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EP2 卵に潜む悪意6 しつこいやつら
6-1
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「すみません、結局奏太は見つからなくて……」
御絡流の会K県支部。勅使河原総合病院が敵の根城だと判明した以上、病院を利用するわけにもいかない。
仕方なくある程度の治療施設の整っている支部の方に戻ってきたわけであり。
医療フロアの一角、戻ってきた夏輝は申し訳なさそうに俯いていた。俺?俺はまあ見つからないものは仕方ないと諦めている。
そもそも奏太なんて知らないし。一応一回軽くあったことはあったっけ。あの陰鬱そうなやつの事だったはず。まあどちらにせよ大して関わりもない。
もしかしたら巻き込まれて死んでいるかも、というのは少々気の毒だ。でもヒグマを使って俺たちを襲ってきた相手だというし必要以上に心配したりはしない。
「いや、いい。お前のせいじゃねえよ……」
一番大怪我を負っている瑞雪はと言えば点滴に繋がれている。戻ってきたころにはある程度顔色もよくなっていたし、肩の傷も塞がっていた。
「しかし、病院が使えないとなるとここで何とかしてもらうしかないのかぁ」
治療できるだけ間違いなくマシだけど。俺たちの中で治癒魔法に長けた奴はいないのだ。
適当にその辺にあるパイプ椅子に腰かける。
トツカはぐったりとしている瑞雪の横に立っている。ほんっとうにただ立っている。
顔を伺うとどこか熱っぽく浮かされているように見える。その目は欲望でギトギトに輝いている。気がする。だってあの瑞雪を家まで送ったあの日のトツカに似ていたから。
「体調は大丈夫なんですか?」
様子を伺うように、心配そうに夏輝は瑞雪に声をかける。
俺も無理やりトツカから目を離す。カフェでアレウがトツカに入れ知恵していた事を思い出してやや不安になるが、俺にはどうすることもできないと思考を切り替える。
「問題ない。怪我は塞がったし貧血も大分マシになった。今日のところは帰って休め。俺も休む」
マシになったとはいえ、完全復調には程遠そうだ。瑞雪の顔には疲労が色濃く滲んでいた。
「何か俺にできることはありませんか?十一日に何かが起こるんですよね?今日は八日で、もう三日しかないって……奏太だって消えちゃったし」
確かに、相手の思惑すらも不明。紙切れを信じるなら十一日に何かが起こる。夏輝が不安に思うのも当然だろう。
俺だって、得体のしれない何かに喉元を締め上げられているような感覚だ。
「それについてだが、ロセから情報があった。夏輝、お前なら知っているだろう。十一日の日曜日にラツィエル学園の敷地内でイースターの祭りが行われることを」
瑞雪の言葉に夏輝は一瞬きょとんとしつつも頷く。
「あ、はい……。毎年学園生が一部ボランティアで駆り出されてますね。基本的に二年生と三年生がメインなので俺は今年はないんですけど」
お祭り。確かに何かやらかすには一番適している気がする。例えば、地球人を大量に魔物化させるとか。
流石に不謹慎すぎるし、あまりにも恐ろしい事なので口には出さない。口に出したら現実になってしまいそうだというのもある。
「いろんな屋台とかも出て、とっても賑やかで。こんなことがなかったらラテアを誘って遊びに行きたいなって思ってたんだけど……。その祭りで何かやろうって勅使河原さんは思っている、ってことですか?」
「ロセの情報だとそうなるな」
瑞雪の言葉に夏輝の顔が曇る。
「……お祭りで一体何を?」
夏輝にしては珍しい、低く唸るような声だった。
「勅使河原はとにかく研究規模を拡大し、資金の投入を惜しんでいない。ここ最近は特にだ。チョコエッグの製造元の企業にも資金提供がここ半年で倍増している。で、イースターの祭りにも多額の寄付が行われているし、製造元の企業が屋台で参加することがわかった。勅使河原の目的はわからないが、チョコエッグにも含まれている人間を魔物化させるような何かを必死に開発していることだけは確かだとロセは言っていた。恐らく祭りでばらまいて参加者を被検体にする心づもりなんだろうな」
何の目的で、だけが抜けている。
「何で?どうしてそんなことを?」
「そもそもそれって御絡流の会に全面的に喧嘩売ってるってことだよな」
夏輝の顔は明らかに困惑していた。そして俺も疑問を口にする。
「竜を捕獲できるくらいの兵力を持ってるから……全面戦争しても別に構わないってこと?そもそも提携先で甘い汁吸えていたのに、裏切って敵対してまで何を開発したいんだ?」
リスクとメリットが釣り合っているようにはどうしても思えない。俺の言葉に瑞雪は小さく息をつく。
「……知らん。ただ、この薬品はまだ未完成で、それを完成させたいんだろうとあの淫魔は言っていた。引き続き調査はしてくれるらしいが、どうなることやら。少なくとも十一日までにはわからないし、わかろうがわかるまいがイースターの祭りで何かしでかしてくれるというのは間違いないんだ。それを止めることに全力を注ぐべきだろう。チョコエッグの中に入っていた十一日と書かれたあの紙切れも、祭りでの引換券らしいしな。客寄せのためにばら撒いてるんだろう」
点滴の針を乱暴に抜き、捨てる。いいのか?と夏輝の身体が一瞬びくりと動く。止めるべきかと悩んだんだろう。
「学校に働きかけて止めるとかは……?御絡流の会って影響力が結構あるって聞きましたけど……」
うんうんと唸りながら夏輝が言葉を捻りだす。
「無理だ。莫大な金が寄付されてるのは祭りを止めるとかそういう意見を潰すためだろうな。それに影響力があると言ってもあるのは結局組織のボスだけだ。秋雨さんも名家の出身で元政治家だとは聞いているがボス程じゃないし、表から退いて久しい」
「何それ初耳」
一応さん付けしている当たりやっぱり國雪ほどは嫌ってはいないのだろう。
「今まで別に言ってないしな。言う必要性も感じなかった。あの人も別に話してないし」
まあ、実際どうでもいい情報と言えばどうでもいい情報だ。今の事態には一ミリも関係がない。
何はともあれ、何があってもイースターの祭りをどうにかしなきゃいけないってことは理解したわけで。
「えっと、それでどうやって止めよう……。祭り自体は中止にできなくても、止めないと大惨事になっちゃうし」
夏輝は祭り自体を止められないと諦め、具体的にどう対処していくのかに話題をシフトさせる。
トツカは相変わらずぼうっとしている。まあこの手の話題でそもそも戦力になるとは思えなかったけどさ。
「開始直前に会場全体に結界を張って一般人が入ってこれないようにして会場内を調べる。ただ、流石に会場に誰もいない早朝に結界を張ったところで相手がのこのこ出てくるとは思えない。相手は実験をすることが目的なんだろうからな。人がいて、かつまだチョコエッグをばらまく前の直前にやるしかないが、人がいる分リスクは伴う」
「でも……やるしかない、ですよね。それが一番考えられる限りリスクの少ない方法なんですもんね……。だって、病院に乗り込むのは無理だし」
瑞雪の言葉に対し、夏輝は思うところがありつつも納得はしていた。しかし、苦い顔自体はしている。
犠牲がゼロなんて無理な話であることはもう夏輝だってわかっている。わからないほど子供じゃない。座っていたパイプ椅子に夏輝は座りなおし、背筋をピンと正す。
「……そうだな。犠牲が出ない方法があればそっちがいいが、俺たちの手札では難しい。それに双子の事もある。そういえば……トツカ。お前ひとりで突っ走って追いかけてた白ウサギはどうした。まさか斬り殺したのか?」
貧血で回っていなかった頭に血流が戻ったのか、瑞雪は神妙な顔をしてトツカを問いただす。
ぼうっとしていたトツカは瑞雪の言葉にやっと我に返ったのか、しっかりと瑞雪を見つめなおす。
「殺してはいない。そもそも中身は人間ではなかった」
「人間じゃない?ちゃんとわかるように話せ」
トツカの要領を得ない回答。もはやイラつきもしないらしく、瑞雪はただ先を促す。
「着ぐるみの中には大量のネズミが入っていた。首に絞め技をかけても関節が変な方向に曲がってもなんともなかったが、着ぐるみを切断したら中から飛び出してきた。個というよりは群で動きが統率されていたな。一匹一匹斬り殺すのは流石に無理だと判断して一気に範囲で轢き殺した。……あまりにも手ごたえがなさ過ぎて忘れていた」
忘れていた。その言葉にその場にいた俺たちは脱力する。トツカにとっては強敵かそうじゃないかの二種類しかないのかもしれない。
手ごたえのない敵は忘れちまう。そんなのまさに狂戦士だ。
「いいか、忘れそうになっても逐一きっちり俺に報告しろ。あの黒い狐の獣人よりも重要かもしれないんだぞ」
まさにうんざりと言った様子で瑞雪は大きく隠しもせずため息をつきながらトツカを睨む。
「……!瑞雪、あの獣人とはもう一度戦いたい。なかなか面白い相手だった」
「知るか。優秀な猟犬ならきっちり仕事をこなせ」
トツカの要望を一蹴し、立ち上がる。トツカは何か言いたげな顔をしつつも何も言わない。
「もう夜も遅いし、お前らも帰れ。夏輝、特にお前。お前の本分は学業なんだ。それと、双子が襲ってくる可能性も大いにある。気を付けておけよ」
俺たちを追い出すように瑞雪が追い立てる。仕方なく立ち上がり、そのまま部屋から出る。
「瑞雪さんもかえって休むんですよね?」
「この馬鹿が戦ったところに戻ってネズミの死骸を探してからな……。マナに還っているかの確認はカマイタチですぐできるからすぐ終わる」
恐る恐る、心配そうに夏輝が瑞雪に問う。やりたくなさそうな顔がありありと瑞雪の顔に浮かんでいたが、結局責任感が強いタイプだから逃れられないのだろう。
「俺のことはいいからさっさと帰れ。もう少ししたら課題とかも出るようになるんだぞ」
本格的にこのままでは瑞雪の説教が始まりそうだ。俺はさっさと逃げようと夏輝の手を引いて走り出す。
瑞雪が鼻を鳴らし、それを見送る。トツカの顔は相変わらずだった。
ああ、今夜瑞雪のケツが無事でありますように。本人は全くそんな危機に気づいていないだろうが、そう願わずにはいられなかった。
御絡流の会K県支部。勅使河原総合病院が敵の根城だと判明した以上、病院を利用するわけにもいかない。
仕方なくある程度の治療施設の整っている支部の方に戻ってきたわけであり。
医療フロアの一角、戻ってきた夏輝は申し訳なさそうに俯いていた。俺?俺はまあ見つからないものは仕方ないと諦めている。
そもそも奏太なんて知らないし。一応一回軽くあったことはあったっけ。あの陰鬱そうなやつの事だったはず。まあどちらにせよ大して関わりもない。
もしかしたら巻き込まれて死んでいるかも、というのは少々気の毒だ。でもヒグマを使って俺たちを襲ってきた相手だというし必要以上に心配したりはしない。
「いや、いい。お前のせいじゃねえよ……」
一番大怪我を負っている瑞雪はと言えば点滴に繋がれている。戻ってきたころにはある程度顔色もよくなっていたし、肩の傷も塞がっていた。
「しかし、病院が使えないとなるとここで何とかしてもらうしかないのかぁ」
治療できるだけ間違いなくマシだけど。俺たちの中で治癒魔法に長けた奴はいないのだ。
適当にその辺にあるパイプ椅子に腰かける。
トツカはぐったりとしている瑞雪の横に立っている。ほんっとうにただ立っている。
顔を伺うとどこか熱っぽく浮かされているように見える。その目は欲望でギトギトに輝いている。気がする。だってあの瑞雪を家まで送ったあの日のトツカに似ていたから。
「体調は大丈夫なんですか?」
様子を伺うように、心配そうに夏輝は瑞雪に声をかける。
俺も無理やりトツカから目を離す。カフェでアレウがトツカに入れ知恵していた事を思い出してやや不安になるが、俺にはどうすることもできないと思考を切り替える。
「問題ない。怪我は塞がったし貧血も大分マシになった。今日のところは帰って休め。俺も休む」
マシになったとはいえ、完全復調には程遠そうだ。瑞雪の顔には疲労が色濃く滲んでいた。
「何か俺にできることはありませんか?十一日に何かが起こるんですよね?今日は八日で、もう三日しかないって……奏太だって消えちゃったし」
確かに、相手の思惑すらも不明。紙切れを信じるなら十一日に何かが起こる。夏輝が不安に思うのも当然だろう。
俺だって、得体のしれない何かに喉元を締め上げられているような感覚だ。
「それについてだが、ロセから情報があった。夏輝、お前なら知っているだろう。十一日の日曜日にラツィエル学園の敷地内でイースターの祭りが行われることを」
瑞雪の言葉に夏輝は一瞬きょとんとしつつも頷く。
「あ、はい……。毎年学園生が一部ボランティアで駆り出されてますね。基本的に二年生と三年生がメインなので俺は今年はないんですけど」
お祭り。確かに何かやらかすには一番適している気がする。例えば、地球人を大量に魔物化させるとか。
流石に不謹慎すぎるし、あまりにも恐ろしい事なので口には出さない。口に出したら現実になってしまいそうだというのもある。
「いろんな屋台とかも出て、とっても賑やかで。こんなことがなかったらラテアを誘って遊びに行きたいなって思ってたんだけど……。その祭りで何かやろうって勅使河原さんは思っている、ってことですか?」
「ロセの情報だとそうなるな」
瑞雪の言葉に夏輝の顔が曇る。
「……お祭りで一体何を?」
夏輝にしては珍しい、低く唸るような声だった。
「勅使河原はとにかく研究規模を拡大し、資金の投入を惜しんでいない。ここ最近は特にだ。チョコエッグの製造元の企業にも資金提供がここ半年で倍増している。で、イースターの祭りにも多額の寄付が行われているし、製造元の企業が屋台で参加することがわかった。勅使河原の目的はわからないが、チョコエッグにも含まれている人間を魔物化させるような何かを必死に開発していることだけは確かだとロセは言っていた。恐らく祭りでばらまいて参加者を被検体にする心づもりなんだろうな」
何の目的で、だけが抜けている。
「何で?どうしてそんなことを?」
「そもそもそれって御絡流の会に全面的に喧嘩売ってるってことだよな」
夏輝の顔は明らかに困惑していた。そして俺も疑問を口にする。
「竜を捕獲できるくらいの兵力を持ってるから……全面戦争しても別に構わないってこと?そもそも提携先で甘い汁吸えていたのに、裏切って敵対してまで何を開発したいんだ?」
リスクとメリットが釣り合っているようにはどうしても思えない。俺の言葉に瑞雪は小さく息をつく。
「……知らん。ただ、この薬品はまだ未完成で、それを完成させたいんだろうとあの淫魔は言っていた。引き続き調査はしてくれるらしいが、どうなることやら。少なくとも十一日までにはわからないし、わかろうがわかるまいがイースターの祭りで何かしでかしてくれるというのは間違いないんだ。それを止めることに全力を注ぐべきだろう。チョコエッグの中に入っていた十一日と書かれたあの紙切れも、祭りでの引換券らしいしな。客寄せのためにばら撒いてるんだろう」
点滴の針を乱暴に抜き、捨てる。いいのか?と夏輝の身体が一瞬びくりと動く。止めるべきかと悩んだんだろう。
「学校に働きかけて止めるとかは……?御絡流の会って影響力が結構あるって聞きましたけど……」
うんうんと唸りながら夏輝が言葉を捻りだす。
「無理だ。莫大な金が寄付されてるのは祭りを止めるとかそういう意見を潰すためだろうな。それに影響力があると言ってもあるのは結局組織のボスだけだ。秋雨さんも名家の出身で元政治家だとは聞いているがボス程じゃないし、表から退いて久しい」
「何それ初耳」
一応さん付けしている当たりやっぱり國雪ほどは嫌ってはいないのだろう。
「今まで別に言ってないしな。言う必要性も感じなかった。あの人も別に話してないし」
まあ、実際どうでもいい情報と言えばどうでもいい情報だ。今の事態には一ミリも関係がない。
何はともあれ、何があってもイースターの祭りをどうにかしなきゃいけないってことは理解したわけで。
「えっと、それでどうやって止めよう……。祭り自体は中止にできなくても、止めないと大惨事になっちゃうし」
夏輝は祭り自体を止められないと諦め、具体的にどう対処していくのかに話題をシフトさせる。
トツカは相変わらずぼうっとしている。まあこの手の話題でそもそも戦力になるとは思えなかったけどさ。
「開始直前に会場全体に結界を張って一般人が入ってこれないようにして会場内を調べる。ただ、流石に会場に誰もいない早朝に結界を張ったところで相手がのこのこ出てくるとは思えない。相手は実験をすることが目的なんだろうからな。人がいて、かつまだチョコエッグをばらまく前の直前にやるしかないが、人がいる分リスクは伴う」
「でも……やるしかない、ですよね。それが一番考えられる限りリスクの少ない方法なんですもんね……。だって、病院に乗り込むのは無理だし」
瑞雪の言葉に対し、夏輝は思うところがありつつも納得はしていた。しかし、苦い顔自体はしている。
犠牲がゼロなんて無理な話であることはもう夏輝だってわかっている。わからないほど子供じゃない。座っていたパイプ椅子に夏輝は座りなおし、背筋をピンと正す。
「……そうだな。犠牲が出ない方法があればそっちがいいが、俺たちの手札では難しい。それに双子の事もある。そういえば……トツカ。お前ひとりで突っ走って追いかけてた白ウサギはどうした。まさか斬り殺したのか?」
貧血で回っていなかった頭に血流が戻ったのか、瑞雪は神妙な顔をしてトツカを問いただす。
ぼうっとしていたトツカは瑞雪の言葉にやっと我に返ったのか、しっかりと瑞雪を見つめなおす。
「殺してはいない。そもそも中身は人間ではなかった」
「人間じゃない?ちゃんとわかるように話せ」
トツカの要領を得ない回答。もはやイラつきもしないらしく、瑞雪はただ先を促す。
「着ぐるみの中には大量のネズミが入っていた。首に絞め技をかけても関節が変な方向に曲がってもなんともなかったが、着ぐるみを切断したら中から飛び出してきた。個というよりは群で動きが統率されていたな。一匹一匹斬り殺すのは流石に無理だと判断して一気に範囲で轢き殺した。……あまりにも手ごたえがなさ過ぎて忘れていた」
忘れていた。その言葉にその場にいた俺たちは脱力する。トツカにとっては強敵かそうじゃないかの二種類しかないのかもしれない。
手ごたえのない敵は忘れちまう。そんなのまさに狂戦士だ。
「いいか、忘れそうになっても逐一きっちり俺に報告しろ。あの黒い狐の獣人よりも重要かもしれないんだぞ」
まさにうんざりと言った様子で瑞雪は大きく隠しもせずため息をつきながらトツカを睨む。
「……!瑞雪、あの獣人とはもう一度戦いたい。なかなか面白い相手だった」
「知るか。優秀な猟犬ならきっちり仕事をこなせ」
トツカの要望を一蹴し、立ち上がる。トツカは何か言いたげな顔をしつつも何も言わない。
「もう夜も遅いし、お前らも帰れ。夏輝、特にお前。お前の本分は学業なんだ。それと、双子が襲ってくる可能性も大いにある。気を付けておけよ」
俺たちを追い出すように瑞雪が追い立てる。仕方なく立ち上がり、そのまま部屋から出る。
「瑞雪さんもかえって休むんですよね?」
「この馬鹿が戦ったところに戻ってネズミの死骸を探してからな……。マナに還っているかの確認はカマイタチですぐできるからすぐ終わる」
恐る恐る、心配そうに夏輝が瑞雪に問う。やりたくなさそうな顔がありありと瑞雪の顔に浮かんでいたが、結局責任感が強いタイプだから逃れられないのだろう。
「俺のことはいいからさっさと帰れ。もう少ししたら課題とかも出るようになるんだぞ」
本格的にこのままでは瑞雪の説教が始まりそうだ。俺はさっさと逃げようと夏輝の手を引いて走り出す。
瑞雪が鼻を鳴らし、それを見送る。トツカの顔は相変わらずだった。
ああ、今夜瑞雪のケツが無事でありますように。本人は全くそんな危機に気づいていないだろうが、そう願わずにはいられなかった。
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