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二.アクアの過去
1.アクアの体質
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生前、アクアには婚約者がいた。
相手はアクアが暮らす村の領主である侯爵の令嬢。
アクアは代々、木こりを生業としてきた家系の生まれで、アクア自身も木こりとして仕事に励んでいた。
そんなある日、美しい青年がいると聞いて、一目見てみたいという好奇心から、侯爵令嬢は父親と共にアクアの村を訪れた。
そして案の定、アクアを見た瞬間に令嬢は心を奪われた。
溺愛する我が子から「アクア様と結婚したい!」と強請られ、侯爵は婚約話をアクアに持ち掛けた。
だが、アクアは躊躇する事もなくあっさりと断った。
理由は単純で「好きになれそうにない」と。
それに激怒した侯爵は、アクアを脅し始めた。
娘と婚約しなければ、今後村への支援は一切行わない。
村人たちは仕事を失い、路頭に迷う事になるだろう――と。
さすがに自分のせいで周りの人たちを巻き込む訳にはいかないと、アクアは仕方なく侯爵令嬢との婚約を承諾した。
だが、アクアは一度も令嬢に愛を囁かなかった。
たとえ、「嘘でもいいから……」とせがまれたとしても。
アクアは冷たい眼差しで、「結婚はするが、君を愛してはいない」と告げるだけだった。
アクアは昔から嘘がつけない体質だった。正確には、アクアの家系は皆そうなのだ。
嘘をついてしまった日には、体調が著しく悪くなる。
それを知っているから、アクアは一度も嘘をつかなかった。
一方で、アクアからの愛を拒絶されるたび、令嬢の心は壊れていった。
どんなに求めても得られない欲求は、日に日に激しさを増していった。
一心不乱にアクアの愛だけを求め、アクアに暴力を振るうまでにもなった。
それでも口を硬く閉ざすアクアに、「愛してるって言ってくれないと死んでやるから!」と、令嬢は自らの喉にナイフを突きつけた。
さすがに見かねたアクアは、一度だけ「君を愛してる」と囁いた。
その言葉に、令嬢が歓喜の表情を浮かべた瞬間、アクアはその場に倒れた。
突然の高熱を発症し、その日は一日中起き上がる事もできず、寝込むことになったのだ。
そんな姿のアクアを目の当たりにして、再び令嬢の心は歪み始めた。
「ねえ、そんなに私の事が嫌いなの……?」
朦朧とする意識の中で問いかけられたアクアは、本能のままに告げた。
「ああ、嫌いだ。君と結婚するくらいなら、死んだ方がマシだ」
その言葉を聞いた令嬢がどんな顔をしていたのか。
すぐに意識が途絶えたアクアが知る由もなかった。
――それから三日後。
令嬢から誘われて、アクアは泉へとやって来た。
そこはとある言い伝えのある泉で、村人なら誰も立ち寄らない。
だが、アクアは勘づいていた。
令嬢が何を目的として自分をここへ連れてきたのかを。
言い伝えとは少し違う、泉に関するある噂を知っていたから――。
自分の身におこる顛末を知ってもなお、アクアは何も言わなかった。
令嬢に振り回される日々に、嫌気が差していたアクアは自暴自棄になっていたのだ。
だから泉の前で自分に刃を向ける令嬢に、アクアは何の抵抗もしなかった。
『君と結婚するくらいなら、死んだ方がマシ』
その言葉すらも、偽りのない本音だったから。
間もなくして、アクアは令嬢の手により殺され、その死体は、泉の中へと捨てられた。
相手はアクアが暮らす村の領主である侯爵の令嬢。
アクアは代々、木こりを生業としてきた家系の生まれで、アクア自身も木こりとして仕事に励んでいた。
そんなある日、美しい青年がいると聞いて、一目見てみたいという好奇心から、侯爵令嬢は父親と共にアクアの村を訪れた。
そして案の定、アクアを見た瞬間に令嬢は心を奪われた。
溺愛する我が子から「アクア様と結婚したい!」と強請られ、侯爵は婚約話をアクアに持ち掛けた。
だが、アクアは躊躇する事もなくあっさりと断った。
理由は単純で「好きになれそうにない」と。
それに激怒した侯爵は、アクアを脅し始めた。
娘と婚約しなければ、今後村への支援は一切行わない。
村人たちは仕事を失い、路頭に迷う事になるだろう――と。
さすがに自分のせいで周りの人たちを巻き込む訳にはいかないと、アクアは仕方なく侯爵令嬢との婚約を承諾した。
だが、アクアは一度も令嬢に愛を囁かなかった。
たとえ、「嘘でもいいから……」とせがまれたとしても。
アクアは冷たい眼差しで、「結婚はするが、君を愛してはいない」と告げるだけだった。
アクアは昔から嘘がつけない体質だった。正確には、アクアの家系は皆そうなのだ。
嘘をついてしまった日には、体調が著しく悪くなる。
それを知っているから、アクアは一度も嘘をつかなかった。
一方で、アクアからの愛を拒絶されるたび、令嬢の心は壊れていった。
どんなに求めても得られない欲求は、日に日に激しさを増していった。
一心不乱にアクアの愛だけを求め、アクアに暴力を振るうまでにもなった。
それでも口を硬く閉ざすアクアに、「愛してるって言ってくれないと死んでやるから!」と、令嬢は自らの喉にナイフを突きつけた。
さすがに見かねたアクアは、一度だけ「君を愛してる」と囁いた。
その言葉に、令嬢が歓喜の表情を浮かべた瞬間、アクアはその場に倒れた。
突然の高熱を発症し、その日は一日中起き上がる事もできず、寝込むことになったのだ。
そんな姿のアクアを目の当たりにして、再び令嬢の心は歪み始めた。
「ねえ、そんなに私の事が嫌いなの……?」
朦朧とする意識の中で問いかけられたアクアは、本能のままに告げた。
「ああ、嫌いだ。君と結婚するくらいなら、死んだ方がマシだ」
その言葉を聞いた令嬢がどんな顔をしていたのか。
すぐに意識が途絶えたアクアが知る由もなかった。
――それから三日後。
令嬢から誘われて、アクアは泉へとやって来た。
そこはとある言い伝えのある泉で、村人なら誰も立ち寄らない。
だが、アクアは勘づいていた。
令嬢が何を目的として自分をここへ連れてきたのかを。
言い伝えとは少し違う、泉に関するある噂を知っていたから――。
自分の身におこる顛末を知ってもなお、アクアは何も言わなかった。
令嬢に振り回される日々に、嫌気が差していたアクアは自暴自棄になっていたのだ。
だから泉の前で自分に刃を向ける令嬢に、アクアは何の抵抗もしなかった。
『君と結婚するくらいなら、死んだ方がマシ』
その言葉すらも、偽りのない本音だったから。
間もなくして、アクアは令嬢の手により殺され、その死体は、泉の中へと捨てられた。
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