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プロローグ
鼠色
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「ーーーじゃあ、なんでこの時、男は若い女に会いに行ったと思う?」
落ち着いた雰囲気の若い国語教師が問う。
六月の下旬、木曜日の5時間目、誰かがあけた窓から、心地よい風が吹き込んでくる。
「すきだったからにきまってるでしょ」「女がかわいかったから!」
「すきだから会いにきてくれるなんてされてみたいな~」
クラスの奴らが口々に答える。
何回目かの心地よい風がカーテンをなびかせながら教室に流れ込んできたとき、隣から聞きなれたが、ずっと聞いていたいような声が俺の耳にすっと入り込む。
「さよならを言いたかったから」
「香ちゃん、転校するらしいねー。」
俺がその話を聞いたのは、例年通りの六月ではなく、少し遅い梅雨入りとなったじめじめとした六月のある日のことだった。
「へー。」
なんとも思ってないようにそっけない返事をしてみる。
「ふーん、興味ないんだ。」
「まあ。俺には関係ないし。」
内心、手汗はだらだらで心臓の脈打つ速度はどんどん早くなっていく。
「ほんとは気になるんだろ?」
一人の男が割って入ってくる。
実際そうだ。すんごく気にしてる。でもこの二人にばれるのは癪だ。
「ああ、もううっせえな。もういいだろ?裕太、楓、こっちは勉強してんだよ。次漢字テストなんだからお前らも自分の席で勉強してろよ!」
ちょっとキレ気味で話す。このくらい言えばこいつらもどっか行くだろう。
「え?次漢字テスト!?ええやばいやばい。大森漢字ノート見せて」
「ええ、また?私も勉強したいんだけど。悪いけど稔こいつに見せてやってくんない?」
何言ってんだこの女、俺が勉強してるのが見えてないのか?
「俺も勉強してるからパスで」
早く考える時間が欲しい。
「えぇ、そんなあ無慈悲な…」
すると裕太は、俺の机の前にしゃがみ上目遣いでこちらを見る。
「おねが~い」
これ以上こいつと話したら無駄な時間が増えると思った俺は漢字ノートを突き出し自分の席へ帰るよう促す。
これでこいつも満足して自分の席へかえるだろう。
ありがと~などと言いながら自分の席へ帰っていった。一安心と思ったが、さっきから刺さる後ろからの生ぬるい目線が気になる。
「なんだよ楓」
「別に。素直じゃないなって」
別にわざと素直じゃないってわけじゃない。今は目の前にある重大なことのせいで、素直になるどころか、
感情のコントロールさえも難しい。
「うっせえ、はよ自分の席に戻り。チャイムなるよ」
楓は大きなため息を一つ吐き、自分の席へ帰っていった。
ため息をつきたいのはこっちなのに。
少し頭を整理する。さっき頭に詰め込んだ熟語が全部抜けるくらいにさっきの状況を思い出す。
だがやっぱり、楓の口から出た「香ちゃん、転校するらしいねー。」という言葉から一切思い出せない。
いや、そこで思考が止まってしまうっていうほうが正しいだろうか。そもそも櫻木はなぜ、中学三年生という大切な時期であるのに転校してしまうのか。櫻木はいつ転校するのか。櫻木はどこへ行ってしまうのだろうか、もう会えないんじゃないんだろうか。いくら自分で考えても理解することのできない疑問ばっかり沸いては頭の中でとどまる。
なぜこんなにも胸が痛いのだろうか。
ガラッと大きな音を出しながら開いたドアに現実へと戻される。
「テストやるぞー。ちゃんと勉強しただろうな?」
教室の窓からは生温い風が雨の匂いを運んできた。
さよならが来るまで__71日
落ち着いた雰囲気の若い国語教師が問う。
六月の下旬、木曜日の5時間目、誰かがあけた窓から、心地よい風が吹き込んでくる。
「すきだったからにきまってるでしょ」「女がかわいかったから!」
「すきだから会いにきてくれるなんてされてみたいな~」
クラスの奴らが口々に答える。
何回目かの心地よい風がカーテンをなびかせながら教室に流れ込んできたとき、隣から聞きなれたが、ずっと聞いていたいような声が俺の耳にすっと入り込む。
「さよならを言いたかったから」
「香ちゃん、転校するらしいねー。」
俺がその話を聞いたのは、例年通りの六月ではなく、少し遅い梅雨入りとなったじめじめとした六月のある日のことだった。
「へー。」
なんとも思ってないようにそっけない返事をしてみる。
「ふーん、興味ないんだ。」
「まあ。俺には関係ないし。」
内心、手汗はだらだらで心臓の脈打つ速度はどんどん早くなっていく。
「ほんとは気になるんだろ?」
一人の男が割って入ってくる。
実際そうだ。すんごく気にしてる。でもこの二人にばれるのは癪だ。
「ああ、もううっせえな。もういいだろ?裕太、楓、こっちは勉強してんだよ。次漢字テストなんだからお前らも自分の席で勉強してろよ!」
ちょっとキレ気味で話す。このくらい言えばこいつらもどっか行くだろう。
「え?次漢字テスト!?ええやばいやばい。大森漢字ノート見せて」
「ええ、また?私も勉強したいんだけど。悪いけど稔こいつに見せてやってくんない?」
何言ってんだこの女、俺が勉強してるのが見えてないのか?
「俺も勉強してるからパスで」
早く考える時間が欲しい。
「えぇ、そんなあ無慈悲な…」
すると裕太は、俺の机の前にしゃがみ上目遣いでこちらを見る。
「おねが~い」
これ以上こいつと話したら無駄な時間が増えると思った俺は漢字ノートを突き出し自分の席へ帰るよう促す。
これでこいつも満足して自分の席へかえるだろう。
ありがと~などと言いながら自分の席へ帰っていった。一安心と思ったが、さっきから刺さる後ろからの生ぬるい目線が気になる。
「なんだよ楓」
「別に。素直じゃないなって」
別にわざと素直じゃないってわけじゃない。今は目の前にある重大なことのせいで、素直になるどころか、
感情のコントロールさえも難しい。
「うっせえ、はよ自分の席に戻り。チャイムなるよ」
楓は大きなため息を一つ吐き、自分の席へ帰っていった。
ため息をつきたいのはこっちなのに。
少し頭を整理する。さっき頭に詰め込んだ熟語が全部抜けるくらいにさっきの状況を思い出す。
だがやっぱり、楓の口から出た「香ちゃん、転校するらしいねー。」という言葉から一切思い出せない。
いや、そこで思考が止まってしまうっていうほうが正しいだろうか。そもそも櫻木はなぜ、中学三年生という大切な時期であるのに転校してしまうのか。櫻木はいつ転校するのか。櫻木はどこへ行ってしまうのだろうか、もう会えないんじゃないんだろうか。いくら自分で考えても理解することのできない疑問ばっかり沸いては頭の中でとどまる。
なぜこんなにも胸が痛いのだろうか。
ガラッと大きな音を出しながら開いたドアに現実へと戻される。
「テストやるぞー。ちゃんと勉強しただろうな?」
教室の窓からは生温い風が雨の匂いを運んできた。
さよならが来るまで__71日
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