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勇者としての使命(sideヴァイス)
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リーチェ、僕も同じだよ。
君が僕のそばにいてくれるのなら、他の事なんてどうでもいいんだ。
腕の中で眠る彼女に、転移魔法をかける。転移先は僕達が住む家のベッドの上。
ここを片付けて家に帰ったら、服を着替えさせてあげないと。あとは湯浴みも念入りに。汚い男が触れた服はもちろん処分しないと。忙しくなりそうだから、さっさと片付けてしまおう。
僕が力を解放させると、会場内にいる人間の足元から出現した闇が彼らを包み込む。
「うわああああああ!!!」
「きゃあああああああ!!?」
必死に逃れようとする者も、恐怖で動けず固まっている者も全て、闇は容赦無く飲み込んでいく。
「安心するといい。それは君達を殺しはしない。何処までも続く闇の中で恐怖と苦しみを味わう事にはなるけど、いずれは解放されるはずだよ。その時に正常な精神で保てているかは分からないけどね」
以前にも、リーチェは勇者の女だという理由で目を付けられ、僕の力を悪用しようとする連中に誘拐された事があった。
あの時もすぐに駆け付けた僕が、彼女に危害を加えようとした連中に怒り任せに闇の力を発動させた。
同じ事が二度と起きないよう、一部の人間をわざと生かして、彼女に二度と関わらない様にと徹底的に叩き込んだのだけど、またこんな事が起きるなんてね。
ほんと、役に立たない奴らだな。
その時の出来事も、リーチェの記憶から消しているから彼女は覚えていない。
勇者と一緒にいるから狙われた。それが怖くて僕から彼女が離れていくんじゃないかと、気が気じゃなかった。
僕だけのリーチェ。
彼女の傍にいられればそれで良かったのに。
彼女と一緒に過ごすうちに、僕はどんどん欲が出だした。
彼女の喜びも、悲しみも、怒りも、すべて僕が生み出すものでありたい。
僕が弱っている姿を見せれば、彼女は僕に寄り添い、抱きしめて慰めてくれた。
それが嬉しくて僕は時々、彼女に弱い部分を見せた。
「二人だけで誰も居ない所へ逃げちゃおっか」
リーチェのその言葉を聞いた時、僕は心の中で激しく同意した。
その時の僕は、彼女となるべく長く一緒にいるために、のんびりと魔族を狩りながら勇者としての地位を保っていた。
だけど、もしも二人だけの世界で暮らせたのなら――
ああ、なんて幸せなことだろう。
彼女を誰の目にも触れさせる事無く、僕だけのリーチェに出来るのなら……
そうだ。
それなら、二人だけの世界を作ればいい。
それから、僕は一気に魔王を追いつめ討ち取った。
そして皇帝が一人でいる時に彼の部屋へと侵入し、闇の力を見せつけながら話をした。
皇帝の命令で、僕を誰も寄り付かない離島へ追いやるように命じろ、と。
僕の本当の姿を知った皇帝は、恐怖で顔を歪ませながら、その首を縦に振るだけだった。
優しいリーチェの事だから、そんな話を聞いたら必ず僕と一緒に暮らすと言ってくれるだろう。
その思惑どおり、彼女は僕の為に怒りながら悲しみ、離れたくないと言ってくれた。
予想外の嬉しい告白までしてくれて。
そして彼女と僕、二人だけの世界を作り上げる事に成功した。
全ては僕が望むままに――
「魔王様」
突如聞こえてきたその声と気配にうんざりする。
振り返ると膝をつき、僕の顔色を伺うように見上げる男の姿。赤い瞳を持ち、褐色の肌に尖った耳。人の姿に近いのは、魔族の中でも高位な証。
どうやら強い闇の力を使ったせいで、魔界から魔族を呼び寄せてしまったようだ。
「僕は魔王じゃないって言っただろ」
「あ……すみません。ただ……あの聖剣をなんとかしてもらえませんか……?あれがあると、新しい魔族が生み出せない様で……」
ああ、そういえばそうだった。
魔王を倒したあの日、魔族達は僕を新たな魔王としてひれ伏せた。
だけどそんなつもりは無い。僕に倒されたくなかったらさっさと魔界へ帰れと追い返した。
その時に、折れた聖剣も一緒に魔界へと放り込んだ。ここにあっても邪魔だし、良いゴミ箱を見つけたと思った。
本来なら使えないはずの聖剣を無理やり使っていたせいか、魔王との戦闘中にパキンっと間抜けな音と共に聖剣は折れた。
そのおかげで僕は本来の力を出す事が出来て、魔王をあっさり倒してしまった。
折れた聖剣は力の大半は失っていたが、それでも強力な力を宿していた。
「僕にとってもあれがあると邪魔なんだよね。ちょっとそっちで預かっててよ。僕はリーチェと一緒に居る限り、魔王になる事なんて無いから」
「では、あの女が死んだ暁には――」
「は?」
何?何て言ったんだ?このゴミは?
彼女のいない世界なんて、存在する意味がない。
彼女がいるから、こんな世界でも美しく見えるんだ。
それなのに……。
「そうか……僕とした事が、迂闊だったよ。リーチェと早く二人で暮らしたくて忘れていたよ。勇者としての使命をね」
僕の中で膨れ上がる怒りと共に、魔界への入り口が大きく開き、その先へと僕は降り立った。
「え……?あ、聖剣を回収してくださるのですね!ありがとうございま……いや、絶対そんな雰囲気じゃなかったですよね?魔王さ――」
うるさい奴。僕は魔王じゃないと言ってるだろう。
僕は勇者だ。
だから、魔族は一匹残らず消滅させて、この世界の平和を僕がきちんと守ってあげないとね。
君が僕のそばにいてくれるのなら、他の事なんてどうでもいいんだ。
腕の中で眠る彼女に、転移魔法をかける。転移先は僕達が住む家のベッドの上。
ここを片付けて家に帰ったら、服を着替えさせてあげないと。あとは湯浴みも念入りに。汚い男が触れた服はもちろん処分しないと。忙しくなりそうだから、さっさと片付けてしまおう。
僕が力を解放させると、会場内にいる人間の足元から出現した闇が彼らを包み込む。
「うわああああああ!!!」
「きゃあああああああ!!?」
必死に逃れようとする者も、恐怖で動けず固まっている者も全て、闇は容赦無く飲み込んでいく。
「安心するといい。それは君達を殺しはしない。何処までも続く闇の中で恐怖と苦しみを味わう事にはなるけど、いずれは解放されるはずだよ。その時に正常な精神で保てているかは分からないけどね」
以前にも、リーチェは勇者の女だという理由で目を付けられ、僕の力を悪用しようとする連中に誘拐された事があった。
あの時もすぐに駆け付けた僕が、彼女に危害を加えようとした連中に怒り任せに闇の力を発動させた。
同じ事が二度と起きないよう、一部の人間をわざと生かして、彼女に二度と関わらない様にと徹底的に叩き込んだのだけど、またこんな事が起きるなんてね。
ほんと、役に立たない奴らだな。
その時の出来事も、リーチェの記憶から消しているから彼女は覚えていない。
勇者と一緒にいるから狙われた。それが怖くて僕から彼女が離れていくんじゃないかと、気が気じゃなかった。
僕だけのリーチェ。
彼女の傍にいられればそれで良かったのに。
彼女と一緒に過ごすうちに、僕はどんどん欲が出だした。
彼女の喜びも、悲しみも、怒りも、すべて僕が生み出すものでありたい。
僕が弱っている姿を見せれば、彼女は僕に寄り添い、抱きしめて慰めてくれた。
それが嬉しくて僕は時々、彼女に弱い部分を見せた。
「二人だけで誰も居ない所へ逃げちゃおっか」
リーチェのその言葉を聞いた時、僕は心の中で激しく同意した。
その時の僕は、彼女となるべく長く一緒にいるために、のんびりと魔族を狩りながら勇者としての地位を保っていた。
だけど、もしも二人だけの世界で暮らせたのなら――
ああ、なんて幸せなことだろう。
彼女を誰の目にも触れさせる事無く、僕だけのリーチェに出来るのなら……
そうだ。
それなら、二人だけの世界を作ればいい。
それから、僕は一気に魔王を追いつめ討ち取った。
そして皇帝が一人でいる時に彼の部屋へと侵入し、闇の力を見せつけながら話をした。
皇帝の命令で、僕を誰も寄り付かない離島へ追いやるように命じろ、と。
僕の本当の姿を知った皇帝は、恐怖で顔を歪ませながら、その首を縦に振るだけだった。
優しいリーチェの事だから、そんな話を聞いたら必ず僕と一緒に暮らすと言ってくれるだろう。
その思惑どおり、彼女は僕の為に怒りながら悲しみ、離れたくないと言ってくれた。
予想外の嬉しい告白までしてくれて。
そして彼女と僕、二人だけの世界を作り上げる事に成功した。
全ては僕が望むままに――
「魔王様」
突如聞こえてきたその声と気配にうんざりする。
振り返ると膝をつき、僕の顔色を伺うように見上げる男の姿。赤い瞳を持ち、褐色の肌に尖った耳。人の姿に近いのは、魔族の中でも高位な証。
どうやら強い闇の力を使ったせいで、魔界から魔族を呼び寄せてしまったようだ。
「僕は魔王じゃないって言っただろ」
「あ……すみません。ただ……あの聖剣をなんとかしてもらえませんか……?あれがあると、新しい魔族が生み出せない様で……」
ああ、そういえばそうだった。
魔王を倒したあの日、魔族達は僕を新たな魔王としてひれ伏せた。
だけどそんなつもりは無い。僕に倒されたくなかったらさっさと魔界へ帰れと追い返した。
その時に、折れた聖剣も一緒に魔界へと放り込んだ。ここにあっても邪魔だし、良いゴミ箱を見つけたと思った。
本来なら使えないはずの聖剣を無理やり使っていたせいか、魔王との戦闘中にパキンっと間抜けな音と共に聖剣は折れた。
そのおかげで僕は本来の力を出す事が出来て、魔王をあっさり倒してしまった。
折れた聖剣は力の大半は失っていたが、それでも強力な力を宿していた。
「僕にとってもあれがあると邪魔なんだよね。ちょっとそっちで預かっててよ。僕はリーチェと一緒に居る限り、魔王になる事なんて無いから」
「では、あの女が死んだ暁には――」
「は?」
何?何て言ったんだ?このゴミは?
彼女のいない世界なんて、存在する意味がない。
彼女がいるから、こんな世界でも美しく見えるんだ。
それなのに……。
「そうか……僕とした事が、迂闊だったよ。リーチェと早く二人で暮らしたくて忘れていたよ。勇者としての使命をね」
僕の中で膨れ上がる怒りと共に、魔界への入り口が大きく開き、その先へと僕は降り立った。
「え……?あ、聖剣を回収してくださるのですね!ありがとうございま……いや、絶対そんな雰囲気じゃなかったですよね?魔王さ――」
うるさい奴。僕は魔王じゃないと言ってるだろう。
僕は勇者だ。
だから、魔族は一匹残らず消滅させて、この世界の平和を僕がきちんと守ってあげないとね。
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