[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します

紅月

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あんな人は忙しくしていればいい

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1ヶ月後
バロー公爵邸では、華やかな夜会が開かれている。

若干、主催のバロー公爵家の皆さんにもみくちゃに構われたが、其処は想定内なのでラティナの笑顔は崩れる事はなかった。
だけど今は、ラティナは内心うんざりしているが、表情筋は通常運転で淑女の笑みを浮かべている。

それもそのはず。会場にラウル伯爵が居る。しかも今、ラティナは彼と踊っているのだから。

女っ気のない氷の宰相、と呼ばれる彼がダンスのリードが取れるのか?と始めは心配したが、一歩踊り出しただけで余計なお世話だった事に気がつく。

女性を美しく見せる事に慣れた、腹が立つほど完璧なリード。
ラティナの白いデビュー用のドレスがまるで花のように広がり、多くの人達が2人のダンスに見惚れていた。

「ラウル伯爵がいらっしゃるとは思いませんでした」
「レナード王太子殿下の側近となった、カイン卿の最愛の妹の君の社交界デビューを私も祝おうと思ってね」

精神的にはアラサーだが、見た目はやっと15歳になったラティナに対して、妻も婚約者も居ないが30過ぎの男が過干渉では?とさえ思える。
ロリコン、と言う言葉がこの世界にあるか疑問だ。

それにこの夜会でバーナードの取り巻きでもある、攻略対象の顔を見つけたラティナは彼らに接触をしようとしていた所を邪魔されて、少々苛立ってもいる。

エメリアからだいたいのことは聞いているし、情報も持っていたが、実際顔を見て、会話してからこれからの対策を考えるつもりだった為、この好機を利用する気満々だったのに。
ラウル伯爵の出現で、完全に出鼻を挫かれている。

「……君の目が追っているのは、マテウス君、タイロン君にゼノビス君か。婚約者や恋人が居る連中ばかりだな」

些細な目の動きまで把握する観察力に脱帽だが、結婚相手を探しているわけでは無い。
しかも高位貴族の令息達を、君付けで呼ぶとは、些か高慢だ。

「良くない噂を聞きましたので」

この場合、言いたい事や多少の思惑はあるが、ラウルから情報が引き出せたらラッキー、くらいの気持ちで商会に入った情報を少し口にした。


騎士団長令息マテウスは比較的がっしりした体型で、騎士になる為の訓練はサボっていない様だ。
だが、婚約者のターニャ・ロイド伯爵令嬢を完全に馬鹿にしている。

ターニャ・ロイド伯爵令嬢も剣の才能があり、将来は女性騎士として王太子妃や王妃の警護を担える、と思われていたのにマテウスが彼女の未来を閉ざした。

理由が自分より剣が強くならない為、女は家に居ろと言う酷く身勝手な理由だ。

「王家を馬鹿にしているのか?」
「王家への忠誠心より己の見栄が大切なのでしょう」

ラウル伯爵が宰相としての顔でマテウスを睨んだ。

「それからタイロン君は?」

話を振られ、ラティナがため息と一緒にタイロン・シギーサ侯爵令息の噂を話し始めた。


派手好きなシギーサ侯爵家が突然、メルシアン公爵家の令嬢、ダナエ・メルシアンとの婚約を強引に迫っているらしい。

格下で接点など欠片もなかったのに、何故?と思う者達も居たが、令嬢の命の恩人なのだから、と押し切ろうとしているようだ。

「命の恩人?」
「メルシアン公爵令嬢は子供の頃、誘拐されそうになったことがあり、その時シギーサ侯爵令息が助けた、と言っているそうです」
「本当か?」
「さぁ?ですがシギーサ侯爵家は派手好きですから、裕福なメルシアン公爵家からの援助が欲しいでしょうね」

音楽も人の声も聞こえてくる筈なのに冷静なラティナの声だけが、ラウルの耳に聞こえてくる。

「お相手、ありがとうございます」

ハッと意識が現状を思い出した。

「その噂、本当か?」
「さぁどうでしょう?商会に入る情報は玉石混合の物ですから」

ラティナが別れ際にクスッと笑う。

ロイド伯爵家やメルシアン公爵家は王太子に近い家。彼らの情報は放置するのは危険だ、と言いたげだ。

「全く。君は読めない人だね」
「女はミステリアスな生き物ですわ」

そう言い残してラティナはデビューの為の白いドレスをふわりと摘み、別れの挨拶をしてダンスフロアから出て行った。



「ラティ、何故あの情報を?」

帰りの馬車の中、カインが訝しげにラティナを見た。

あの後、ラウルのせいで全く攻略対象の令息達に話し掛けられず、ラティナはパーティー会場のバロー公爵家を後にした。

「あの2人は爵位が高いので、いくら商会でも調べ切れません。王家が大切な宰相様でしたら、って思いましたの」

向かいの席に座り艶然と微笑むラティナが自分より歳上に見えるが、すぐに年相応の笑顔を見せた。

「私、あの方がお兄様を過小評価した事、まだ怒ってますもの」

ラウル伯爵がカインを侮った事を聞いた時、ふふふと黒いモノを滲ませて笑ったラティナの顔を思い出し、カインは思わず目を逸らした。

「あんな人、忙しくしていれば良いのです」

可愛いらしく、ツンと横を向くラティナの綺麗なピンクの髪がさらりと肩からこぼれた。
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