【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月

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ミルフィリアの新たな過去。

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時を少し戻し、オルセウス達が暗躍している時、もう1人の当事者であるミルフィリアの話をしよう。

ミルフィリアが8歳になった頃、ゼウリスの病気が完治した後、快気祝いのお茶会で初めてゼウリスと顔を合わせた。

「ご回復、心よりお祝い申し上げます」
「ありがとう。トーラス侯爵令嬢。少し歓談でも?」

ゼウリスは高位貴族の令嬢であるミルフィリアに儀礼的に声を掛けた。

「お言葉、ありがとうございます。ですが、本日は挨拶だけで失礼いたします」

他の令嬢達はゼウリスと言葉を交わせる機会を逃すまい、とやや食い気味に頷いていたが、ミルフィリアは綺麗なカーテシーをするとすぐにゼウリスの前を離れた。

回復したとは言え、艶が戻らない淡い金髪や力の無い水色の瞳を見れば、病み上がりでまだ体が辛いゼウリスに負担をかけない様、挨拶の後は他の令嬢達の様にまとわりつく事はしないで、ただ、心から回復を祝った。

その優しい心使いに、ゼウリスはミルフィリアに関心を持って、その後のお茶会では他の令嬢達よりも少しだけ親密にしていた。

その数年後、側妃エロイアの不貞が発覚した事故などで、ゼウリスの異母兄妹のアルレスとテーミスが辛い立場に立たされた時、ゼウリスより3つも年が下で、12歳になったばかりのミルフィリアは彼女達を庇った。

「わたくしはテーミス殿下と親しくなりたいのです」

宮廷で大きな権力を持っていた側妃と言う大きな後ろ盾が無くなった彼らと親しくしても得にならないから、と手のひらを返す者達に傷付いて、癇癪を起こしていたテーミスは、自分の手を取り優しい眼差しをくれるミルフィリアを本当の姉の様に慕い、そんなミルフィリアをゼウリスは婚約者にしたい、とクロイヤス陛下に頼んだのだ。

「ミルフィリア。優しく気遣いのできる貴女を妃にしたい。父上にもそう願いを出した」
「まあ、素敵。ミルフィリア様がお義姉様になって下さるなら、わたくしとても嬉しいわ」

ゼウリスの突然の申し出に戸惑っているミルフィリアにテーミスが嬉しそうに抱き付いた。

「それに、アドニスが居るからトーラス家もミルフィリアの輿入れを悩むことも無いだろ」

ゼウリスから8歳下の弟の名前を出され、ミルフィリアがフワッと笑った。

「まだ幼いのに、アドニスはトーラス家は僕が守るって言っていますの」

弟が可愛くて仕方ないのだろう。
ミルフィリアの笑顔にテーミスやゼウリスも和んだ笑みを浮かべた。
燃えるような恋ではないが、きっと穏やかで温かい夫婦になれる、そんな思いがゼウリスの胸を占めていた。
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