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EP2 卵に潜む悪夢3 高校生活開幕
予期せぬ遭遇
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黒間聖ラツィエル学園。中学校、高校、大学とあるエレベーター式の私立である。
男女共学、県の中ではそこそこ有名。カトリックの学校であり、敷地内に教会がある。日曜日は一般開放され、ミサが行われているよ。
もっとも、夏輝は信者ではない。学校のイベントで行われるミサは参加するものの、日曜日の礼拝には一度も参加したことがなかった。
学校の建物全体はモダンな雰囲気であり、ここ十年ほどで一度建て替えられたためどこもかしこもぴかぴかで綺麗なまま。エアコンも各教室に完備されており、夏場に苦しむこともない。
中学の時の制服とほぼ変わらないものの、新しい一張羅に袖を通した夏輝は通い慣れた通学路を歩いていた。
燦燦と降り注ぐ朝陽。少しだけ中学の時と違うのは、施設からではなくアパートから通っていることだ。
少し通学時間が増えたものの、問題ない程度の距離。どちらかといえばラテアという同居人が増えたことが一番夏輝にとって変わったことだろう。
(一人でラテア大丈夫かな)
今日は入学式とオリエンテーションのみで午前中で終了とはいえ、明日からはそうはいかない。
部活に入る予定はないものの、基本的に夕方くらいの帰宅にはなってしまう。
そうなると、一日のほとんどを一人にしてしまうことになるだろう。
子供じゃないとは言うものの、高校のことを話した時のラテアの少し不安そうな表情を夏輝は忘れられずにいた。
最近ずっと一緒にいたからか、暇な時は何となくラテアのことを考えてしまう。一緒にいないときは尚のことだ。
「夏輝、おはよう!」
「ん!?この声は」
ふいに背後から声をかけられ、夏輝は急いで振り向く。
そこには金髪の外国人然とした美少年が立っていた。襟首まで伸ばしたマッシュルームヘアが特徴で、在日二世だという。
夏輝とは小学生のころからの幼馴染であり、気の置けない友人だった。
「久しぶり。って言っても中学の卒業式以来だけど。引っ越し作業はちゃんと終わった?」
小走りで横に並び、一緒に歩きだす。ノアの方が小柄なのもあり、一見して凸凹コンビに見えなくもない。
「うん、久しぶりだねノア。大丈夫、卒業式が終わってすぐくらいに引っ越しは終わったよ。今度よかったら俺の家に遊びに来てよ。新しい友達も出来たんだ」
卒業式後はごたごたしていて、結局春休み中はノアに会うことができなかった。久しぶりに見た親友の顔。急に日常へと戻ってきた気がしてへなへなと座り込みそうになる。
「ちょ、夏輝ってば大丈夫!?そんなに引っ越しとか大変だったの?」
余程気の抜けた顔をしていたのかもしれない。ノアが前に回り込み、夏輝の顔を少し心配そうにのぞき込む。
「あはは、そうかも。あと高校生活っていったらワクワクするだろ?楽しみじゃん?高校から入る新しい生徒もいるわけだし。あんまり眠れなくってさ」
ぽりぽりと頬を掻きながら苦笑いを漏らすと、ノアは不思議そうにしつつも納得したようだった。
「そっか。夏輝でもそういうことがあるんだねえ。そこら辺のメンタルって図太いやつだと思ってたよ」
「なにをっ!?俺だって少し心細かったりすることくらいあるってば」
そんなことを話しながらノアに合わせた歩幅で歩く。長い長い坂道を上がると、立派な白い門が現れる。
門は夏輝の背よりも高く、学園の敷地内をぐるりと覆っている。ここだけ日本じゃないみたいともっぱら噂で、黒間市の観光名所としても知られている。
一般人が入れるのは日曜日のミサの時と学園の行事の時のみではあるが、遠目から見ても美しい西洋の建物は大人気なのだ。
そういえばノアもキリスト教徒だったっけ。両親ともに信者だったから自然とキリスト教を信じるようになったのだという。
夏輝は別に宗教を否定するつもりはないが、かといって自分が信じているかと言われれば怪しいものだった。
どちらかといえば日本特有の八百万の神々だとか、そっちの方を好ましく感じていた。それも信じているからではなく日本の文化の一部としてだったけれど。
中学、高校と同じ敷地内にあるが、大学は少し離れた場所にある。バスで三十分程度の距離だ。夏輝は大学までは行くつもりはないから、大学のことは殆ど知らなかった。
西洋風の建物のくせに、敷地内にはたくさんの桜の木が植えられているのがアンバランスだった。桜は夏輝が卒業する前に満開になったから、今はもう葉桜ですらない。
昔はもっと遅く咲いていたらしいが、西暦二千六十年現在では三月の間に咲いて散るのが当たり前だ。
「ノア、クラス一緒じゃん!」
「やったね夏輝!今年一年よろしくね」
校舎に入り、下駄箱の前に張り出されたクラス表を確認する。ノアと同じクラスだとわかり、夏輝のテンションはどんどん上がっていく。
下駄箱に革靴を突っ込み、上履きに履き替える。
「そういえば、夏輝は高校でも部活に入るつもりはないの?施設から出たし、自由な時間は増えたんじゃない?」
新入生たちがわいわいと騒ぐ中、自分達の教室へと向かう。
「うん。入るつもりはないかな。バイトで忙しいし。ごめんね」
ノアには何度か部活に誘われていたが、そのたびに断っていた。
助っ人くらいはしたものの、中学時代は施設の弟たちの世話があった。今はカフェでの仕事はもちろんの事、羊飼いとしての仕事もある。
いつ呼び出されるかわからないし、何よりラテアが一人でいる時間を少しでも減らしたいというのが本音だった。
口では寂しいなんて一言も発さないくせに、目や耳、尾っぽは寂しさを訴えてくる。
「そっか。ソレなら仕方ないね」
少し残念そうに目を伏せ俯くノアに僅かな罪悪感を覚える。でも、仕方のないことだ。夏輝自身が選んだ道なのだから。
「えっ!?」
入学式のある体育館へ向かおうとしたところで思わず夏輝は間抜けな声をあげてしまった。なぜならここで見るはずのない人物が目に入ってきたから。
「ん?どうしたのさ夏輝」
ノアの声がどこか遠い。目に入ってきたのは前方を歩く、黒いポニーテールを揺らしながら歩く後ろ姿。こんな知り合い一人しか夏輝はいない。瑞雪だ。
体格だって同じくらいなはず。何度か瞬きをしてみるが、やはり変わらない。
(瑞雪さん……?なんでここに?)
やっぱりあんな特徴的な髪型をしている人間を見間違えるはずがない。瑞雪は夏輝達が向かう体育館ではなく、階段を上がっていってしまった。
「今年の教育実習の人かな?」
横から声。ノアが瑞雪が去っていった方を見ながら言葉を口にする。
「そういえば今日から大学の方から教育実習の先生が来るんだっけ?」
「そうだね。毎年入学式の日から来るはず」
一クラスに一人教育実習生として大学の教育学部から大学生がやってくるのが通例だった。それは一年生のクラスが担当するのが常。中学一年生のころ以来だなあ、なんてボケっと考える。
通常の教育実習は大体四か月程度だ。しかしラツィエル学園の教育学部は一貫校という利点を生かし、一年間同じクラスで学び学ばれの関係を築く。
「うちのクラスはどんな先生だろうね」
ノアの声がさっきから頭に入ってこない。
(大学生だとは聞いてたけど、まさか先輩で教育学部の人だったなんて……意外だ。先生を目指してるのかな……)
言っちゃ悪いがキャラと思っていた。確かに面倒見はいいし、ぶっきらぼうで冷徹に見えるが冷酷になりきれない優しい人だと思う。
でも、自ら子供たちの世話を甲斐甲斐しくし、面倒ごとに首を突っ込むタイプにはどうしても見えなかったのだ。
男女共学、県の中ではそこそこ有名。カトリックの学校であり、敷地内に教会がある。日曜日は一般開放され、ミサが行われているよ。
もっとも、夏輝は信者ではない。学校のイベントで行われるミサは参加するものの、日曜日の礼拝には一度も参加したことがなかった。
学校の建物全体はモダンな雰囲気であり、ここ十年ほどで一度建て替えられたためどこもかしこもぴかぴかで綺麗なまま。エアコンも各教室に完備されており、夏場に苦しむこともない。
中学の時の制服とほぼ変わらないものの、新しい一張羅に袖を通した夏輝は通い慣れた通学路を歩いていた。
燦燦と降り注ぐ朝陽。少しだけ中学の時と違うのは、施設からではなくアパートから通っていることだ。
少し通学時間が増えたものの、問題ない程度の距離。どちらかといえばラテアという同居人が増えたことが一番夏輝にとって変わったことだろう。
(一人でラテア大丈夫かな)
今日は入学式とオリエンテーションのみで午前中で終了とはいえ、明日からはそうはいかない。
部活に入る予定はないものの、基本的に夕方くらいの帰宅にはなってしまう。
そうなると、一日のほとんどを一人にしてしまうことになるだろう。
子供じゃないとは言うものの、高校のことを話した時のラテアの少し不安そうな表情を夏輝は忘れられずにいた。
最近ずっと一緒にいたからか、暇な時は何となくラテアのことを考えてしまう。一緒にいないときは尚のことだ。
「夏輝、おはよう!」
「ん!?この声は」
ふいに背後から声をかけられ、夏輝は急いで振り向く。
そこには金髪の外国人然とした美少年が立っていた。襟首まで伸ばしたマッシュルームヘアが特徴で、在日二世だという。
夏輝とは小学生のころからの幼馴染であり、気の置けない友人だった。
「久しぶり。って言っても中学の卒業式以来だけど。引っ越し作業はちゃんと終わった?」
小走りで横に並び、一緒に歩きだす。ノアの方が小柄なのもあり、一見して凸凹コンビに見えなくもない。
「うん、久しぶりだねノア。大丈夫、卒業式が終わってすぐくらいに引っ越しは終わったよ。今度よかったら俺の家に遊びに来てよ。新しい友達も出来たんだ」
卒業式後はごたごたしていて、結局春休み中はノアに会うことができなかった。久しぶりに見た親友の顔。急に日常へと戻ってきた気がしてへなへなと座り込みそうになる。
「ちょ、夏輝ってば大丈夫!?そんなに引っ越しとか大変だったの?」
余程気の抜けた顔をしていたのかもしれない。ノアが前に回り込み、夏輝の顔を少し心配そうにのぞき込む。
「あはは、そうかも。あと高校生活っていったらワクワクするだろ?楽しみじゃん?高校から入る新しい生徒もいるわけだし。あんまり眠れなくってさ」
ぽりぽりと頬を掻きながら苦笑いを漏らすと、ノアは不思議そうにしつつも納得したようだった。
「そっか。夏輝でもそういうことがあるんだねえ。そこら辺のメンタルって図太いやつだと思ってたよ」
「なにをっ!?俺だって少し心細かったりすることくらいあるってば」
そんなことを話しながらノアに合わせた歩幅で歩く。長い長い坂道を上がると、立派な白い門が現れる。
門は夏輝の背よりも高く、学園の敷地内をぐるりと覆っている。ここだけ日本じゃないみたいともっぱら噂で、黒間市の観光名所としても知られている。
一般人が入れるのは日曜日のミサの時と学園の行事の時のみではあるが、遠目から見ても美しい西洋の建物は大人気なのだ。
そういえばノアもキリスト教徒だったっけ。両親ともに信者だったから自然とキリスト教を信じるようになったのだという。
夏輝は別に宗教を否定するつもりはないが、かといって自分が信じているかと言われれば怪しいものだった。
どちらかといえば日本特有の八百万の神々だとか、そっちの方を好ましく感じていた。それも信じているからではなく日本の文化の一部としてだったけれど。
中学、高校と同じ敷地内にあるが、大学は少し離れた場所にある。バスで三十分程度の距離だ。夏輝は大学までは行くつもりはないから、大学のことは殆ど知らなかった。
西洋風の建物のくせに、敷地内にはたくさんの桜の木が植えられているのがアンバランスだった。桜は夏輝が卒業する前に満開になったから、今はもう葉桜ですらない。
昔はもっと遅く咲いていたらしいが、西暦二千六十年現在では三月の間に咲いて散るのが当たり前だ。
「ノア、クラス一緒じゃん!」
「やったね夏輝!今年一年よろしくね」
校舎に入り、下駄箱の前に張り出されたクラス表を確認する。ノアと同じクラスだとわかり、夏輝のテンションはどんどん上がっていく。
下駄箱に革靴を突っ込み、上履きに履き替える。
「そういえば、夏輝は高校でも部活に入るつもりはないの?施設から出たし、自由な時間は増えたんじゃない?」
新入生たちがわいわいと騒ぐ中、自分達の教室へと向かう。
「うん。入るつもりはないかな。バイトで忙しいし。ごめんね」
ノアには何度か部活に誘われていたが、そのたびに断っていた。
助っ人くらいはしたものの、中学時代は施設の弟たちの世話があった。今はカフェでの仕事はもちろんの事、羊飼いとしての仕事もある。
いつ呼び出されるかわからないし、何よりラテアが一人でいる時間を少しでも減らしたいというのが本音だった。
口では寂しいなんて一言も発さないくせに、目や耳、尾っぽは寂しさを訴えてくる。
「そっか。ソレなら仕方ないね」
少し残念そうに目を伏せ俯くノアに僅かな罪悪感を覚える。でも、仕方のないことだ。夏輝自身が選んだ道なのだから。
「えっ!?」
入学式のある体育館へ向かおうとしたところで思わず夏輝は間抜けな声をあげてしまった。なぜならここで見るはずのない人物が目に入ってきたから。
「ん?どうしたのさ夏輝」
ノアの声がどこか遠い。目に入ってきたのは前方を歩く、黒いポニーテールを揺らしながら歩く後ろ姿。こんな知り合い一人しか夏輝はいない。瑞雪だ。
体格だって同じくらいなはず。何度か瞬きをしてみるが、やはり変わらない。
(瑞雪さん……?なんでここに?)
やっぱりあんな特徴的な髪型をしている人間を見間違えるはずがない。瑞雪は夏輝達が向かう体育館ではなく、階段を上がっていってしまった。
「今年の教育実習の人かな?」
横から声。ノアが瑞雪が去っていった方を見ながら言葉を口にする。
「そういえば今日から大学の方から教育実習の先生が来るんだっけ?」
「そうだね。毎年入学式の日から来るはず」
一クラスに一人教育実習生として大学の教育学部から大学生がやってくるのが通例だった。それは一年生のクラスが担当するのが常。中学一年生のころ以来だなあ、なんてボケっと考える。
通常の教育実習は大体四か月程度だ。しかしラツィエル学園の教育学部は一貫校という利点を生かし、一年間同じクラスで学び学ばれの関係を築く。
「うちのクラスはどんな先生だろうね」
ノアの声がさっきから頭に入ってこない。
(大学生だとは聞いてたけど、まさか先輩で教育学部の人だったなんて……意外だ。先生を目指してるのかな……)
言っちゃ悪いがキャラと思っていた。確かに面倒見はいいし、ぶっきらぼうで冷徹に見えるが冷酷になりきれない優しい人だと思う。
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