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side 悪役令嬢

一度目の目覚め

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 両手を鎖に繋がれた私は、地下牢から長い階段を登り、日の当たる場所――処刑台へと連行された。
 私の最期の瞬間を見届ける為に、集まった人達からは歓声が沸き起こった。
 誰もが「ざまぁみろ」と指差し、私が死ぬ事を喜んでいる。

 繰り返す世界の中で、私の末路はいつもこの場所。
 それでも私は、最期の瞬間だけは必ず笑顔を見せた。





「そなたとの婚約は、今この瞬間をもって破棄する! そなたが聖女を暗殺しようと企てていた事は分かっている!」

 私にそう告げたのは、このイースト国の第一王子――サルウェル王太子だった。

 今日、私は婚約者の彼が十八歳を迎えた事を祝う、祝賀パーティーに出席していた。
 生憎の大雨に見舞われたけれど、会場内はお祝いムードで賑わいを見せていた。
 本来なら、私は王太子にエスコートされるはずだったのだけど、彼は婚約者の私ではなく、聖女と共に皆の前に姿を現した。
 そして突然、私との婚約破棄を宣言し、身に覚えのない聖女暗殺未遂の罪まで突きつけてきた。

「そなたが聖女暗殺未遂事件の一週間前――」

 王太子は、まだ何か言葉を続けているけれど、会場を打ち付ける雨音が強くなり、何を言っているのかよく聞き取れない。
 パクパクと口を動かす彼の姿を、私は呆然と眺めている事しか出来なかった。

 彼の気持ちが私から離れ、聖女に向いている事には気付いていた。
 でもまさか、本当に婚約破棄されるなんて……
 彼の裏切りにも思える行動に胸が苦しくなり、じわりと涙が浮かんでくる。

「――よって、そなたを極刑に処する!! 一週間後、刑を執行する!!」
 
 更に追い打ちの様に告げられた死の宣告に、ショックと絶望感で頭の中が真っ白になった。
 一週間後に待ち受ける、死という恐怖に体が震え出し、足に力が入らなくなる。
 出来る事なら、今すぐにでもこの場から逃げ出したい。

 だけど――

 無様な姿を見せては駄目。辛くても泣いては駄目よ。胸を張って、背筋を伸ばすのよ。さあ、笑いなさい。

 そう自分に言い聞かせ、必死に涙を堪えた。
 顔を上げ、ドレスのスカートを両手で強く握りしめ、口角を無理やり引き上げた。
 きっと何を言っても今の彼にはもう届かない。どうせ死ぬのなら、せめて笑顔のままで死んでみせる。

 私の顔を見た王太子は一瞬、不満そうな表情を見せたけれど、すぐに控えていた騎士達に私を捕えるよう指示を出した。
 私はその場で拘束され、地下牢へと投獄された。
 

 一週間後――
 処刑台に上がった私は、広場を埋め尽くす程の人々からの歓声と罵声を浴びせられた。

 無実の罪で死ぬ事になるなんて、間抜けな人生だったわね。でも、逃げも隠れもしないわ。私は最期まで、お父様に言われた言葉を守るだけよ。

 指定された位置で床に両膝をついた私は、期待の眼差しで見つめてくる人々に向けて、ニコリと微笑んで見せた。


『王妃となる人間は、人に弱みを見せてはいけない。絶対に人前で涙を流してはならない。どんなに辛くても、笑ってみせなさい』

 公爵家の一人娘である私は、幼い頃からお父様にそう叩き込まれていた。
 お父様は、私に王太子の婚約者として相応しい振る舞いをするようにと、厳しく躾けた。
 私の母親は、もともと体が弱い人で、私を産んで間もなく亡くなった。
 愛妻家と言われていたお父様は時々、私を憎む様な冷たい瞳で見つめていた。
 お父様はきっと、お母様を奪った私を恨んでいる。
 だけどもし、お父様に認めてもらう事が出来たのなら……お父様は私を愛してくれるかもしれない。

 だからお父様に言われた事は、絶対に守らなければいけなかった。


 程なくして、私の首めがけて執行人の剣が振り下ろされ、私の人生はあっけなく幕を閉じた。

 ――はずだった。


「え……?」

 死んだはずの私は、見慣れた自分の部屋で目を覚ました。
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