青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比1 黄金週間の憂鬱

おいでませ黄金週間(ゴールデンウィーク)

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 地球にもエデンにも祝日というものは存在する。
 ゴールデンウィーク。それは四月末から五月の初めにかけて祝日が連なる、大体の地球人は大好きな期間である。
 かくいう俺も、ちょっと楽しみにしていたりする。

「ふん、ふふん、ふふふん」

「ラテア今日はご機嫌だね?何かイイコトあったの?」

「おうロセ、明日からゴールデンウィークなんだぜ」

 俺とトツカはいつも通り夕方までカフェで手伝いをしている。今日は暇なのか、アレウとロセがカフェで寛いでいる。
 今はちょうど夕方少し前位で、奥様方は子供たちを迎えに行ったり、習い事に連れて行ったりと店には二人以外の客はいなかった。

「夏輝が暫く学校休みなんだぜ」

 トレイにティーセットを載せて鼻歌交じりに二人の席へと向かう。
 このカフェで一番お高い紅茶、高級茶葉のロイヤルなんたらってやつ。
 二人はいつも大体これと本日のおすすめのケーキを頼んでいる。

「ああ、なるほどな。夏輝と一緒に過ごせると。ラテアは寂しかったんだなあ」

「べ、別に寂しくないし……!」

 アレウの言葉に俺は即座に反論する。
 そう、寂しくない。
 ぜんっぜん寂しくない。
 ……反論するのはちょっと恥ずかしいからだ。本当は寂しかった。

「ラテアは寂しかったのか」

「そういうところだけ聞いてなくていいから!トツカはっ!」

 エプロンを付けたトツカが聞きつけたのかやってくる。
 イースター以来、トツカは八潮から料理を習っている。
 俺?俺も店が暇な時間帯は一緒に習ったりしてるぜ。
 忙しい時間帯は俺が給仕に回るからな。
 トツカはイカついから小さな子供とかが怖がったりするから基本は裏方なんだ。

「どこか遊びに行ったりする予定はあるの?」

「流石にないかな。まだ勅使河原の事も終わってないし。あれから不気味なくらい静かなんだよな……」

 あのイースターの事件以降、勅使河原に動きはない。
 魔物が現れたり、偶にウサギも出るからそいつらの討伐が今の俺たちの主な仕事だ。

「なるほどねえ。大変だね、ラテアくんたちも♪」

 他人事だからか、ロセはどこまでも気楽そうだ。堂々といつも通りにイチャついてやがる。
 ケーキをフォークで切り取り、ロセはアレウの口と自身の口に交互に運ぶ。

「そういえば、夏輝君とはどうなの?」

「何でそれを聞くんだよ!別に、何もないし?……うん、何もないぜ」

 どうにも段々と語気が頼りなく小さなものになる。
 アレウとロセは互いに顔を見合わせ、それから俺をまじまじと見る。
 あれから俺と夏輝に進展はない。関係性も変わっていない。ただ。

(……こいつらほどではなくても、俺ももう少し夏輝と)

 一緒に居たい。結局寂しいのだ。それに、俺は夏輝が好きなんだ。
 夏輝のちんこを舐めても嫌だと全く思わなかったし、この間本気で俺は夏輝のなら受け入れられるって思った。
 でも、これ以上どうしたらいいかわからない。人間とか恋愛って難しい。

「ラテア、お待たせ!」

 と、そんなところで入り口の扉が開き、鈴がからころといい音を立てた。
 入ってきたのは夏輝と瑞雪だ。
 瑞雪は相変わらずの仏頂面。
 夏輝は俺に向かって手を振ってくる。
 軽く手を上げて応じると、犬みたいに嬉しそうな顔をした。

「おかえり夏輝。これで連休だな」

「うん!久々にラテアと土日以外も一緒にいられて嬉しいよ!任務とかが入らなきゃいいんだけど」

「ま、入ってもさくっとやろうぜ」

 尻尾と耳が出ていたら間違いなくぶんぶんと振っていただろう。しかし。

「遊ぶのは構わないが、GW明けは中間試験だ。わかっているだろうな、夏輝」

 後ろからものすごーく低い、それこそ地を這うようなドスの効いた低い声が聞こえてくる。
 そちらを見ると、当然のように瑞雪がいた。
 まさに鬼のような形相である。

「っげ……わ、忘れてませんよ瑞雪さん」

 珍しく夏輝の喉の奥からギョっとしたような変な声が漏れた。
 夏輝の顔は真っ青だ。
 しかもだらだらと冷や汗を流し、目が今まで見たことがない位に泳いでいる。

「いいか、学生の本分は勉強だ。得意教科はいい点を、苦手科目も赤点だけは取るな。赤点を取ったら何があろうと羊飼いとしての活動を禁止する。そうなりたくなかったらほどほどに遊んで残りは勉強しろ」

 矢継ぎ早に言葉を口にする瑞雪。
 夏輝は言い返す言葉もないのかただ真っ青な顔でこくこくと頷くばかり。

「夏輝、そんなお前って勉強ヤバいのか?」

 俺は学校に行ったことがないから学がない。
 地球人はよくよく勉強するなアと感心する。
 一応エデンにも栄えた大都市に行けば学校とかもあるはずだが、俺の出身は火山近くのド田舎だ。

「と、得意科目は家庭科と体育です」

 声が震えている。そりゃもうぷるっぷるだ。
 カフェの入り口でこんなやり取りを繰り広げているもんだから、周囲の客は皆夏輝と瑞雪に視線を向けている。
 普段の瑞雪なら気にしそうなもんだが、今日の瑞雪はそれよりも夏輝を説教する方が大事らしい。

「この間の化学のミニテストの点数、忘れたとは言わせんぞ」

「は、はいぃ……!」

 俺の問いに夏輝はだらだらと汗を流しながら露骨に俺からも瑞雪からも目を反らした。
 瑞雪も夏輝が勉強をちゃんと問題なくできていればこんな顔はしないし、文句だって言わないだろう。つまりはそういうことなのだ。
 何点を取ったか聞くのは……流石に死体蹴りだからやめておくべきだな、うん。

「瑞雪ちゃんってば夏輝君のお兄ちゃんみたいだねえ」

「坊ちゃんの言ってる事は間違ってないからなあ。ま、頑張れを若人たち」

 ロセとアレウも今回は瑞雪の味方のようだった。
 二人は相変わらず周囲の目を憚らずイチャつきつつ、管を巻いているようだった。

「み、瑞雪さん勉強を教えて」

「悪いが……してやりたいところだがそれはできないかもしれん」

 一つ咳ばらいをし、瑞雪が首を横に振る。
 どこかその顔は苦渋に満ちたもので。
 八潮に席に着くように促され、トツカと俺も含め四人席につく。
 程なくしてコーヒーが運ばれてきて、瑞雪は軽く八潮に頭を下げる。
 コーヒーを一口啜るが、その表情はやはり浮かない。

「俺は明日本部に行って祭りで入手した新型の薬品の解析をしてもらってくる。トツカも連れていく……まあ、トツカはお前たちの助けには一切ならんだろうが。解析が終わるまでT都に滞在せざるを得ない訳だ。……俺だって心底行きたくない。だが、双子も遠呂も逃げたからな。誰かしらが行かなきゃならん。夏輝、お前には友達がたくさんいるだろ?勉強の得意な友達にでも教えてもらえ」

 ああ、なるほど。
 ため息をつく瑞雪。瑞雪も瑞雪でどうやら大変なGWを過ごすらしい。
 あの食えない笑みを浮かべる瑞雪にそっくりの男を思い浮かべながら、俺は多分憐みの視線を向けていた。



 
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