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side 悪役令嬢

二度目の目覚め

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 なんで?確かに私はさっき死んだはず……だって――

 を思い出し、ゾクリと悪寒が走り、ヒュッと息が詰まった。
 冷や汗が頬をつたい、震えが止まらない。

 その時ノック音が聞こえ、ガチャリと扉が開いた。

「公女様、おはようございます。あら? なんだか顔色が悪い様ですけど、大丈夫ですか?」

 見慣れた侍女の顔を見て少し安心したのか、震えは止まっていた。

「あ……大丈夫よ。ちょっと嫌な夢を見ただけだから」
「そうですか。でも今日はきっと良い一日になりますよ。聖女様がついにこの国にやって来られるのですから!」

 今日、聖女が来るですって?

 この国では百年に一度、聖女召喚の義が行われる。
 一年前に召喚された聖女は、この国を守護する存在として、正式な国賓として王城へ迎え入れられた。
 そこで王太子と仲良くなり……まあ、それはもうどうでもいいわ。

 侍女の話によると、聖女はまだこの国には存在しておらず、今日が聖女召喚の儀が行われる日なのだという。

 つまり、一年前に戻っているという事? それともやっぱりあれは、ただの夢だったというの?

 その疑問が解決されないまま、聖女のお披露目会に出席した私は、聖女を見て愕然とした。
 ニッコリと微笑む女性は、あの夢で見た聖女そのものだった。

 もしかしたら、あの夢は未来を予知していたのかもしれない。

 そう思うと同時に、もう一度人生をやり直せるチャンスを頂いた事を、神に感謝した。

 私は夢の内容を思い出しながら、生き残る方法を探した。
 前の時は、聖女は色んな令嬢達から嫌がらせをよく受けていた。
 それらの行為は全て、王太子と仲が良い聖女に嫉妬する私が指示した事だと、周りからは思われていた。

 確かに私は、二人が仲睦まじく過ごす姿を見かける度、激しい嫉妬に苦しめられていた。
 だけど今回は違う。
 王太子への愛情なんて、微塵も残っていない。

 いっそのこと、こちらから婚約破棄してやろうかしら。……ダメね。お父様が許すはずがないわ。それなら、周りの嫌がらせから聖女を守れば、私が聖女を憎んでいないと分かってもらえるかもしれないわ。
 
 私はさっそく行動に移った。
 あるパーティー会場で、彼女の純白のドレスに葡萄ジュースをこぼそうとした令嬢の手を掴み取り、

「ちょうど飲みたいと思っていましたの。持ってきて頂けて嬉しいわ」

 と言って、そのジュースを飲み干した。
 ある時は彼女にひどい罵声を浴びせる令嬢の前に立ちはだかり、
 
「まあ! 色んな言葉を知っていますのね!! でも私には意味がよく分からないから、詳しく説明していただけるかしら?」

 そう問い詰めると、その令嬢は青ざめて何処かへ行ってしまった。

 私は聖女のピンチに決まって現れ、周囲の悪意から彼女を守り続けた。
 けれど、彼女の口からは感謝の言葉ではなく、溜息が漏れた。
 
「悪役令嬢なら、それらしくちゃんと役割を果たしなさいよ……」
 
 ボソりと呟いた彼女の言葉の意味が、私にはよく分からなかった。


 ある日、聖女と二人で階段を降りていた時の事、彼女は突然足を滑らせ、階段から転げ落ちた。
 夢では発生していない筈の出来事に動揺しながらも、私はすぐに助けを呼びに行った。
 幸いな事に大きな怪我はなく、安堵した私は王太子と共に聖女が目を覚ますのを待った。

 そして、私達に見守られながら目を覚ました彼女は、

「誰かに背中を押された」

 と言った。
 あの場所には私と聖女の他に、誰も居なかった。

 次の瞬間、王太子が私に向けた視線――それは夢で見た彼の姿と同じだった。
 私への憎悪を滲ませる様な視線に、血の気が引いていくのを感じた。

 更にその数日後、例の聖女暗殺未遂事件が起こった。
 聖女の眠る部屋に、暗殺者が忍び込み聖女を殺害しようとした。
 ギリギリの所で王太子が駆け付け、聖女は無事だったけれど、取り押さえた暗殺者は私が依頼主だとほのめかしたらしい。

 結局、再び私は祝賀パーティーで婚約破棄され、処刑を言い渡された。

 何も変わらなかった。
 きっと私は死ぬ運命だったのだろう。
 決められた運命に逆らう事なんて出来ない。
 そう自分に言い聞かせた。


 二度目の処刑台。

 今度こそ、本当に私の最期ね。さあ、笑ってみせましょう。大丈夫。予行練習では上手にやれたわ。
 
 ニッコリと笑顔を浮かべた私は首を落とされ、それを喜ぶ大歓声の中で再び人生に幕を降ろした。

 それなのに――


「……なんでなの?」

 再び私は目覚めてしまった。一年前に時を戻して。
 

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