[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します

紅月

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崖っぷちの王太子様

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開いた扉の前には身を屈め、鍵穴から中を覗こうとしている男がおり、男が何かを言う前にラティナが襟首を掴むと部屋の中に引き摺り込んだ。

「いくら崖っぷちでもやっていい事じゃ無いですよ。もう少し上手く対処して下さい」

完全に呆れているラティナだが、やっている事は油断していたとは言え、大の大人の男を片手で引き摺るのだから、並の令嬢では無い。

「誰だお前は」

呆れるラティナと驚くバロー公爵の姿にラウル伯爵がため息をついた。

「彼はレナード王太子殿下の子飼いです」

ラウル伯爵の言葉にバロー公爵もため息を吐く。

「王太子殿下は何故?」
「崖っぷちですからね」

ラティナの言葉にバロー公爵とラティナに襟首を掴まれている男が驚いた顔をした。

「崖っぷち、とは上手い表現ですね」

ラウル伯爵は、妙に納得した顔で頷いている。

レナード王太子殿下。
ユーシスとよく似た明るい金髪に蒼い瞳をした、少し華奢な青年。

一昨年お亡くなりになった王妃の息子で、20歳の時王太子となったが、亡くなった母親が伯爵家なので強い後ろ盾が無く王家の中でも立場が弱い。
執政者としては若干詰めが甘いが、有能で勤勉な方だと聞いている。

「きっとバロー公爵閣下のもとにラウル伯爵が訪問した、と聞いて慌てたのでしょう」

宰相のスケジュールなんて分刻みの忙しさだろうから、バロー公爵家に来る時間を捻出する為、かなり調整が必要だ。

「ま、王太子殿下の子飼いにロレンス男爵令嬢の兄がいるので、そちらから情報が漏れたのでしょう」
「兄が!」

ラティナが驚いた顔で、ラウル伯爵を見た。途端にラウル伯爵が笑い出した。

「ロレンス男爵令嬢でも把握していない事があるんですね」

爆笑するんじゃない。
私は神様じゃ無いんだから、物事を全部把握なんて無理ですって。

「レナード王太子殿下も人を見る目はしっかりされているようだ」

バロー公爵閣下が頷いているが、王太子の子飼いに男爵家の者を使うのって大変なのか?

「愚か者は爵位でしか人を見ないものが多い。その点、レナード王太子殿下は大丈夫のようですね」

ラウル伯爵も満足げに頷いている。
良く分からないけど、お兄様が重用されるのは良い事です。

「それで、ロレンス男爵令嬢はこれからどうするつもりですか?」
「このままエメリア様のお側で、バーナード殿下の暴挙からお守りしようかと思っております」

ラウル伯爵の質問に淡々と答えたが、ラウル伯爵が一瞬、ニヤッと笑ったのは気の所為か?

「そうか。では、彼の身柄は私に預けてくれ」

冷や汗を流している覗き見君は、縋るように私を見るけど、このメンバーで助けてるなんて出来ませんって。
私だって緊張で胃が痛いのに。

「では、私はこの辺でお暇を。バロー公爵閣下、出過ぎた事を口にし、申し訳ありません」
「いや。良い提案だった。ロレンス男爵令嬢、君には期待しているよ」

覗き見君をラウル伯爵に渡し、謝罪の言葉を口にすれば、バロー公爵閣下は機嫌良く顔は笑っているが、目は笑ってなかった。
怒らせてしまったかな?
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