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side アメリア

先に続く未来

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「アメリア嬢。勝手な事をして、申し訳ありませんでした」

 エドガー王子は申し訳なさそうに表情を落とし、深々と私に頭を下げた。
 あれから私はエドガー王子に抱きかかえられたまま、次々と目の前の景色が切り替わったかと思うと、いつの間にか王城から遠く離れた場所まで移動していた。
 そこで彼は私を地面に降ろし、再び私の目の前で跪いて謝罪してきた。

「いえ……助けて頂き、ありがとうございます。あの、エドガ―王子……いえ、エド。どうして私を助けてくれたのですか? 貴方はどこかの令嬢と駆け落ちしたと聞きましたけど……」
「は……? 駆け落ち? いえ、そんな事は……いや、そういう事になるのかもしれないな」

 エドは何か考える様にブツブツと呟いた後、私に向かってニコッと笑った。

「僕の駆け落ちの相手はあなたですよ。アメリア嬢」
「え……?」

 この人は一体何を言っているのかしら?
 だって、駆け落ちって好き同士の人がやるものでしょ?
 
 エドは真剣な顔を私に向け、左胸に手を当てた。
 その姿は、まるで私に忠誠を誓う騎士の様にも見える。

「アメリア嬢、僕はこれからの人生、この命を貴方の為だけに使います。これまでに経験した貴方の悲しみが、決して無駄なものでは無かったと思える程、僕が貴方を幸せにしてみせます」

「私が……幸せに……?」

 その言葉に、全くピンと来ない。
 だって、私に一番相応しくない言葉じゃない?

 なんでこの人は私にそんな事を言ってくるのだろうか。
 私とは、たった一回しか会ってないでしょ?
 それなのに……なんでこの人の言葉はこんなにも心に響くのだろうか?

 信じたい……この人の言葉を――。

「私、幸せになれるの? 幸せに……なってもいいの?」
「もちろんです。貴方は幸せにならなければいけない」

 エドは立ち上がると、私の左手を取り、私に優しく微笑みかけた。

「例え、この世界が貴方を拒んでも、僕が貴方の居場所を作ります。嫌な雑音が聴こえたら、僕が貴方の耳を塞ぎましょう。貴方に害を与える者が現れたら、僕が貴方の盾になり守ります。貴方の幸せを邪魔する者は、僕が斬り捨てて道を開きましょう」

 まるで恋愛小説に出てくる騎士がヒロインに言うようなセリフ……だけど、エドが真剣なのは伝わってきた。

「貴方が望むものは全て、僕が叶えて差し上げます。アメリア嬢、貴方は今、何を一番に望みますか?」

 私が一番に望むもの? その答えは明白だった。

「誰かに愛されたい……たった一人だけでいい。それだけで十分だから……誰かに愛されてみたい」
 
 その言葉と同時に、私の瞳からは涙が流れ落ちた。
 その涙を、エドは人差し指で優しく拭ってくれた。

「それならもう、叶っていますよ」
「え?」

 エドは、握っていた私の手の甲にキスを落とした。

「アメリア嬢、貴方を愛しています。貴方と一生を添い遂げる権利を、僕に与えてくれませんか? 貴方をこの世界の誰よりも愛し、幸せにすると誓います」

 信じられない……そんな事って……

「本当に……? 私、貴方に愛されているの?」

「僕の言葉に偽りはありません。今は信じられなくても、これから証明してみせます。時間はたっぷりあるのですから」
「だけど私はきっと、一週間後にまた――」
「大丈夫です」

 まるで何を言おうとしているのか分かっているかの様に、エドは私の言葉を遮った。

「だって今日はこんなに晴れているではありませんか。それに僕もいます。必ず貴方を守り通してみせます」

 そうだ。今回はいつもと違う。空は晴れているし、なによりも貴方が側に居てくれる。
 それだけで、何もかもが上手くいくような気がする。

「そうね……貴方と一緒なら、きっと何があっても大丈夫だわ」

 私は今、数年ぶりに希望という言葉を思い出した。
 絶望しか考えられなかった私は今日でおしまい。
 これからは希望を胸に、生きていこう。

「ではアメリア嬢。これから僕と共に、北にあるノース国へ向かいましょう。貴方が住むための家も用意しております。そこで新たな人生を歩むのです。貴方が今度こそ、幸せになる人生を」
「ええ……でも、エド。貴方もよ? 貴方も誰よりも幸せになるの。でないと、私はきっと幸せにはなれないわ」

 私の言葉に、エドは一瞬キョトンとするが、すぐに吹き出して笑った。

「もちろんです。それに僕は、貴方の隣にいられるだけで、誰よりも幸せになれます」

 その言葉に、私の心臓は大きく跳ねた。
 これが噂に聞く『ときめき』というものなのかしら。
 なんだか体も熱くなり、心臓の鼓動がドキドキと煩く騒ぎ出した。
 きっと私が彼を好きになるのに、そんなに時間はかからない。

 私は彼の手に引かれて歩み出した。
 私の道はもう途切れていない。きっと何処までも続いている。そんな気がする。
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