青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪意11 それぞれの夜に

戦いの後で

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 あれから俺たちは支部へと運び込まれ、修正班が死ぬ気で会場の修正を始めていた。 
 と言っても少しの時間でどうにかなる問題でもなく、祭り自体が中止となったと黒間市全体に魔法をかける羽目となった。
 破壊された建物などの物の損傷は短時間であれば魔法で巻き戻せるらしい。しかし、魂、命の宿るものは植物なども含め須らく駄目らしく、花壇や樹々は竜巻が発生して吹き飛ばされたということにするとか何とか。
 なんとも苦しい言い訳だが、記憶処理の魔法と併用することでいい感じになるのだろう。多分。
 俺達に出来ることはもうすべてやったし、明日は夏輝も瑞雪も高校に行かなければならない。
 俺が最後に見た光景は最早見る影もない学校だったけど、これから徹夜で修正班が復旧させるのだろう。
 ある意味で彼らも食い扶持を得るために命を賭けているのだ。

「痛いって!もうちょっと優しく手当してよ!月夜が可哀そうでしょ!」
「大丈夫だよ兄さん」
「腹減った……」
「あはは、朝早く食べてそれっきりだったもんね」
「手首が戻らん」
「戻すか?」
「やめてくれ。折れたのがさらに砕けるだろう」

 戻ってきて仮の治療室に全員がなだれ込む。全員血まみれ、さらには埃とか泥塗れで汚いし、動き続けたから夏でもないのに汗臭い。
 全員がくたばりかけだ。瑞雪の手首はぷらぷらしてるし、月夜は物理的に穴だらけ。脇腹も肩も穴が開いて月夜がせっせと塞いでる。
 それでも皆好き好き勝手にぺちゃくちゃ話している。皆の緊張はすっかり解け、完全にだらけきっていた。
 運び込まれた後にすぐに慌てて俵と権田がやってきて俺たちの手当てをしてくれた。

「皆さんお疲れさまでした」

 手当が終わって程なくして、秋雨と遠呂が部屋に入ってくる。

「遠呂師匠はもう任務は終わったの?」
「ああ、終わった終わった」

 遠呂は特に怪我などした様子もなく、普段通りの飄々とした糸目だった。胡散臭いってこと。
 
「まあ、調べるにも相手も予測済みでなあ。あんまり大きなことはできなかった。相手の行動をけん制するくらいだ。ただ、病院はやっぱり完全に籠城する構えだな。何も知らないスタッフや入院患者を人質に取るつもり満々だ」

 報告に夏輝の顔が、いやその場にいた全員の眉根が潜められ、表情が曇る。

「とのことです。ここからは相手の仕掛けをいなしつつ慎重に動かねばなりません。死人を出して病院を制圧することは容易いでしょうが、一般紙民の犠牲を最小限に抑えるのは至難の業です。守るより攻める方が簡単ですから。ですが」

 秋雨は目元をしわくちゃにしながら微笑む。

「あなた方のおかげで今回の被害は最小限に抑えることが出来ました。ありがとうございます。多くの市民は救われたのです」

 長々とではなく、短く簡潔な言葉。
 純粋な労いの言葉の言葉に俺たちはぽかんとしていた。トツカと朝陽はどや顔していたけど。
 そしてその言葉でようやく本当に終わったのだと実感が出てきて、逆に疲れがどっと押し寄せてきた。安っぽいパイプベッドに転がる。
 とてもじゃないけど狭くて大の字になんてなれないけどさ。

「治療が済み次第、自宅に帰って頂いて大丈夫です。ゆっくり休んでください。まだ全てが終わったわけではありませんから。だからこそ今は休息を。病院攻略に関してはこちらで手を考えましょう」

 秋雨の宣言に全員がホっと息をつく。

「今度皆で飲み会でもしよう」

 遠呂の言葉に瑞雪は面倒くさそうな顔こそしていたが、否定はしなかった。
 それから俺たちは少し休んでから帰路へとついた。非日常の終わり。明日からはまた新たに日常が始まるのだ。
 
 
 
 
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