って一息ついていると、ベルナルドが部屋に響く大きく通る声を上げた。
冬真はやや忌々し気に、あるいは面倒くさそうにベルナルドに視線を向ける。
ふらふらとしていた夜一も戻ってきた。
「って言ってもお前さんたちも戦う前に戻ってきたわけだ。真正面からあの吸血鬼に立ち向かうつもりはないんだろう?だったらおっさんたちにちょいと任せておけって」
ベルナルドが豪快に笑う。
(まあ、確かに。夜一はともかく俺にその気は全くない。真正面からぶつかるよりも漁夫の利を狙ったほうがよっぽど楽だし手間がない)
煙草の煙をくゆらせながら、冬真は黙り込み思考を巡らせる。
触り心地のいいカーペット、高級ソファ。
セーフハウスの家具はどれも高級品だ。
勅使河原の権力を誇示するためだけの道具なのだろう。
宿泊施設もなかなかに広く、すし詰めになるようなことはない。
(あー、急に休みたくなってきた。働きたくねえなあ。美味しいところだけもらっちゃお、というわけでまあいいか!)
夜一は冬真が乗り気でないことに気づいたのだろう。
今度はキッチンの方へとふらふら歩いていく。
「ま、お手並み拝見と行くか。こっちもただ手をこまねいてるだけじゃあないけどな」
冬真の言葉と同時にがしゃんと大きな音がキッチンの方からし、全員が何事だとそちらに足を踏み入れる。
キッチンの中には皿を盛大に落として割った夜一がいた。
それも一枚ではない。棚の中にあったもの全部だ。
「あのね、サンドイッチ作ろうと思って皿を取り出そうとしたら割っちゃった」
「それでどうやったら全部の皿を割るのよ……」
ローズの呟きにその場の全員が同意した。
勅使河原の用意したセーフハウス。
一種の宿泊施設のようなその場所にイギリスからやってきた傭兵たちはいた。
他の傭兵たちはで払っており、戻ってきた冬真と夜一も含め六人しかいない。
施設に戻るなりため息をつき、ソファにどっかりと大きな音を立てて冬真が座る。
夜一はふらふらと歩き回り、何を考えているのかわからない。
「ははは、どうした若造。返り討ちにされたか?その割には元気だな」
「うるせえおっさん。返り討ちにされる前に帰ってきたわ!」
既に広間にはベルナルドとエヴァン、そして人形のように美しい少女が一人いた。
首には薔薇のコサージュのついたリボン。
服はロリータというほどではないが、フリルがふんだんにあしらわれており可愛らしい。
解けば長いだろう深い青色の髪はツインテール状に結ばれている。
爪にはキラキラのネイル。
凡そこの場には似つかわしくない、そう思えるような少女だ。
何よりその瞳孔は星型に輝いていた。
「天使か?いや、そういう意味ではなく」
「お、よくわかったな坊主」
少女は冬真をちら、と見る。
その目は鋭く怜悧だった。
一方のベルナルドは楽し気に大きな声で豪快に笑っている。
「まあ、一応そこそこ羊飼い歴は長いもんで。おっさんの猟犬なのか?」
「いや?俺のじゃないぜ。エヴァンのパートナーだ。ほら、エヴァン。パートナーの事は同業者に紹介しとけ」
争う仲とは言え、互いに直接殺し合うわけではない。
世間話程度のコミュニケーションはしておくべきだと傭兵歴の長いものは考える。
「そっちの似非神父のか」
「はぁ……そうだ」
椅子に座り本を読んでいたエヴァンがここでようやく他のメンツに目を向けた。
そこには一切興味がありませんと、どうでもよさそうな表情が張り付いている。
「エヴァン先輩、なんかこの茶髪、めちゃくちゃ疲れて見えるッスね」
「よく言われる。そんなに疲れて見えるか?」
ヴェルデの言葉に冬真は眉根を潜める。
「そりゃ、まあ。歳の割に疲れてそうって思うッス。ぶっちゃけ辛気臭いッス。おっさんのがよっぽど元気そうなんだけど」
「俺は毎日ちゃあんと鍛えてるからな」
ベルナルドが腕まくりをし、筋骨隆々の上腕二頭筋を見せつけてくる。
元気なおっさんだった。
「ああああああああああああああ」
ヴェルデの言葉に冬真が奇声を上げる。
「やっぱり羊飼いって変人しかいないのね。エヴァン、さっさと紹介して頂戴よ。全く、可愛い女子もいないからなーんにも楽しくないじゃない、ここ。あとうるっさいわよヴェルデ」
男たちがあほなことをしていると、突然少女がぴしゃりと言い放った。
青いツインテールを揺らし、冷ややかな目で男どもを射抜いている。
「ご、ごめんっス姉御ぉ……。いきなり奇声を上げる変人がいたから驚いたんスよ!日本人ってやっぱりクレイジーッス!」
「うるせえ!イギリス人にはこの日本の羊飼いの苦しみなんざわかんねえよ!あっちは御絡流の会の締め付けもそんなにねえだろ。まあそれはどうでもいいとして、紹介の続き」
冬真が発狂しているのか真っ当なのかイマイチわからないような状態で先を促す。
懐から煙草とライターを取り出す。
いかにも安っぽい銘柄だ。
「煙草吸っても?」
「別に構わないわよ。何時もベルナルドが吸っているもの」
「ありがとさん」
一応ローズに確認を取ると、彼女は意外にも許してくれた。
ヴェルデが糞程嫌そうな顔をしていたが無視する。
火をつけ、ゆったりと吸い込む。
このマズさが癖になる。
「彼女はローズ。天族。他に何か紹介することあるのか?」
ぶっきらぼうなエヴァンの言葉にローズは深いため息をつく。
「はあ……相変わらずね、エヴァン。興味がなさすぎるでしょう。私はローズ。好きなものは可愛い女の子、そして恋バナとか?これで紹介は十分でしょう」
ローズもローズでキツい口調。柔らかさはほぼない。
とはいえ天使なんてそんなもんだと冬真は割り切る。
(まあ、天族なんてほとんど見たことねえけど!)
魔族はとにかく種族が多岐にわたるが、天族は少数精鋭というのが冬真の認識だ。
無機質で徹底的な上下社会。
階級別に分かれており、上の命令は絶対。
故に殆ど猟犬としては見ることがない種族だ。
「で、紹介も終わったことだし。お前たちが仕掛けてすごすごと帰ってきたんだ、次は俺達の順番ってことでいいか?」
「おっさん、いつからこのゲームはターン制になったんだ?RPGじゃあるまいし」
煙草を吸って一息ついていると、ベルナルドが部屋に響く大きく通る声を上げた。
冬真はやや忌々し気に、あるいは面倒くさそうにベルナルドに視線を向ける。
ふらふらとしていた夜一も戻ってきた。
「って言ってもお前さんたちも戦う前に戻ってきたわけだ。真正面からあの吸血鬼に立ち向かうつもりはないんだろう?だったらおっさんたちにちょいと任せておけって」
ベルナルドが豪快に笑う。
(まあ、確かに。夜一はともかく俺にその気は全くない。真正面からぶつかるよりも漁夫の利を狙ったほうがよっぽど楽だし手間がない)
煙草の煙をくゆらせながら、冬真は黙り込み思考を巡らせる。
触り心地のいいカーペット、高級ソファ。
セーフハウスの家具はどれも高級品だ。
勅使河原の権力を誇示するためだけの道具なのだろう。
宿泊施設もなかなかに広く、すし詰めになるようなことはない。
(あー、急に休みたくなってきた。働きたくねえなあ。美味しいところだけもらっちゃお、というわけでまあいいか!)
夜一は冬真が乗り気でないことに気づいたのだろう。
今度はキッチンの方へとふらふら歩いていく。
「ま、お手並み拝見と行くか。こっちもただ手をこまねいてるだけじゃあないけどな」
冬真の言葉と同時にがしゃんと大きな音がキッチンの方からし、全員が何事だとそちらに足を踏み入れる。
キッチンの中には皿を盛大に落として割った夜一がいた。
それも一枚ではない。棚の中にあったもの全部だ。
「あのね、サンドイッチ作ろうと思って皿を取り出そうとしたら割っちゃった」
「それでどうやったら全部の皿を割るのよ……」
ローズの呟きにその場の全員が同意した。
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