【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月

文字の大きさ
上 下
6 / 46

未来を奪われた者と手に入れた者。

しおりを挟む
「アドニスのお陰で、あの愚か者をこの家に入れなくて済みましたわね」

ミルフィリアとゼウリスの婚約が整うと、ローレルがオルセウスに話しかけた。
妻の言いたい事が分かるオルセウスは冷たい笑みを浮かべ、外に目を向けた。

前の時は、8歳のミルフィリアとアルレスの婚約が整った時、トーラス家の後継者として親族から養子を迎えた。
だが、そいつはミルフィリアを大切にするよう命じたのに、アルレス達と一緒にミルフィリアを断罪する側に回り、オルセウスはミルフィリアが投獄された時、そいつを斬り捨てた。

名前も思い出したく無いそいつは、今頃何処からも養子の話などない貧乏子爵の三男として地を這うような生活をしているだろう。

「アルレス殿下や偽聖女はこれからにするが、ミルフィリアを断罪した者達は辛酸を舐めて貰うよ」

義兄予定だった男は既に排除した。
後はアルレスの側近になる男2人。
護衛騎士と宰相令息だ。

「あら、ゼウリス殿下が王太子となられるのですから、あいつらの出番は無いのでは?」
「無くとも潰す」

前の時は王太子となる為、側近も実力のある身分の高い者で固められていたが、今のアルレスは影が薄く王族の、血のスペアと言う立場しかない。
なので、アルレスの側近は、厳選されず既にオルセウスの息が掛かった者が就いている。

「護衛騎士になる予定だった者には、既にオスカーが手を回しております」

オスカー。
幼いミルフィリアに命を救われ、時を巻き戻す時、聖女の杖を教会から盗んで来てミルフィリアのために命を落とした。
平民だが、魔力も強く剣も使える彼をオルセウスは騎士団に送り込んでいた。

「オスカーならば、貴族のプライドばかり強く、剣もたいして使えないアイツを蹴落とすのは造作も無いだろう」
「そんな者が、良く王族の護衛騎士になれたものね」
「騎士団も腐ってたんだよ」

愚か者の伯爵令息はそろそろ騎士団から追放されるに違いない。

「貴様」
「模擬試合で、手を抜けとは笑えますね」

折れた剣を握りながら尻餅をついて自分を睨む男を、オスカーは冷ややかに見下した。

ついさっき、騎士団の昇進試験でもある模擬試合で、貴族の自分に華を持たせろ、と言ってきた阿呆を一切の手心を加えず、叩きのめしていた。

「やれやれ、戦場では貴族だからと言って敵は手加減などしない。むしろ、貴族を討てば褒賞が出るから、率先して狙うだろうに」

立会人として模擬試合を見ていたポセイダスの呆れた声に、地べたに座り込む男は唇を噛んだ。

「ポセイダス王弟殿下の仰る通りだ。お前は一兵士から出直せ」
「そ、そんな……。お慈悲を」

唇を噛んでいた男が青褪めた顔を上げ、震えながら騎士団の指導教官の足にしがみ付いた。

折角、金やコネで騎士団に入れたのに、兵士に戻れば馬鹿にされるし、相当努力しなければ騎士団に戻る事など出来ない。

「教官。騎士団はいつの間に金やコネがものを言う様になった?」

ポセイダスの言葉に、教官達は青褪める。
王弟に賄賂が横行しているなど思われたら、国王の不評を買い、自分達も立場を失う総入れ替えもあり得る。

「お恥ずかしい話ですが、身分のあるもの達の驕りは我らも困っております」

指導教官でも平民出のものに対して、身分のあるもの達は指示を聞かない、と教官達は苦い物を噛んだ様な顔をした。

「やれやれ困ったものだ。剣の強さや騎士としての誇りは身分に準ずるものでは無い。君、名前は?」
「オスカーです。ポセイダス王弟殿下」

抜き身の剣を鞘に戻し、騎士の礼を取るオスカーはまごう事なき、凛々しい騎士の姿。

「まだ荒削りだが、良い腕だ。アルレス殿下が学園在学中は殿下の護衛官となり、殿下が卒業されたら王太子となるゼウリス殿下の護衛官になるがいい」

王族の護衛官は騎士でも花形な役目。
まして王子だけでなく、王太子の護衛官になれば、身分は騎士団の中でも高く、平民出の騎士だけで無く、全ての騎士にとっては憧れの存在だ。

目の前のオスカーはポセイダスからアルレスの護衛官として実績を付けた後、王太子の護衛官になる事を約束された。
平民出身の騎士では、異例の大抜擢である。

「有難きお言葉。これからも精進いたします」

オスカーは、ポセイダスに目だけで頷いた。
時が巻き戻されてから、進む方向が変わり、あの時とは違う日々が着実に進み始めている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...