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みんなの勇者様
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教会に着くと、同じ様に礼拝する人達が出入りしていた。その人達に混じって、私達も祭壇の前で祈りを捧げた。
この世界に住む、全ての人々がありとあらゆる苦しみから解放され、平穏に暮らせますように……
「あと、私とヴァイスがいつまでも愛睦まじく暮らしていけますように」
「それは僕が約束するよ」
「はぁっ!!!」
こんな時にまでつい本音が漏れていたわ!
顔を上げると、ヴァイスはクスクスと笑いながらこちらを見ている。
「あ、あのね!ちゃんとこの世界の人達の平穏も祈ったわよ!?でもちょこっとだけ自分達の事もお願いしてもいいんじゃないかしら!?」
「大丈夫。ちゃんと分かっているよ。僕も同じことを祈っていたしね」
「え?そうなの?そうよね!よし、じゃあお祈りも終わったし、気を取り直してお買い物するぞぉ!!」
「お待ちください。勇者様」
背後から聞こえたその声に、私の気持ちの熱は一気に氷点下まで下がってしまった。
え?
今、『勇者』って言った?
私は動揺を隠すように、なるベく自然を装って振り返った。そこには何かを期待するような笑みを浮かべた神父が立っていた。その目はやはりヴァイスしか見ていない。
幸いだったのは、ここに私達しかいないこと。
「人違いでは?」
ヴァイスはフードを深く被り、やんわりと神父に言った。
「いいえ。以前に貴方を見たことがあるので間違いありません。命を落としたのではという噂も流れていますが、本当は生きている事も極一部の情報網で知られています。まさかこんな所でお会いするとは。これも神のお導きなのかもしれません」
神父は陶酔する様な笑みを浮かべ、神に感謝するかの様に両手を組んだ。
ヴァイスが勇者として世界を旅した時に、何度この姿を見ただろう。
こういう人達は、だいたい次のセリフが決まっている。
「勇者様、どうか私達を助けてください」
ほらね。
神父はヴァイスに縋るような目線を送り、予想通りのセリフを唱えた。
ヴァイスと旅をしていた時、幾度となく聞いた言葉。
誰もが勇者を見つけては、それいけと言わんばかりに助けを求めてくる。
勇者様は困っている人を放っとけない。
勇者様にお願いすればもう大丈夫。
みんなの憧れ。みんなの希望。みんなの勇者様。
確かに、私も小さい頃はみんなと同じ様に思っていた。
だけど、ヴァイスと旅をしていく中で、その事に違和感を感じ始めた。
ヴァイスだって、一人の人間に違いない。
過度な期待は重く負担に感じることだってある。戦いの中で命に関わるほど深い傷を負う事だって……。
それなのに勇者というだけで、まるで慈愛に満ち溢れた神様がいるかの様に、都合の良いように扱うのね。
本当、みんな自分の事しか考えてないんだから。
……それは私も同じだけど。
ヴァイスは黙ったまま動かない。
神父はヴァイスの反応を待つことなく、話を続けた。
「この街から少し離れた森の中に洞窟があります。そこに生き残りの魔族が潜んでいるのではという噂があるのです。夜な夜な現れて女性や子供達を誘拐すると。事実、ここのところ行方不明者が多くて……。どうか、その洞窟へ行って実態を調査して頂きたいのです」
生き残りの魔族?魔王が倒されて魔族は消滅した筈じゃないの?
でも行方不明者が多いっていうのは気になるわね。
それに、もし本当に魔族が絡んでいるのだとしたら、確かに勇者の力が必要になる。
だけど――
今日はヴァイスがあの島から出られる特別な日。
せっかく羽を伸ばして、恋人らしいデートを楽しめると思ったのに。
……ああ、私ったら。
こんなこと考えちゃ駄目よ。目の前に困っている人がいるというのに!
邪念を振り払い、私はヴァイスをチラリと見上げた。
ヴァイスはどう思っているのだろう?
この人の要求に応えて、人助けに行きたい?
それとも、無視して私とデートを楽しむ?
そんなの決まってるわ。みんなの勇者様だもの。私が独り占めする訳には――
「リーチェ、君は僕にどうしてほしい?」
「え?」
突然言われたその言葉に、私はパチパチと瞬きしながらヴァイスを見上げた。
この世界に住む、全ての人々がありとあらゆる苦しみから解放され、平穏に暮らせますように……
「あと、私とヴァイスがいつまでも愛睦まじく暮らしていけますように」
「それは僕が約束するよ」
「はぁっ!!!」
こんな時にまでつい本音が漏れていたわ!
顔を上げると、ヴァイスはクスクスと笑いながらこちらを見ている。
「あ、あのね!ちゃんとこの世界の人達の平穏も祈ったわよ!?でもちょこっとだけ自分達の事もお願いしてもいいんじゃないかしら!?」
「大丈夫。ちゃんと分かっているよ。僕も同じことを祈っていたしね」
「え?そうなの?そうよね!よし、じゃあお祈りも終わったし、気を取り直してお買い物するぞぉ!!」
「お待ちください。勇者様」
背後から聞こえたその声に、私の気持ちの熱は一気に氷点下まで下がってしまった。
え?
今、『勇者』って言った?
私は動揺を隠すように、なるベく自然を装って振り返った。そこには何かを期待するような笑みを浮かべた神父が立っていた。その目はやはりヴァイスしか見ていない。
幸いだったのは、ここに私達しかいないこと。
「人違いでは?」
ヴァイスはフードを深く被り、やんわりと神父に言った。
「いいえ。以前に貴方を見たことがあるので間違いありません。命を落としたのではという噂も流れていますが、本当は生きている事も極一部の情報網で知られています。まさかこんな所でお会いするとは。これも神のお導きなのかもしれません」
神父は陶酔する様な笑みを浮かべ、神に感謝するかの様に両手を組んだ。
ヴァイスが勇者として世界を旅した時に、何度この姿を見ただろう。
こういう人達は、だいたい次のセリフが決まっている。
「勇者様、どうか私達を助けてください」
ほらね。
神父はヴァイスに縋るような目線を送り、予想通りのセリフを唱えた。
ヴァイスと旅をしていた時、幾度となく聞いた言葉。
誰もが勇者を見つけては、それいけと言わんばかりに助けを求めてくる。
勇者様は困っている人を放っとけない。
勇者様にお願いすればもう大丈夫。
みんなの憧れ。みんなの希望。みんなの勇者様。
確かに、私も小さい頃はみんなと同じ様に思っていた。
だけど、ヴァイスと旅をしていく中で、その事に違和感を感じ始めた。
ヴァイスだって、一人の人間に違いない。
過度な期待は重く負担に感じることだってある。戦いの中で命に関わるほど深い傷を負う事だって……。
それなのに勇者というだけで、まるで慈愛に満ち溢れた神様がいるかの様に、都合の良いように扱うのね。
本当、みんな自分の事しか考えてないんだから。
……それは私も同じだけど。
ヴァイスは黙ったまま動かない。
神父はヴァイスの反応を待つことなく、話を続けた。
「この街から少し離れた森の中に洞窟があります。そこに生き残りの魔族が潜んでいるのではという噂があるのです。夜な夜な現れて女性や子供達を誘拐すると。事実、ここのところ行方不明者が多くて……。どうか、その洞窟へ行って実態を調査して頂きたいのです」
生き残りの魔族?魔王が倒されて魔族は消滅した筈じゃないの?
でも行方不明者が多いっていうのは気になるわね。
それに、もし本当に魔族が絡んでいるのだとしたら、確かに勇者の力が必要になる。
だけど――
今日はヴァイスがあの島から出られる特別な日。
せっかく羽を伸ばして、恋人らしいデートを楽しめると思ったのに。
……ああ、私ったら。
こんなこと考えちゃ駄目よ。目の前に困っている人がいるというのに!
邪念を振り払い、私はヴァイスをチラリと見上げた。
ヴァイスはどう思っているのだろう?
この人の要求に応えて、人助けに行きたい?
それとも、無視して私とデートを楽しむ?
そんなの決まってるわ。みんなの勇者様だもの。私が独り占めする訳には――
「リーチェ、君は僕にどうしてほしい?」
「え?」
突然言われたその言葉に、私はパチパチと瞬きしながらヴァイスを見上げた。
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