1 / 46
何故、彼女が死ななければならないのだ。
しおりを挟む
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
血を吐く様な主人の声に、周りの者達は唇を噛む。
多少我儘だったが、人を虐げたり蔑んだりしたことがない彼女、ミルフィリアが、聖女を殺そうとするなんてあり得ない。
だが、ミルフィリアの婚約者であった、第二王子は彼女を魔女と罵り、法廷に立つ事もなく絞首刑にした。
刑場から引き取った亡骸を前に、彼女の父、オルセウスは滂沱の涙を流し、家族や家臣達は項垂れている。
「旦那様。一族の秘術で彼女を、ミルフィリアを取り戻しましょう。まだ間に合います」
失意のどん底に居る夫に、妻、ローレルは禁呪である一族の秘術を使おう、と言った。
時の神クロノスの血を引くトーラス侯爵家は強い魔力を持つ。
王家にも知られていない秘術の中に、時を戻す秘術がある。
「そして、あの憎い奴らに鉄槌を……」
愛らしかった娘の、たった数日で痩せてボロボロになった髪や頬を撫で、ローレルは憎い奴らが住む王城を睨んだ。
時を巻き戻す秘術は、トーラス侯爵家の直系だけが使える秘術。
現段階で使えるのはオルセウスだけ。
しかも一度切りの術。
代償も大きいが、オルセウスは迷う事なく頷いた。
「閣下、聖女の杖を持って参ります」
家臣の1人が素早く跪いた。
「聖女の杖?何の役に立つ?」
「あれは術者の力を増幅させる物、と聞いた事があります」
嫌な仮説が皆の頭をよぎった。
「あの女、もしかすると……」
「今はあの女の事よりミルフィリアを優先しましょう」
ローレルの苦しげな声に、オルセウスは頷いた。
家臣は、教会の秘宝である聖女の杖をあっという間に持ってきて、オルセウスに渡した。
「私は、ミルフィリア様に命を救われました。この御恩を返す為ならこの命、惜しくありません」
突然、血を吐き、倒れる家臣はそのまま息を引き取った。
「ミルフィリアの為に……。オスカー、お前も、ミルフィリアと共に助けるぞ」
オルセウス達はミルフィリアの亡骸と家臣を魔法陣の中に寝かせた。
「閣下、少しお待ちを」
メイドのサラが、聖女の杖を持って跪いた。
「なんだ」
「精霊様が嘆いてます」
サラはメイドではあるが、一族の1人である為、彼女も強い魔力を持つ。
「杖に宿る精霊様が、お嬢様の死を嘆いてます」
「杖の精霊殿は全てを知っているのだな」
「はい。とても深く嘆いてます」
精霊の声が聞こえる彼女は、泣きながら精霊の声を伝えた。
『何故、私欲に使われなければならないの?私は民の痛みや苦しみを和らげる為に力を貸しているのに』
精霊の深い嘆きと言い表せない怒りを感じ、オルセウスは問い掛けた。
「杖の精霊殿、我らに力を貸してくれ。無実の娘を助ける為、時を巻き戻したいのだ」
精霊の姿はみえないが、深く考え込んでいるのか、暫く声を感じられなかったが納得したのか、静かな声が響いた。
『……貸しましょう。貴方の娘が無実である事は、私が1番知っている』
「有難い。10年時を巻き戻し、あいつらの欲望を全て潰してやる」
『ならば、もし私があの女の手に渡ったら油断させる為、力を最初のひと月だけあの女に貸し、それ以降は沈黙を守りましょう』
あの女が聖女として迎えられるのは、ミルフィリアが処刑される一年前。
それまでは、心正しい聖女様が居る。
「あの方も、ミルフィリアが処刑される一年前にご病気で……。お救いしよう。同じ未来を引き寄せない為にも」
オルセウスの提案に精霊が歓喜する。
『なんて素晴らしい。では、トーラスの秘術を……。貴方の力を高め、こんな世界、来ぬように全てを塗り替えましょう』
精霊の力を借り、オルセウス達は領地に戻りミルフィリア達を救う為、10年分の記憶と共に時を巻き戻した。
その間、王都で騒ぎがあったようだが、オルセウス達にとっては関係の無い騒ぎだった。
血を吐く様な主人の声に、周りの者達は唇を噛む。
多少我儘だったが、人を虐げたり蔑んだりしたことがない彼女、ミルフィリアが、聖女を殺そうとするなんてあり得ない。
だが、ミルフィリアの婚約者であった、第二王子は彼女を魔女と罵り、法廷に立つ事もなく絞首刑にした。
刑場から引き取った亡骸を前に、彼女の父、オルセウスは滂沱の涙を流し、家族や家臣達は項垂れている。
「旦那様。一族の秘術で彼女を、ミルフィリアを取り戻しましょう。まだ間に合います」
失意のどん底に居る夫に、妻、ローレルは禁呪である一族の秘術を使おう、と言った。
時の神クロノスの血を引くトーラス侯爵家は強い魔力を持つ。
王家にも知られていない秘術の中に、時を戻す秘術がある。
「そして、あの憎い奴らに鉄槌を……」
愛らしかった娘の、たった数日で痩せてボロボロになった髪や頬を撫で、ローレルは憎い奴らが住む王城を睨んだ。
時を巻き戻す秘術は、トーラス侯爵家の直系だけが使える秘術。
現段階で使えるのはオルセウスだけ。
しかも一度切りの術。
代償も大きいが、オルセウスは迷う事なく頷いた。
「閣下、聖女の杖を持って参ります」
家臣の1人が素早く跪いた。
「聖女の杖?何の役に立つ?」
「あれは術者の力を増幅させる物、と聞いた事があります」
嫌な仮説が皆の頭をよぎった。
「あの女、もしかすると……」
「今はあの女の事よりミルフィリアを優先しましょう」
ローレルの苦しげな声に、オルセウスは頷いた。
家臣は、教会の秘宝である聖女の杖をあっという間に持ってきて、オルセウスに渡した。
「私は、ミルフィリア様に命を救われました。この御恩を返す為ならこの命、惜しくありません」
突然、血を吐き、倒れる家臣はそのまま息を引き取った。
「ミルフィリアの為に……。オスカー、お前も、ミルフィリアと共に助けるぞ」
オルセウス達はミルフィリアの亡骸と家臣を魔法陣の中に寝かせた。
「閣下、少しお待ちを」
メイドのサラが、聖女の杖を持って跪いた。
「なんだ」
「精霊様が嘆いてます」
サラはメイドではあるが、一族の1人である為、彼女も強い魔力を持つ。
「杖に宿る精霊様が、お嬢様の死を嘆いてます」
「杖の精霊殿は全てを知っているのだな」
「はい。とても深く嘆いてます」
精霊の声が聞こえる彼女は、泣きながら精霊の声を伝えた。
『何故、私欲に使われなければならないの?私は民の痛みや苦しみを和らげる為に力を貸しているのに』
精霊の深い嘆きと言い表せない怒りを感じ、オルセウスは問い掛けた。
「杖の精霊殿、我らに力を貸してくれ。無実の娘を助ける為、時を巻き戻したいのだ」
精霊の姿はみえないが、深く考え込んでいるのか、暫く声を感じられなかったが納得したのか、静かな声が響いた。
『……貸しましょう。貴方の娘が無実である事は、私が1番知っている』
「有難い。10年時を巻き戻し、あいつらの欲望を全て潰してやる」
『ならば、もし私があの女の手に渡ったら油断させる為、力を最初のひと月だけあの女に貸し、それ以降は沈黙を守りましょう』
あの女が聖女として迎えられるのは、ミルフィリアが処刑される一年前。
それまでは、心正しい聖女様が居る。
「あの方も、ミルフィリアが処刑される一年前にご病気で……。お救いしよう。同じ未来を引き寄せない為にも」
オルセウスの提案に精霊が歓喜する。
『なんて素晴らしい。では、トーラスの秘術を……。貴方の力を高め、こんな世界、来ぬように全てを塗り替えましょう』
精霊の力を借り、オルセウス達は領地に戻りミルフィリア達を救う為、10年分の記憶と共に時を巻き戻した。
その間、王都で騒ぎがあったようだが、オルセウス達にとっては関係の無い騒ぎだった。
172
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~
キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。
事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。
イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる
どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。
当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。
どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。
そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。
報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。
こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
【完結】婚約破棄された聖女はもう祈れない 〜妹こそ聖女に相応しいと追放された私は隣国の王太子に拾われる
冬月光輝
恋愛
聖女リルア・サウシールは聖地を領地として代々守っている公爵家の嫡男ミゲルと婚約していた。
リルアは教会で神具を用いて祈りを捧げ結界を張っていたのだが、ある日神具がミゲルによって破壊されてしまう。
ミゲルに策謀に嵌り神具を破壊した罪をなすりつけられたリルアは婚約破棄され、隣国の山中に追放処分を受けた。
ミゲルはずっとリルアの妹であるマリアを愛しており、思惑通りマリアが新たな聖女となったが……、結界は破壊されたままで獰猛になった魔物たちは遠慮なく聖地を荒らすようになってしまった。
一方、祈ることが出来なくなった聖女リルアは結界の維持に使っていた魔力の負担が無くなり、規格外の魔力を有するようになる。
「リルア殿には神子クラスの魔力がある。ぜひ、我が国の宮廷魔道士として腕を振るってくれないか」
偶然、彼女の力を目の当たりにした隣国の王太子サイラスはリルアを自らの国の王宮に招き、彼女は新たな人生を歩むことになった。
どうやら我が家は国に必要ないということで、勝手に独立させてもらいますわ~婚約破棄から始める国づくり~
榎夜
恋愛
急に婚約者の王太子様から婚約破棄されましたが、つまり我が家は必要ない、ということでいいんですのよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる