[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します

紅月

文字の大きさ
上 下
25 / 38

攻略対象者脱落 3人目です

しおりを挟む
教師ゼノビスは震えていた。

学会から突然の呼び出しに、首を捻っていたが新しい論文はまだか、と言われるだろうと思っていた。

「あいつ、最近怠惰だな。戻ったら書かないと婚約しないと脅すか」

ぶつぶつ悪態を叩きながらも、会議室の前で服の乱れを直し、ノックをした。
学会が使う会議室に入ると、其処には重鎮達が勢揃いして、入って来たゼノビスを一斉に睨んだ。
しかもこの場に、アンナ・カドニスも居る。後ろ暗いゼノビスにとって居心地の悪い空間になっていた。

「会長、今日は何の集まりですか?」
「サイモン・ゼノビス。この恥知らずが。学者の命とも言える論文を盗むとは、呆れてものも言えん」

挨拶もなしに会長が怒鳴り付けた。

「ひっ」

会長の怒鳴り声にゼノビスは、青褪めるどころか血の気を失い白い顔でガタガタ震え始めた。


昨日、ゼノビスの名前で出されていた全ての論文の真偽の結果が学会に提出され、事実が白日の下に晒された。

ゼノビスが糾弾されるのは当然だ。
今まで学会に出した全ての論文は、ゼノビスの名前で出したが、実際は婚約話をちらつかせてアンナに書かせていた物だ。

ばれる事は絶対無い、と侮っていたが様々な証拠を積み上げている学会の重鎮達の厳しい視線に冷や汗が止まらない。

「む、無名の者の論文は多くの方の目に止まらないと思い……」
「学会に籍を置くものは、例え無名の者の論文でも自分の専門分野の論文には必ず目を通す。それに、あれ程画期的で有用な論文なら分科会で無名の新人を引き上げることもする」

重鎮の1人が苛立ちながらゼノビスの言葉を遮った。

「全く。君は学会の権威に泥を塗った。除名処分でも足りないくらいだ」

会長の顔が、恐ろしくて見れない。
ずっとガタガタ体が震えて、立っているのがやっとだ。

「カドニス君。君には謝罪の言葉も見つけられぬ程申し訳ない事をした。こいつが出した論文は、全て君の名前で再提出され、受理された」

会長の言葉に、学園の図書室の司書をしているアンナの目からポロポロと涙が流れる。

「……私も、学者として登録されるのですか?」
「勿論だ。薬草学の期待の新人として。君の活躍を心から期待している」

アンナ・カドニス博士の誕生に、学会のメンバー達から拍手が湧き上がった。

「お前、いつ迄其処に居るつもりだ?此処は学会の関係者以外立ち入り禁止だ。即刻立ち去れ」

とうとうへたり込んでしまったゼノビスを会長は冷ややかに一瞥し、追い払うように手を振った。

「アンナ……」

ゼノビスが縋るようにアンナを見たが、アンナは涙を拭いてからニコッと微笑み

「私、もうマークさんと言う素敵な婚約者が居るの。喜んで、貴方が大好きなアズサ様の側にべったり付いても、もう文句は言いませんから」

と、言って背を向けた。



「アンナさんの精油って、すごくリラックス出来るのね」

ダナエがハンカチに染み込ませたラベンダーの香りを堪能しながら、微笑んだ。

「枕元に香りを置くと、安眠もできます」

ターニャが精油の入った瓶を大切そうに両手で持ち、うっとりしている。

「ロレンス商会で販売を始めました」

アンナがにこにこしながら紅茶を淹れると、2人がクスクス笑い出す。

「きっと今頃、ラティナ様アワアワしてますでしょうね」
「普段は冷静なのに、極度の緊張屋さんですもの」
「ラベンダーの香油はお役に立てたでしょうか?」

ついさっき、拉致される様にバロー公爵家の馬車に乗せられて行ったラティナを思い出して3人はまたクスクス笑い出す。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...