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私、お人好しでは無いので
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「キュビック・ジルコニア。ラスティックに逃げ込んでいたジルコニアの生き残りだな」
ユーリ・ジルコン宰相閣下が怒りに拳を震わせている。
ジルコニア。
50年ほど前、ウィリアム陛下がまだ王太子殿下だった時、王国を乗っ取ろうとした悪人達が確かそんな名前だった。
我欲の為、ジルコン家を乗っ取り、イザベル王妃陛下を失脚させるだけで無く、ウィリアム陛下さえ暗殺しようとした罪で、一族は断罪され、根絶やしにされた筈だ。
その一族の生き残りとは、まさに亡霊の様ですね。
ですが、足はあるので亡霊では無いですし、既に身元は調べ上げられている様です。
「キュビック・ジルコニア?初めて聞く名前ですね」
パール公爵が冷ややかに取り押さえられている男を見る。
「こいつはジルコニアの嫡男が外で作った愛人の子供の子。嫡男の孫にあたる。本当かどうか知りませんがね」
ユーリ様が拳を握り締めながらパール公爵に正体を説明しているのですが、愛人の孫?一族再興の為に担ぎ出すにしても随分血統の怪しい人ですね。
「なるほどな。ジルコニアと決別し、努力してきたダスト家、タガー家を陥れ国の中枢に返り咲こうとしていたのか」
ウィリアム陛下の言葉に化けの皮が剥がれたキュビック・ジルコニアが歯が砕けるほど歯軋りをしている。
「我が下僕よ。敵を根絶やしにしろ」
誰に向かって言っているのだろう。
王宮の衛兵達がサッと剣に手を伸ばし、辺りを伺った。
だが、誰も動かず何も起きなかった。
「何故、我輩に力を貸さない」
ロイドの仮面が外れたキュビックが驚愕の表情でマリアーナを見た。
のっぺりした顔は驚愕していてものっぺりしている、と一瞬呑気な事を考えてしまいました。
いけない、思考がぶれてしまった。気を取り直しましょう。
「力を貸す?冗談を言わないでください。国を傾ける片棒なんて担ぐ気はありません」
マリアーナの赤紫に輝く瞳が真っ直ぐ、床に押し付けられている男を見ている。
「お前は我輩の下僕に……」
「5つのうち3つは解きましたが、残りは放置してあります」
キュビックが叫ぼうとしたが、指を3本立てたマリアーナの言葉に青褪めた。
「なんの話かな?」
ウィリアム陛下がゆっくりと壇上から降り、マリアーナに説明を求めた。
「魔法陣は、基本である五角形の星を描かなければ、如何なる強力な魔法陣も発動しません」
マリアーナが指先で簡単な五芒星を描くと、小さな光が灯った。
「この男は私に5人の人間に掛けた精神干渉魔法を解除させ、その反動を使い私を奴隷にしようとしていました。ですが弱かったので全て解除しました」
魔術返しを使った呪詛の一つだ。
強力な呪詛だが、残念ながら魔力はマリアーナの方が遥かに強い為完全に解除してもマリアーナを奴隷にする事は出来ないものだ、と魔術院のお墨付きを貰っていた。
「3人の干渉魔法は解除しましたが、後の2人は放置してあります」
マリアーナの言葉にユリアスがはっ、と息を呑む。
「1人の女性と2人の男性はこれからも国の為になる人達ですが、残りの2人に関しては私では判断出来ません」
マリアーナは判断出来ない、と言ったが既にその2人は、マリアーナの知らないところでクリスタルの手のものによって監視されている。
1人は学園でマリアーナが相手にしなかった伯爵令嬢。
残りの1人は元婚約者。
どちらも干渉魔法の所為で攻撃的になっているとは言えないほど、マリアーナに対して敵愾心を持っていた。
だからマリアーナは初めは見過ごし、気が付いた後は放置していた。
掛からないと分かっていてもわざわざ罠が仕掛けられている精神干渉魔法を解いてやる程お人好しでは無い。
ユーリ・ジルコン宰相閣下が怒りに拳を震わせている。
ジルコニア。
50年ほど前、ウィリアム陛下がまだ王太子殿下だった時、王国を乗っ取ろうとした悪人達が確かそんな名前だった。
我欲の為、ジルコン家を乗っ取り、イザベル王妃陛下を失脚させるだけで無く、ウィリアム陛下さえ暗殺しようとした罪で、一族は断罪され、根絶やしにされた筈だ。
その一族の生き残りとは、まさに亡霊の様ですね。
ですが、足はあるので亡霊では無いですし、既に身元は調べ上げられている様です。
「キュビック・ジルコニア?初めて聞く名前ですね」
パール公爵が冷ややかに取り押さえられている男を見る。
「こいつはジルコニアの嫡男が外で作った愛人の子供の子。嫡男の孫にあたる。本当かどうか知りませんがね」
ユーリ様が拳を握り締めながらパール公爵に正体を説明しているのですが、愛人の孫?一族再興の為に担ぎ出すにしても随分血統の怪しい人ですね。
「なるほどな。ジルコニアと決別し、努力してきたダスト家、タガー家を陥れ国の中枢に返り咲こうとしていたのか」
ウィリアム陛下の言葉に化けの皮が剥がれたキュビック・ジルコニアが歯が砕けるほど歯軋りをしている。
「我が下僕よ。敵を根絶やしにしろ」
誰に向かって言っているのだろう。
王宮の衛兵達がサッと剣に手を伸ばし、辺りを伺った。
だが、誰も動かず何も起きなかった。
「何故、我輩に力を貸さない」
ロイドの仮面が外れたキュビックが驚愕の表情でマリアーナを見た。
のっぺりした顔は驚愕していてものっぺりしている、と一瞬呑気な事を考えてしまいました。
いけない、思考がぶれてしまった。気を取り直しましょう。
「力を貸す?冗談を言わないでください。国を傾ける片棒なんて担ぐ気はありません」
マリアーナの赤紫に輝く瞳が真っ直ぐ、床に押し付けられている男を見ている。
「お前は我輩の下僕に……」
「5つのうち3つは解きましたが、残りは放置してあります」
キュビックが叫ぼうとしたが、指を3本立てたマリアーナの言葉に青褪めた。
「なんの話かな?」
ウィリアム陛下がゆっくりと壇上から降り、マリアーナに説明を求めた。
「魔法陣は、基本である五角形の星を描かなければ、如何なる強力な魔法陣も発動しません」
マリアーナが指先で簡単な五芒星を描くと、小さな光が灯った。
「この男は私に5人の人間に掛けた精神干渉魔法を解除させ、その反動を使い私を奴隷にしようとしていました。ですが弱かったので全て解除しました」
魔術返しを使った呪詛の一つだ。
強力な呪詛だが、残念ながら魔力はマリアーナの方が遥かに強い為完全に解除してもマリアーナを奴隷にする事は出来ないものだ、と魔術院のお墨付きを貰っていた。
「3人の干渉魔法は解除しましたが、後の2人は放置してあります」
マリアーナの言葉にユリアスがはっ、と息を呑む。
「1人の女性と2人の男性はこれからも国の為になる人達ですが、残りの2人に関しては私では判断出来ません」
マリアーナは判断出来ない、と言ったが既にその2人は、マリアーナの知らないところでクリスタルの手のものによって監視されている。
1人は学園でマリアーナが相手にしなかった伯爵令嬢。
残りの1人は元婚約者。
どちらも干渉魔法の所為で攻撃的になっているとは言えないほど、マリアーナに対して敵愾心を持っていた。
だからマリアーナは初めは見過ごし、気が付いた後は放置していた。
掛からないと分かっていてもわざわざ罠が仕掛けられている精神干渉魔法を解いてやる程お人好しでは無い。
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